第46話 パリの日本人経営語学学校

文字数 1,655文字

 二週間だけ、パリの日本人経営の語学学校を取った。あまり間が空いてると滞在許可書が降りないかも知れないと繋ぎのつもりで取った学校だった。

 繋ぎでもお金を払っているので、通うことにする。ここの学校は学校名を出してもいいのだろうけれど、パリで日本人経営といえば一つしかないし、まぁ、面倒なので出さないでおく。日本人の女性が校長なのだが、とても綺麗なフランス語で話される。電話で会話テストをトゥールで受けた時はフランス人と同じように聞こえた。

 そして私は夏のトゥールの講習で知り合った人とその学校で出会ったのだが、思わず日本語で話していたら、校長に「パルレ フロンセ(フランス語で話なさい)」ときつめの指導を受けたが、それはすごくいいと思った。せっかくフランス語の学校に来ているのに、日本語だと意味がないからだ。

 偶然会うくらいだから日本人が多い。下のクラスになればなるほど、日本人の生徒が多い。私は中級クラスにいたので、日本人は元スッチーの女性だけだったような気がした。(ちょっと記憶がない)あとはイギリス人医師、日系ブラジル人、他にもいたのだけれど、少人数制だった。ピエールという男性が先生だった。ピエールとはフランス人に多い名前らしい。

 日系ブラジル人の女の子は英語の先生をしているらしく、知っている日本語が「ありがとう、こんにちは、さようなら、便所」だった。
 おじいさんとお婆さんは日本語を喋れるが、お母さんの代はちょっと喋れるらしく、自分は喋られないと言っていた。お父さんがブラジル人らしくハーフなので、日本人とは少し顔立ちも違う。彼女は私と仲良くしてくれて、一緒にナイトクラブに出かけたこともある。

 ピエールは日本人に慣れているのか、日本人が分からなくても分かったふりをするのを知っていて、よく私は確認された。
「サンディカ 意味分かってるの?」としつこく聞かれた時はちょっと面倒臭いと思った。
「もちろん、知らなかったけど、彼が(イギリス人医師)英語でユニオンって言ったから分かった」と言うと、イギリス人医師が申し訳なさそうな顔をした。
 それでようやくピエールは納得してくれた。面倒臭いけれど、でも語学学校の先生としては優秀だと思う。

 年明けはフランスではセールをする。どんなブランドも安くなる。百貨店も大賑わいだ。
 語学学校あるあるなんだけど、「今日は何するの? 昨日は何したの?」を毎回のように聞かれる。
 その日は特に無かったので私はセールでも見に行こうかな、と言った。
 するとイギリス人医師が「それは馬鹿げている。安いからと言って買うなんて無駄遣いだ。高くても本当に欲しい時に欲しいものを買うべきだ。僕はそれで破産したことがある」と言ってきた。
(まぁ…そうだけど。ヘビーな話ぶっ込んだ?)と私が妙な気持ちで納得しかけた時に、日系ブラジル人が立ち上がった。
「男って、本当分かってないわよね?」
 何を言い出すんだ? と思っていると、ものすごく素敵なことを言った。
「女はね? 買い物が楽しい生き物なの。別に買わなくても、見てるのも楽しいの。買っても楽しいのよ? 男には分からないわよ」
 今だったら違う方面からなんか飛んできそうだが、私はその時の彼女が輝いて見えた。
 なぜなら、フランス人は当時「日本人がブランドを買い漁りにきている」と思っている人も多かったし、実際そうだったから。なんとなくお買い物に後ろめたさみたいなものを感じていた。

「お買い物、楽しんで何が悪い?」と堂々と言い放つ彼女は何かの解放軍の戦闘を切るような神々しさまで感じた。
 そんな彼女はベルトを買いたいと言っていたけれど。

 今でも時々、あの言葉を思い出す。
「女はね、買い物が楽しい生き物なのよ」
 今ならジェンダー問題で引っかかるかも知れない。それでも私は気にせず、何度も繰り返す。
「お買い物は楽しい時間なのよ」
 付け加えるのなら「男も女も」になるかも知れない。

 まぁ、買い物嫌いな人もいるだろうけれどね。パリはやはりショッピングは魅力的。




















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