文字数 1,125文字

 レギオンが<アウターガイア>を抜けて地上へと乗り出し、勇三たちの高校を襲ってから一週間が経とうとしていた。

<グレイヴァー>として目の前に姿をあらわした輝彦に対して、勇三は会話をするどころか目を合わせることもできなくなっていた。
 相変わらず休み時間に四人で集まっては雑談で暇を潰していたが、勇三は暗に輝彦と話すことを避けていた。あれだけ短く、少ないとさえ思っていた授業と授業の合間を途方も無く長く感じ、息苦しさすらおぼえていた。
 自分の態度がおかしいことに、そのうち啓二と広基も気づくかもしれない。そんな予感が勇三を慄くような気持ちにさせていた。

 普段はあまり歓迎できないサエと友香の横槍すらも、いまの勇三にとってはありがたかった。人数が多ければ、もとより口数の少ない自分が水を向けられる確率も低くなるからだ。

 ところでサエと友香だが、校内襲撃のあと<特務管轄課>の医療班兼調査班の手によって学校から連れ出された。搬送先は当然、政府の息がかかった病院だった。ふたりはそこで二日間入院した。
 学校に復帰したサエの額にガーゼが貼られているのを見て、勇三の胸はずきりと痛んだ。あの傷は自分が駆けつけるのが遅れてできたもの、そう思えたのだ。

「わたしも友香も、いきなり倒れたみたい。先生には高熱出したって言われたんだけど、よく覚えてないんだよね」退院後、学校の昼休みにサエは勇三たちにそう話した。「勉強疲れでも出たのかな。それとも季節の変わり目ってやつかも」
「いまはもう大丈夫?」
 訊ねる輝彦にサエはどこか照れたように俯いて手を振ると、「うん、もう平気。転んだときに頭を怪我しちゃったみたいだけど、それくらいかな。心配してくれてありがとう」
「とにかくふたりとも、無事でよかったよ」

 何気ない輝彦の言葉には、勇三にだけわかるふくみがあった。
 そこにどんな意図があろうと、勇三はそれを挑発のようにしか受け取れなかった。たとえ輝彦から他意は無いと弁解されたところで、信じられそうにもなかった。

 そこにはやっかみのような感情もあったのかもしれない。本当は勇三も、直接サエと友香に声をかけたかったのに、そうできなかったからだ。
 のしかかる自責の念を無視して話しかけられるほど無頓着ではいられなかったし、輝彦がこちらを窺ってくるような様子も伝わってくる。
 そうした板挟みのなか、けっきょく勇三は手をこまねくことしかできなかった。

 レギオンという存在が自分の生活圏にまで忍び込んできたことで、それまでどうにか保ち続けていた日常いう概念は歪みはじめていた。そして輝彦が<グレイヴァー>であるという事実によって、いよいよ壊れようとさえしている。
 勇三にはそう思えてならなかった。
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