第82話 人による

文字数 1,460文字

 フランス人って個人が確立されてるイメージがあるが、なぜか質問は「日本はどう?」「日本ではどう?」「日本人ならどう?」と聞かれる。

 そう言う時の答えは「サデポン」(場合による…)や「サデポンドゥペルソンヌ」(人による)と答える。
 まぁ、確かにそうなんだけどね。聞いた方も聞かれた方も味気ないよね。

 でも不思議と「あなたはどう?」って聞かれるより「日本人はどう?」と聞かれる事が多かった。
 なので私は日本人代表として「人による」と答えた。
 そんなわけで、フランス会話は大抵「人による」「場合による」で済んでしまう。すごく不思議だった。個性を大切にする国なのに、なぜに「日本は?」を日本人代表でもなんでもない私に聞いてくるのだろう。

 つまり日本という国にフランス人は興味津々なのだ。残念ながら日本人代表とはなれない私だけれど、出会った私が日本人だから、日本のことを知りたいのだ。自分が知っている知識とあっているのか確認したいのだ。

 なぜか布団もフランスで売られていて、その名前が「ZEN」だったりする。
「『ZEN』って…あれだよな。あの禅だよなぁ…」と布団の広告を眺めたりする。
 ものすごくふわふわの布団の広告に「禅」。
 いや、私も禅が何たるかは分かっていない。でも布団…ふわふわの布団じゃない気がする。でもフランス人には「ZEN」という言葉が人気だった。
 水戸黄門の印籠のように「ZEN」を出せば、それはエキゾチックで何だか高尚で素敵なものという認識のようだった。まぁ、私も「禅」に関しては何だか、難解で高尚なものという認識だけど。

 でも悲しいかな、私自身が禅について何も分かっていない上に、それを伝えるフランス語能力も乏しすぎる。

 フランス語が中途半端なままストップしていた。
 日常で困らない程度のフランス語だが、深い話はできない。フラストレーションは溜まっていった。もっと言葉で表現したい。
 日本語ならできるのに。もっと…豊かな表現を言語でしたい。そんな思いが募った。

「フランス語の一番の上達方法は恋人を作ること」
 …が、この方法は私には向いていなかった。もともと引きこもりな私+モテ度0
 しかしこちらから行かなくても来る場合もある。

 私の部屋に珍訪問者が二回きた。
 一度目は二人の低学年の小学生くらいの子供。ドアを開けたら、なぜか敬礼をして、一気に話しまくる。
「ポリス」という言葉は聞き取れたが、子供なので、舌足らずで、尚且つ、二人で喋り出すものだから、さらに聞き取れない。
「警察ごっこなのかな?」と思っていると、諦めて帰っていった。
 それ以来、二度と襲来しなかった。

 もう一度は四十代くらいの女性。
「変な匂いがするの。あなたの部屋じゃない?」と言われた。
 そう言われたので、ドアを開けて、匂いを確かめてもらう。しばらく私の小さな部屋の匂いを嗅いで
「違うわね」と言う。
 それで帰ってくれずに、ずっと部屋の前にいるのだから、困って、私も部屋から出た。
「変な匂いしない?」とまた聞かれたが、正直わからなかった。
 でも彼女はずっと私の部屋の前にいるので、私は「じゃあ」と言って、部屋に入るということができずにいた。この事件の切り上げどころが分からない。
 首をお互いに傾げていると、違う住人が帰ってきた。
「変な匂いしない?」とまた女性は声をかける。
 すると帰ってきた男性は
「ノン」と一言言って、階段を登っていった。

 あぁ、私もそう言えばよかったのか、と思った。

 そんな訪問者だけだったので、フランス語が伸びるはずもなかった。















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