第94話 パリでも日本を

文字数 1,655文字

 二十年前なので、今とは全然違うと思いますし、その上、筆者の頭がポンコツになっていて、店名が一切思い出せないというオカルトチックなお話でございますが。

 その昔、パリには日本語で書かれた、日本人のための情報新聞が二種類ほどございました。オブニーともう一つ名前忘れた(酷すぎる)新聞。滞在している日本人にお役立ち新聞です。
 お店広告にはいろんなお店がありますが、目を引くのはパリでも日本のキャバクラを経営しているお店の広告。
「男を上げろ(あと忘れた)」と堂々と謎なキャッチコピーが書かれており、店名は一切記憶にございませんが(光源氏? とかそんな感じだったような?)日本ではあり得ないような名前だった気がします。検索したものの謎のまま…。
 お店で働く女の子たちには音楽留学をしたものの、生活費、レッスン代等、金策に働く子たちが多いと聞きました。
 音楽留学している日本人は多く、私の友達のMちゃんもそうでしたけれど、その他にもたくさんおりました。一度、Mちゃんとキーシンのピアノコンサートへ行く時に、Mちゃんの知り合いのピアノ留学している女性にメトロで会いました。ちょっとなんかバチバチしていた気がして、私にまで「何の楽器?」と言う質問が飛んで来ました。
「私、ただの絵描きのなりそこないでございます」と言うと、一気にバチバチ感が消えて、本当に優しい笑顔を向けてくださいまして、それでホッとしつつも、さらに恐ろしい気が後からしたことがございましたけれども。
 そんなこんなで、音楽留学も大変だなぁ、と思ったことがございます。

 日本のキャバクラがそのままパリにあるという不思議ですが、駐在員も多く、使われる方も多いそうです。まぁ、私は行ったことないですけれど。

 後、日本の古本のお店もありました。小さな店ですが、留学生が帰国する時に置いて帰るそうです。私はその店を知るや否や、喜んで参りました。そこには私の大好きな原田康子さんの本があると睨んだからです。彼女の本は絶版ものも多く、私は手に入るものは手に入れておりましたが、なかなか手に入らないものもありました。もしかしたら、フランスだと残っているかもしれない、と胸を高鳴らせて出かけました。
 果たして私の欲しい本は嬉しいほどございました。フランスでまさか恋焦がれていた原田康子さんの文庫本を手に入れることができるとは…。あぁ、これを読んで、パリに置いてくださった方、ありがとうございます。買って帰ります。
 古本だからか、お安く提供してくださいました。

 そしてもう一つ、日本食材店でございます。オペラ座ともう一つ違う場所にあり、なかなか行きにくい場所なのですが、いい店主が経営しているとあって、たまに出かけました。納豆、味噌などを買いたくなり、そこへ出かけます。納豆も一パックそんなに高くなかった気がします。(私が買えたくらいなので)
 色々吟味し、結局、上記意外のものは買わないのですが、私を不憫に思ったのか、冷凍の回転焼きを店主は丸々一パックプレゼントしてくださいました。
(ご存知の通り、電子レンジはございませんが、この店主のご厚意をなんとしてでも食べようとフライパンで極弱火で頑張って温めたものです。)
 あの時の回転焼きの美味しさは名店「御座候」をきっと超えておりました。なんせ私は粒あんよりこし餡派でしたが、美味しさに胸が詰まった覚えがございます。

 そう言うわけでパリでは日本という文化に触れることができ、また異国で知り合う日本人はとても親切な方が多かったです。中にはトラブルに出会った方もいらしたようですが、私は本当に親切にされて、異国の地で、同士にされた優しさはことのほか身に沁みたのです。

 パリの生活は花が溢れ、マルシェの活気、一流ブランドと華やかでございますが、その片隅で日本人が日本の文化を守っていけるようなお店がひっそりとございました。
 そうして助け合いのような気持ちが自然と生まれて、そういう優しさに触れ合うことができたのもパリだったから、だと思います。










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