19
文字数 684文字
霧子と怪物の戦いを目の当たりにした勇三の顔は上気し、胸は高鳴っていた。
それは後ろ暗く凶暴な高揚感で、不良生徒を退けたり、ヤクザを殴り飛ばしたときなどに味わう気分を、千倍も濃くしたような感覚だった。
怪物が引き裂かれ、血を流すのを見るたびに身体の芯が熱くなり、性欲にも似た原始的な衝動が駆り立てられた。彼の理性はもはやその引力にすっかり魅了され、我を忘れかけていた。
もっと近くで見たい。
その欲求に抗えずにふらりと立ち上がると、勇三は熱に浮かされたような足どりでビルとビルのあいだから進みでた。
怪物の亡骸に佇む霧子がこちらを向く。先ほどの冷厳さは消え去り、視線にはもとの人懐っこさが戻っていた。
しかしその直後、彼女の視線が勇三の背後に留まり、灰色の目が見開かれる。
「勇三! 逃げろ!」
霧子の叫びに勇三は我に返ったが、すでに遅かった。
まるでトラックにでも追突されたような衝撃が突き抜け、次の瞬間には身体ごと宙へと放り出されていた。
乱気流にみまわれたようにきりもみする視線の端に、勇三は茶色の鱗に覆われた巨体を見た。その正体を理解するよりも先に、彼は地面に叩きつけられた。
身体はぴくりとも動かなかった。こめかみからゆるゆると生温かいものが流れ出し、地下世界の天を向いた耳の中へと溜まっていく。
やけにはっきりと映る横向きの視界の中、霧子が歯を剥きながら宙を睨んでいる。
(そうか……)勇三は思った。(もう一匹いたんだ)
霧子がスカートの中から出した新しい弾倉を銃にこめる。その顔に焦燥と怒りがにじんでいるのを見届けるようにして、勇三の意識はぷつりと途絶えた。
それは後ろ暗く凶暴な高揚感で、不良生徒を退けたり、ヤクザを殴り飛ばしたときなどに味わう気分を、千倍も濃くしたような感覚だった。
怪物が引き裂かれ、血を流すのを見るたびに身体の芯が熱くなり、性欲にも似た原始的な衝動が駆り立てられた。彼の理性はもはやその引力にすっかり魅了され、我を忘れかけていた。
もっと近くで見たい。
その欲求に抗えずにふらりと立ち上がると、勇三は熱に浮かされたような足どりでビルとビルのあいだから進みでた。
怪物の亡骸に佇む霧子がこちらを向く。先ほどの冷厳さは消え去り、視線にはもとの人懐っこさが戻っていた。
しかしその直後、彼女の視線が勇三の背後に留まり、灰色の目が見開かれる。
「勇三! 逃げろ!」
霧子の叫びに勇三は我に返ったが、すでに遅かった。
まるでトラックにでも追突されたような衝撃が突き抜け、次の瞬間には身体ごと宙へと放り出されていた。
乱気流にみまわれたようにきりもみする視線の端に、勇三は茶色の鱗に覆われた巨体を見た。その正体を理解するよりも先に、彼は地面に叩きつけられた。
身体はぴくりとも動かなかった。こめかみからゆるゆると生温かいものが流れ出し、地下世界の天を向いた耳の中へと溜まっていく。
やけにはっきりと映る横向きの視界の中、霧子が歯を剥きながら宙を睨んでいる。
(そうか……)勇三は思った。(もう一匹いたんだ)
霧子がスカートの中から出した新しい弾倉を銃にこめる。その顔に焦燥と怒りがにじんでいるのを見届けるようにして、勇三の意識はぷつりと途絶えた。