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文字数 1,081文字

 切り出された言葉に面食らったものの、勇三に思ったほどの衝撃はなかった。店にいる輝彦の姿を見たときから、おおよその予想はついていたからだ。

「トリガーさんと霧子さんから許可はもらってある。ただし全員一致が加入の条件だそうだ」
「あとはおれの肚次第ってわけか……ふたりはそれでいいのかよ?」
「人手が多いに越したことはないからな」と、トリガー。
「おまえが来るあいだに輝彦から色々と聞いてな」次いで霧子が口を開く。「そこでおまえの友達だってことがわかった。<グレイヴァー>になった理由は訊いてないし、訊くつもりもないが、わたしたちとしてもおまえの知り合いがそばにいてくれるのは心強い。特に所属しているところも無いそうだし、ならいっそうちに来てもらおうかと思ってな」

 話の理由を理解こそできたが、とても納得できそうにはなかった。霧子の説明も耳を通り抜けていくだけだった。
 勇三はふたたび苛立ちをおぼえていた。

「おれは、いやだ……」からからに乾いた口をこじ開けるように勇三は言った。
「勇三……」
「だって、そうだろ。おれたちは化け物相手に殺し合いをしてるんだぞ。これまで危険な目にも沢山遭ってきた。それでもなんとか死なずにいられたのは、霧子とトリガー、おまえらがいたからだ。おまえらふたり、化け物殺しのプロがな……けど、輝彦は違う。本人がどう思ってようと、おれにとってこいつは<グレイヴァー>なんかじゃない。一緒の学校に通って、一緒に馬鹿やってる、ただの友達のひとりなんだ。知り合い同士で心強いだって? おれはいやだ。輝彦がおれのせいで危険な目に遭うなんて、そんなのごめんだ」

 言い終えた勇三は頭をがしがしと掻きむしった。思いがうまく言葉にできなかったし、自分が本当はなにに対してこんなに腹を立てているのかもわからなかった。
 輝彦が勇三の「非日常」の領域にずかずかと踏み込んできたからか。そんな輝彦に対して霧子たちが親しげだったからか……もしかしたらそんな嫉妬めいた感情もあるのかもしれない。

 そんなあやふやな情動のなか、勇三の脳裏に浮かんでいたのはヤマモトたちの姿だった。

 自分の身を守るため。トリガーから受けた訓練は、すべてそのために積み重ねられていた。だがもしも、自分と友人の命が同時に危険にさらされたとき、勇三はどちらを選ぶべきなのかはわからなかった。
 あの丘の上での死闘がその好例だ。そして大抵の場合、決断を下すまでに許される時間はあまりにも少ない。

 心の奥底でふつふつと燃えていたのは戦意や苛立ちだけではない。
 不安を感じていたからこそ、勇三の心は炎に包まれていた。
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