第1話 パリオペラ座で

文字数 715文字

 今から約二十年前のパリオペラ座の前で。
 私は友人の智子と待ち合わせをしていた。

 通貨はユーロではなくフランだった。確か翌年ユーロとフランと通貨が流通する年だったと思う。スマホもない時代。私は携帯を持っていたが、智子は持っていなかった。当時、私はトゥールの語学学校にいて、智子は南仏の語学学校にいた。私たちは日本の語学学校で知り合い、フランス語を習いながら「いつか絶対、フランスに行く」と毎週のように語り合っていた。本当に飽きることなく、毎週、毎週、レッスン後に「フランスに行きたい」ということだけを延々と語っていた。内容は、ほぼ「行きたい」ということだけ。

 そんな彼女とパリで部屋を探すことになったので、オペラ座の駅で待ち合わせをすることにした。季節は秋だったと思う。ただ日時と場所を合わせて待ち合う古典的な方法で待ち合わせることにした。

 地図を見ながらオペラ座の駅に歩いて向かい、駅を探したのだが、私はオペラ座の駅が分からなかった。キョロキョロ見渡しても、入り口らしきものがわからない。

 道行く人に辿々しいフランス語で訪ねる。
「オペラ座の駅はどこですか?」
「ロペラ?」と訝しげな顔をされた。
「地下鉄のオペラ…」
「オ ミリュ!(真ん中よ)」
 大きな口を開けるように地下に降りる階段が堂々と目の前にあったのに、全く気がつかなくて、私も道を教えてくれた人も思わず笑ってしまった。

 パリは魅力的な街だった。人も建物も。全てが好きだった。

「綾ちゃーん」といつものように笑顔で手を振る智子がいる。
 パリの真ん中で、私たちは無事再会できた。

 二人とも念願かなって、フランスに来て、そして再会できた。初めて語学学校で会ってから二年経っていた。



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