第49話 初パリの思い出

文字数 2,038文字

 初めて海外旅行したのはパリだった。大学生でアルバイト代を貯めて、飛行機、ホテル、ホテル送迎だけついてるパッケージで、中はフリーだった。
 私はゴッホが好きだったので、彼はオランダ人だったけれど、フランスで画家として活動していたので、パリにも作品がたくさんある。それ以外でもパリには美術館がたくさんあるので、パリだけの美術館でも数日では全部、見て回るのは難しい。

 一緒に行った友達は高校の時の友達、溝口さん。彼女は違う大学だった。ミゾ(というあだ名だった)はフランス語を第二外国語としていた。私はドイツ語だった。ミゾはフランス語の先生にどこに行ったらいいかとか、あれこれ聞いていたのだが、「一緒に食事しましょう」と言ってもらったので、私も? いいのかな? みたいな感じでフランスで一食だけ、ちゃんとしたフランス料理が食べれる目処が立って喜んでいた。
 しかし突然、その先生がダメになり、申し訳ないので、違う先生、ムッシュークサカ(仮名)もちょうどパリにいるから…と、その先生が案内してくれるとかなんとか…そういうことになった。私はもちろん知らないし、ミゾも会ったこともない先生だった。

 ムッシュークサカは国立大学フランス語学科卒業だということで、真面目な人なのだろうか、と想像していたが、なんだか不思議な雰囲気の人間だった。
 髪の毛はホワホワしていて、体は細くて、あまりおしゃれではない。待ち合わせ場所はカルチェラタンだった。

「あの人かなぁ」

「あの人かも…」

 全く知らない同士だったけど、先生からの ご紹介なので、ブッチするわけにも行かず、おずおずと近づいてみる。その本人だった。そして街の食堂みたいなところに連れて行ってくれた。

 それまでの私たちの食事は燦々たるものだった。固いフランスパンのサンドイッチに辟易し、ホットドッグがある、と喜んで注文したものの、それはやはりフランスパンで作られて、チーズがかかっていて、固いパンが嫌だったから注文したのに、またフランスパン…。
 もうパンは嫌だ、とサラダをテイクアウトした時に
「何のドレッシング?」と聞かれ
(何のって…何があるの? 聞いたところで、何言ってるかも分からないし。フレンチドレッシングとかってフランスにあるの? 和風ドレッシングとかってあるの?)
「ノン(いらない)」
「え? いらないの?」
「ノン」と断り、葉っぱ味を堪能することに。
 公園で私はサラダを食べながら、フランス語ができないと何もできない…としみじみ思った。

 ホテルが朝食付きだったから、その時に食べれる茹で卵に癒される日々だった。

 だからムッシュークサカがどんなレストランでも連れて行ってくれるのなら、まともなものが食べられると喜んでいた。

「僕、あんまりお腹すいてないんだよねー」とのっけから言われてしまう。
(私たちは、今日は美味しいもの食べれると思っていたのに)
「高級レストランと安いレストランの見分け方、わかる? テーブルクロスが布なら、高級、ビニールなら安いところ」と教えてくれたが、目の前のテーブルはまさにビニールクロスだ。
 反応に困る。
 で、頼んでくれたのはムール貝の白ワイン蒸しとフレンチフライ。
「これ、量が多いからみんなで分けよう」と言われた。
 まぁ量は多いけど…。
「パンはおかわりできるから」と嬉しそうだった。
 ムール貝…とってもおいしかった。
 ムッシューはいろんな話を一人でしている。
 私は他所の大学とかドイツ語選択してるとか、もう二度と会わないから自己紹介しなくていいか、と思って適当に相槌を打っていた。

「ところで、明日、どこ行くの?」と聞かれた。

 そう。私はゴッホのお墓があるオーヴェルシュルオワーズに行こうと考えていた。
「ゴッホのお墓があるオーヴェルシュルオワーズに行こうと思ってます」と答えた。
 きっと、ルーブルとかオルセーとか言ったらこんなことにならなかったのかな…、と後から後悔した。
「オーヴェルシュルオワーズ? ふーん。オーヴェルシュルオワーズねぇ…。ふーん」
 嫌な予感がした。
「行ったことないんだよねぇ」
(…ん? まさか)
「一緒に行こっかな」と聞こえた。
 フリーズ。
「一緒に行ってもいい?」
 断れない…。
 かくして初めて会った、謎のフランス語の先生、ムッシュークサカと地方へ一日日帰り旅行が決まった。
「何時に行くの?」と前のめり気味で聞かれる。
「え? まだ決めてません」
「朝からだよね? あ、でもあんまり早いと…困るんだよね」とご自分の予定をしっかり伝えてくれる。
「あ…そうですか(早いって…何時?)9時半とか…十時とか」
「あー、それならちょうどいいや。ホテルどこ? 迎えに行くから」
(逃げられない…やつ)

 予定を決めて、カルチェラタンで別れた。
「ごめんね」とミゾが謝る。
「え? なんで謝るの。…ちょっと…変だけど。まぁ、電車も乗るし、いてくれてよかったかも?」

 次回、ムッシュクサカと珍道中。
予告「私の…カメラ」をお楽しみに


























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