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文字数 1,068文字

「世界を変えるとか、よくわかんねえけど……うん、まあ権利っていうのはよくわかる。というより、ここで手に入れられたものって言ったほうがいいのかな。そりゃ、化け物なんかと殺し合うなんていまでもごめんだ。<グレイヴァー>になって普通に働いたんじゃ稼げないほどの金も手に入ったけど、失ったものや嫌な思い出もたくさん増えた」

 勇三はそこで言葉を切ると、空……<アウターガイア>では見られない開かれた空を見上げた。快晴とは言えなかったが、小さな雲が浮かぶことでかえって陰影がはっきりとした、美しい夕焼け空だった。

「それでも思うんだ。おまえらに会えてよかったなって……」

 仲間たちからの返事は無かった。たったいま自分が言ったことへの気恥ずかしさと場の沈黙も相まって、勇三は眉をひそめた。
 三人とも言葉は発さなかったものの、笑みを浮かべていた。犬のトリガーですら、はっきりとした笑顔だった。

「なにがおかしいんだよ?」
「いや、めずらしいと思ってさ。いやに素直じゃないか」と輝彦。
「それにずいぶんと丸くなったもんだ」トリガーも続く。「あれだけ生意気なはねっ返りがな」

 思わず霧子を見る。彼女にいたっては言葉すら発さず、肩を震わせてくっくと息を漏らしていた。勇三が見守るなか、それが突然大きな笑い声に変わった。

「な、なんだよ」

 あまりにも快活な霧子の笑いに、勇三は怒りよりも困惑を覚えていた。見ればトリガーと輝彦も、霧子と比べれば控えめながらも、笑顔を大きくしている。

 ようやく笑いの発作がおさまり、目に浮かんだ涙をぬぐう霧子からは、さきほど<サムソン&デリラ>で見せていた弱りきった表情が消えていた。それを目に勇三からも困惑が消え、口の端に笑みをたたえた。

「いまの言葉、忘れろと言われても忘れられないな」霧子は言った。「けど、わたしも同じ気持ちだ。ほかのふたりもそうかもしれないがな」

 訊ねるように視線を向ける霧子に、トリガーは頷いて応えた。

「勇三がもう一度同じことを言ってくれれば、間違いなく覚えてられそうだ」輝彦がいらずらっぽくそう言った。
「ああ、もう! 言って損したよ!」勇三は声を張り上げたあと、三人を追い越して先を急いだ。「ほら、もう暗いし帰ろうぜ」

 どこへ帰るか、とは言わなかった。そんなことは勇三を含めた全員が承知していたことだからだ。

 四人はふたたび歩きだした。
 やがてこの陽も没し、世界にも夜がおとずれるだろう。

 だが勇三は決意していた。夕暮れから夜へ、そしてさらにその先へと歩みを進める決意を。

 進み続ければ必ず光は見える、そう信じて。
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