文字数 688文字

   Ⅲ


 電車に乗る勇三を悩ませていたのは数日前に起きた悲劇についてではなくもっと現実的な問題、つまり金のことだった。

 レギオン狩りの仕事を受けなくても、自分が<グレイヴァー>として認識されていることに変わりはない。つまりそれはこれからの人生、個人が返済するにはあまりに多すぎる借金を背負っていくということを意味していた。

<グレイヴァー>の契約要綱では違約金だけではなく、更新料も払い続けていかなければならない。頻度は高くはないものの、数か月おきにそれの支払いはやってくる。

 アルバイトを増やそうかとも思ったが、それでどこまで賄えるのかもわからない。まとまった金が手に入るような仕事がすぐに見つかるという保障は無かったし、学生という身分ではできることもたかが知れている。
 そもそも叔父と叔母に学費を払ってもらって入学した学校を、おいそれと辞めるわけにはいかなかった。

 金銭という存在が重圧のようにのしかかってくる。
 それでも勇三はトリガーたちの力をこれ以上借りるつもりはなかったし、<アウターガイア>に戻るつもりもなかった。

 帰りついた自宅のドアを後ろ手に閉めると、勇三は靴を履いたままの両脚を投げ出すように上がり框に腰かけた。
 数日間留守にしていた古びた家には独特のすえた臭いが立ち込めていたが、勇三は窓を開けて換気をする気にもなれなかった。

 地の底からの帰還。頭をよぎったそんな言葉が感覚が、我が家に対するよそよそしい印象を与えていた。

 荷物を投げ出した勇三がふたたび外に出たのは、目的地があるからというわけではなく、身の置き場所を見つけられない家から逃げ出すためだった。
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