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文字数 1,317文字

 広場に着くまで二分もかからなかった。

 駆けつけて最初に見たのは、見張り台の上で佇むヘザーとドーズ、そして通信室から駆けつけたのだろう、肩で息をきらすヤマモトの後ろ姿だった。
 勇三はライフルのストラップを肩にかけると、彼らと同じように見張り台をのぼった。

 傍らで唸る発電機のエンジンが送る電力で、サーチライトが暗闇から切りだした光景に息を呑む……フェンスの外側、丘のふもとへと通じる最初のカーブの手前で、三人の男たちが倒れていた。あちこちが切り刻まれた身体から流れ出した血が、地面を赤く染めている。

 思わず隣に立つヤマモトの横顔を見たが、彼はこちらに視線を向けもしなかった。
 カーブのほうへと視線を戻した勇三は思わず硬直した。事切れていたように思えた三人が、もがくように身をよじったのだ。
 同時に、いちばん手前にいた人物があのスキンヘッドの男だということにも気づいた。鈍い動作でこちらに腕を伸ばしてくる彼の両脚は、膝から下をズボンの裾ごと切り落とされていた。傍に転がる脛の部分が、まるで切れ味のいい斧かなにかの一撃を受けたようにきれいな断面を覗かせて転がっている。

 スキンヘッドの男が地面に手を着き、押し上げるように身を起こす。地面の血溜まりがその面積をさらに広げたが、恐怖に駆られたその表情が痛みをまったく意に介していないことを物語っていた。
 男が発している言葉の内容を勇三はもちろんのこと、英語を話せるヤマモトたちもわからなかっただろう。それでもその場に居合わせた誰もが、その意味を理解していた。
 彼は助けを求めていた。

 スキンヘッドの男の声に呼応するように、ほかのふたりの男たちにもよりはっきりとした動きがあった。ただしそれは、死に瀕した弱々しいものだった。
 片腕を切り落とされたひとりは残ったもういっぽうの手で地面を撫でるだけだったし、もうひとりは配線がショートした機械のように不規則な痙攣を繰り返すだけだった。

 三人から視線を据えたまま、勇三がフェンスに手をかける。

 それを止めたのはヤマモトだった。彼は勇三の肩に手をかけると力任せに引っ張った。そのまま後ろに倒れ、足場の上に背中から叩きつけられる。

「なにするんだよ!」起き上がりながら勇三は言った。「三人ともまだ生きてるんだ! いますぐにでも――」
「まだそこにいるんだ!」ヤマモトが闇を指差しながら言う。「レギオンが獲物を生かしたままいなくなると思うか? まだいるんだよ。じゃなけりゃ、おれたちだって助けに行ってる」
「でも……」

 言葉にしたものの、勇三はそれ以上ヤマモトに抗おうとしなかった。彼の言葉には説得力があったし、正直なところ引き止められたことには安堵すら覚えていた。

 弱気が覗きそうになった勇三は、それを打ち消すようにすぐそばのサーチライトに飛びついた。ヤマモトの制止を無視して、舐めるように負傷者たちのまわりに光を向ける。
 レギオンの姿だけを探していたというより、取り残された彼らの助けになるものを見つけたかった。

 そうして勇三が闇から浮かび上がらせたのは、スキンヘッドの男の班に所属する四人目のメンバーと、それを抱きかかえるようにして立つレギオンの姿だった。
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