第78話 レジで挨拶はマスト

文字数 1,268文字

 パリのスーパーのレジの人たちはあまり愛想が良くない。良くないけれど、そこで挨拶は欠かしてはいけない。日本のスーパーで店員さんは「いらっしゃいませ」と言ってくれるが、買う人が「今日は」という人は少ないだ、パリではもう絶対的に挨拶をするべきなのである。
 外人だから…とかそういう以前にそう言う掟だと言うくらいそこはきっちり「ボンジュー」と言っておくといい。
 私の最寄り駅のスーパーモノプリには黒龍会と書かれたTシャツを着たレジの女性がいた。なかなか体格が良い人で、意味が分かっていて着てそうな人がいたが、結局最後までそこには突っ込めなかった。でも挨拶をすると挨拶を返してくれる。
 できれば最後に「ボンジョルネ(イタリア語みたいね。良い一日を)」を言えたら良い。

 ごく稀に「ボンジュー」からご機嫌になって、「元気?」とか聞いてくれる人もいる。

 家の近くに小さいスーパーがあって、そこで働いている若い女性がいつもにこにこして、楽しそうに働いている。ほとんど機嫌が良くて、たまに悪いと、どうしたんだろう? と思わず心配してしまうほど、いつもにこにこ笑顔で働いている。
 その笑顔にいつも私は「偉いなぁ」と心底、感心していた。

 私の就職は「超」がいくつも重ねられた超超♾氷河期と呼ばれる時期だった。何のコネもなく、本当に毎日毎日、大学も行かずに就職活動をし続け、勝ち取った職だったが、少しも楽しそうに仕事をしたことがなかった。今思えば罰当たりなんだけれど、少しも楽しく働けなかった。
 お給料が出ないとか、残業代が出ないとかではなかったが、印刷会社なので、夜遅くまで仕事がある。家と会社の往復で毎日が消費されていて、楽しいと思って働いていなかった。
 そもそも選んだ基準がきっちりお給料とボーナスが出るところ、という基準だけだった。
 内容もまぁ、考慮はしたが、それよりも「金、金、金」と言う感じだった。
 だからお給料はそんなに高くもないが、低くもなかった。ただ、私の心は少しも楽しくなくて、いつもブツブツ文句を言っていた。

 でもフランスで働いている人たちが楽しそうか、というと、そうでもないのだけれど、でも近くのスーパーの若い女性には「楽しく働いても、つまらなく働いても同じでしょ? だったら楽しく働きましょ」と言う感じを(勝手に)受けた。

 次は本当に心から、どんな職種であれ、心から自分がしたい職業をしよう、と思った。
(まぁ、言うて、そう簡単には行かんのだけどね)

 パリではいろんな人が働いている。でも彼らの優先順位はお金ではない。だからこそ、効率が良くないのかもしれないけれど、人生の楽しみを知っている。
 老後も無理に働く必要はないらしく、国からの補償があるので、リタイヤを楽しみに働いているらしい。
 バカンスは最低一ヶ月。
 それが生きがいらしくて、パリの八月は閉まってしまう店もある。
 フランス人ができるんだから、日本人だって一ヶ月休むことはできないんだろうか、といまだにそれは疑問なんだけど。

 フランスに来て、私は人生の優先順位が入れ替わった。










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