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文字数 650文字

 背中を押される感触で、勇三は飛び上がるように目を覚ました。

「ああ、すまん。起こしちまったか」

 振り仰ぐと、開いたドアの隙間からヤマモトがこちらの様子を窺っていた。どうやらそこにもたれたまま、いつのまにか眠ってしまったらしい。

「まだ本調子じゃないらしいな」立ち上がる勇三の顔色を見るなり、ヤマモトは口の端を持ち上げた。「ちゃんと横になって寝てろよ。二時間後、また巡回に入ってもらう」
「いや、もう戻るよ――」

 傍らのライフルを拾い上げようとするのをヤマモトが止める。

「いいからまだ休んでろ。そのあとはぶっ続けで六時間は働いてもらうんだからな」
「いま何時なんだ?」
「じきに夜明けだ」ヤマモトが手首の文字盤に視線を落として言う。「もっとも、こんな地面の下じゃあまり関係ないか。とにかくゆっくりできるのはこの二時間きりだ。食うなり寝るなり、しっかり休んどけよ」
「ヤマモトさん」閉じかけるドアに向かって勇三は声をかけた。「あの、ありがとう……」
 ヤマモトは閉じかけたドアの隙間から苦笑を覗かせると、「よせよ。馴れてないんだ、そういうの」

 じゃあな。そう言い残されてドアが閉じると、ひとり残された勇三は鼻の頭を掻いた。ヤマモトと同じように、彼もこうして誰かにあらたまった礼を言うことに馴れていなかった。

 部屋を進み、床に直接敷かれたマットレスに横たわる。
 多少の休息はとれたし、神経が昂った状態ではまた眠ることは不可能だろう。
 そんな予想とは裏腹に、勇三は埃っぽいマットレスに包まれた途端、また眠りに落ちていた。
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