文字数 1,152文字

   Ⅰ


 入江霧子はその日も、全身を分解されるような気分を味わっていた。
 実際そのとおりなのかもしれない。

 こうして政府主導による専用の検査を受けるのも、もう何度目になるだろうか。当然この医療施設を管理しているのは全員が政府関係者……それも<アウターガイア>に関する諸々の事情を知っている人間だけだった。

 血液検査にはじまりCTスキャン、脳波測定。各種内臓器系の疾病の有無について調べられ、担当医師による問診と心理カウンセリングまで受診する。
 健康そのものであるにも関わらず、文字通り痛くもない腹をさぐられるようなスケジュールを一日をかけてこなしていかなければならない。

 さらに前泊と食事制限まで強いられている。飲まず食わずのまますでに丸一日が経とうとしており、さすがの霧子も空腹でふらつく思いだった。
 おまけに健診衣は前後に布をあてがっただけのような代物で、これを着て院内を移動しなくてはならない。中途半端な格好をするくらいなら、いっそ素っ裸になったほうがましだった。

 こうした月一の検査を受けるたび、霧子は自分の身体の中が覗き込まれるにとどまらず、分解されているような心持になるのだった。
<グレイヴァー>全員に義務づけられているわけではない、入江霧子が……彼女自身であるが故に受けさせられるものだった。

 すべては、この忌々しい身体であるがために。

「お疲れ様です」

 すべての検査を終え、控え室でぐったりとしている霧子にコップが差し出される。顔を上げると、今回の検査につきっきりで立会い、彼女の検査結果をデータにまとめていた病院職員が立っていた。

「ありがとう、そっちも大変だったな」言いながら受け取ると、中には濃い色のオレンジジュースが入っていた。「またこれか?」
「はい、ブラッドオレンジジュースです。今回も採血でお疲れでしょうから」
「おたくらのその独特のセンス、見直したほうがいいと思うぞ。面白いと思ってるのは身内だけだからな」

 文句を言いながらも、霧子はジュースをすするように飲んだ。なんにせよ、空きっ腹を抱えて疲れた身体にはありがたい。

「ところで、今回の結果は?」
 職員は手にした端末を操作しながら、「そうですね、身長は先月と変わらず百四十五センチです。体重は……お聞きになりますか?」

 デリケートな問題だといちおうは配慮してくれているのだろう。霧子はその心配りに苦笑しながら手を振った。

「いや、そっちも同じ結果なんだろう?」
「ええ」

 職員は簡潔に答えた。彼女に限らず、院内の人間はいずれも霧子に対して礼儀正しく接してくる。
 そうした態度からは敬意ではなく、ある種のよそよそしさを感じさせた。

「相変わらず成長の見込みはなし、か……」霧子はひとりごちた。「まあ、いまの身体ほうが動きやすくはあるがな」
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