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文字数 1,142文字

「つぎはこっちだ。武器を渡そう」

 勇三はトリガーの先導で店の端、トイレや四人がけのテーブルがあるほうとは反対側の上がり口へと歩いていった。

 靴を脱いであがった先は、日に焼けた畳が敷かれた広さ三畳ほどの和室だった。
 部屋には卓袱台、十九インチほどの薄型テレビ、背の低い納戸などが置かれており、店内と打って変わって生活感のある空間だった。
 しかしその卓袱台の上に乗っていたのは、日常とはかけ離れた異様な物体だった。

「こいつはM4カービンだ。入手経路は訊くな」トリガーが卓袱台に乗った黒いライフルを見ながら言う。「最高とは言えないが、手に馴染みさえすればなかなか悪くないぞ」

 促されるままに手をのばし、勇三はライフルの銃把をつかんだ。意外にも軽い。心理的な要因だろうか、昨日霧子から渡された拳銃のほうが重く感じる。

「これは?」次に勇三は、同じく卓袱台に置かれていたグローブを指した。
「衝撃共振装置を内蔵したグローブだ」首を傾げる勇三にトリガーが続ける。「グラスに声をあてて割るのを見たことはないか?」
「なんとなくは……」
「原理は大体同じだ。そのグローブに内蔵された装置が衝撃時に対象と共振し、分子の結合に影響を与える。早い話、それをつけて相手を殴れば威力があがるわけだ」
「なるほどね」
「気をつけろよ。衝撃が大きすぎると、グローブの指向性がトランスして……つまり自分もショックを受けるからな」

 それから勇三はひと通りの説明を受けながら、装備を身に着けていった。
 レギオン相手では無いよりましと言った程度の防刃ベスト、弾倉や無線機の本体と、それを収納するポーチ付きの帯革。

「こんなもの、いままで見たこともないな」ライフルを担いだ勇三は、右手にはめたグローブを見つめながら言った。
「必要さえあれば、人間の文明はいくらでも進歩するものだ。人類の文明を大きく進めた発明にはどんなものがあると思う?」
「バイク、かな……」
 勇三の答えにトリガーは静かに笑うと、「たしかにあれもまた偉大な発明だ。速くて、なにより小回りがきく。ほかにも大きな功績を残した文明や発明は歴史上いろいろあるだろう。だがな、おれが考えているのはもっと違うものだ」

 眉をひそめる勇三に、トリガーはどこかいたずらっぽい視線をむけた。

「鉄と車輪と火薬だよ。これらは戦争によって更なる進化と発展を遂げた」
「この武器なんかも、化け物と戦うために発明されたって言いたいのか?」
「そうだ」

 その答えに、勇三は眉間のしわがさらに深くなる。

「気に入らないか? まあそれでもいいさ。 どんな考えがあろうとも、使い方さえ間違えなければ武器はおまえの命を守ってくれる」
「どっちでもいい、ただやるだけだ」
「頼もしいな……よし、それじゃあ依頼の説明に入ろうか」
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