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文字数 1,294文字
「気をつけろ」
「なんだよ」不意に入れられた横槍に、集中を途切れさせられた勇三が眉根を寄せる。
「気をつけろ、と言ったんだ」トリガーは続けた。「整備不良を起こすと銃は撃てなくなる。最悪の場合、暴発するかもしれないぞ」
勇三の背筋を、ぞくりとした感覚が這いのぼる。
暴発と聞いて頭の中に浮かんだのは、内側から部品を吹き飛ばしながら銃が破裂する光景だった。
思わず構えを解いてライフルを見る。その姿はいつもと変わらない。だがトリガーのひとことによって、内部に秘めた恐ろしい破壊力が自分自身に向いているかもしれない、という疑念が心に芽生えてた。
「撃てるさ」
震えそうになる声を隠すように、勇三は声を張った。
スライドを引くと、指先に弾丸が薬室に潜り込む確かな手ごたえが伝わる。
間違いはないという自負心とともに、勇三の背中を押したのは腹立たしさだった。このままトリガーに見下されるのは癪にさわった。ならばその成果を見せつけてやるべきだ。
深く呼吸をすると、勇三はライフルを構えなおした。身体に動揺からくる震えもなく、あとは引き金を引くだけだった。
集中力が高まり、人型の標的の焦点が合わさっていく。
「これはたとえ話だが」標的と勇三だけの孤独な世界にトリガーの声が割って入る。「仮にそのライフルを大切な人が持つとしても、おまえは自信を持ってその銃を渡せるか? 百パーセントそれが安全だと保証できるか?」
勇三は構えを崩さなかったが、その目はすでに標的を捉えられていなかった。意識をトリガーの言う大切な人へと馳せていた……学校の友人たち、そして叔父と叔母の顔が去来する。
ゆっくりと、勇三は構えていたライフルの銃口を下げた。
悪態が苦々しく口をついて出たが、同時に自分が引き金を引かずに済んだことに密かな安堵も感じていた。
もしこれを自分以外の大切な誰かが持っていたら……自分のちっぽけなプライドのためだけであれば、この程度の危険は顧みないつもりだった。だが、ほかの誰かを巻き込むことを考えるだけで足がすくむ思いだった。
「ライフルの整備に問題はない……むしろ的確で、完璧だった」そんな勇三の様子をじっと見つめたままトリガーが言う。
思いがけない言葉に勇三は弾かれるように顔を上げると、「俺を騙したのか?」
「人聞きが悪いな。試したんだ」食ってかかりそうな勇三を、トリガーが平然といなす。「おまえが自分の作業に本当に自信を持てていたかどうかをな。人の心に裏打ちされていなければ、それは技術として不完全だ。それともおまえは、不安を抱えたままでも戦えるのか?」
勇三はなにも言い返せないまま、じっと俯いていた。
「おれが教えているのはどう戦うかじゃない、どうやって自分の身を守るかだ」
先に戻ってる、とトリガーはその場を立ち去った。
残された勇三は握りしめたライフルをじっと見返した。普段から不機嫌そうな彼の表情は、さらに険しくなっていた。
なかば捨て鉢になりながらライフルを構え、引き金を引く。
ライフルは過たず仕事を成し遂げ、高速の弾丸を撃ち出した。しかしそれは標的から大きく外れ、背後の闇へと消えていった。
「なんだよ」不意に入れられた横槍に、集中を途切れさせられた勇三が眉根を寄せる。
「気をつけろ、と言ったんだ」トリガーは続けた。「整備不良を起こすと銃は撃てなくなる。最悪の場合、暴発するかもしれないぞ」
勇三の背筋を、ぞくりとした感覚が這いのぼる。
暴発と聞いて頭の中に浮かんだのは、内側から部品を吹き飛ばしながら銃が破裂する光景だった。
思わず構えを解いてライフルを見る。その姿はいつもと変わらない。だがトリガーのひとことによって、内部に秘めた恐ろしい破壊力が自分自身に向いているかもしれない、という疑念が心に芽生えてた。
「撃てるさ」
震えそうになる声を隠すように、勇三は声を張った。
スライドを引くと、指先に弾丸が薬室に潜り込む確かな手ごたえが伝わる。
間違いはないという自負心とともに、勇三の背中を押したのは腹立たしさだった。このままトリガーに見下されるのは癪にさわった。ならばその成果を見せつけてやるべきだ。
深く呼吸をすると、勇三はライフルを構えなおした。身体に動揺からくる震えもなく、あとは引き金を引くだけだった。
集中力が高まり、人型の標的の焦点が合わさっていく。
「これはたとえ話だが」標的と勇三だけの孤独な世界にトリガーの声が割って入る。「仮にそのライフルを大切な人が持つとしても、おまえは自信を持ってその銃を渡せるか? 百パーセントそれが安全だと保証できるか?」
勇三は構えを崩さなかったが、その目はすでに標的を捉えられていなかった。意識をトリガーの言う大切な人へと馳せていた……学校の友人たち、そして叔父と叔母の顔が去来する。
ゆっくりと、勇三は構えていたライフルの銃口を下げた。
悪態が苦々しく口をついて出たが、同時に自分が引き金を引かずに済んだことに密かな安堵も感じていた。
もしこれを自分以外の大切な誰かが持っていたら……自分のちっぽけなプライドのためだけであれば、この程度の危険は顧みないつもりだった。だが、ほかの誰かを巻き込むことを考えるだけで足がすくむ思いだった。
「ライフルの整備に問題はない……むしろ的確で、完璧だった」そんな勇三の様子をじっと見つめたままトリガーが言う。
思いがけない言葉に勇三は弾かれるように顔を上げると、「俺を騙したのか?」
「人聞きが悪いな。試したんだ」食ってかかりそうな勇三を、トリガーが平然といなす。「おまえが自分の作業に本当に自信を持てていたかどうかをな。人の心に裏打ちされていなければ、それは技術として不完全だ。それともおまえは、不安を抱えたままでも戦えるのか?」
勇三はなにも言い返せないまま、じっと俯いていた。
「おれが教えているのはどう戦うかじゃない、どうやって自分の身を守るかだ」
先に戻ってる、とトリガーはその場を立ち去った。
残された勇三は握りしめたライフルをじっと見返した。普段から不機嫌そうな彼の表情は、さらに険しくなっていた。
なかば捨て鉢になりながらライフルを構え、引き金を引く。
ライフルは過たず仕事を成し遂げ、高速の弾丸を撃ち出した。しかしそれは標的から大きく外れ、背後の闇へと消えていった。