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文字数 1,379文字

「ありがとう、みんな。おれたちも人手が足りないと思ってたんだ。頼んでもいいかな?」

 輝彦の問いかけに広基と友香、それに啓二までもが不承不承といった様子で頷いていた。
 自分の関係のないところで事態が進んでいく。それがサエに疎外感を生んでいた。

 そうしたなか、それまで場を見守っていた勇三がやおら動き出した。輝彦の首っ玉にかじりつくように腕を回すと、そのままふたりで連れだって離れていく。
 こちらに背中を向けて額を寄せ合っている姿から、彼らがなにかを言い争っているのはあきらかだった。

 おおよそ、自分を除け者にしたいがために輝彦を説得しているのだろう。そんな邪推を抱いたサエは、途端にこの捜索隊に参加する気がわいてきた。

 サエの決意がかたまるのとほとんど同時に、勇三と輝彦がこちらへと戻ってくる。
 輝彦はサエたち四人を前に、ふたり一組でペアを作ることを提案した。勇三はといえば、一歩下がったところで見守るようにして立っていた。

「ペア三つか……だったら、これかな」

 言いながら固めた握りこぶしを持ち上げてみせたのは啓二だった。サエを含め、残りの五人が頷く。

 世代の近い者同士が集まれば、そこには暗黙の決まりごとも存在する。そしてこの決まりごとは、幼少期を別々に過ごしたなかで多少の違いこそあれ、大筋で共通するものでもある。
 彼らは幼少のころから馴れ親しんだ方法を使うことにした。すなわち、全員でグー、チョキ、パーを出し合って、組み分けをすることにしたのだ。
 合図とともに、それぞれが思い思いの手を出していく。組み分けは探している犬の姿を知っているという理由から、勇三と輝彦がペアにならないよう調整しつつ何度かやり直され、とうとう三つの組が決まった。

「よろしくね、河合さん」

 満面の笑みを浮かべながら、啓二が言う。彼と組になった友香も笑顔でそれに応じた。
 その隣では輝彦と広基が並んで立っている。こちらは同じ中学の出身者同士でペアが成立したのだ。

 サエは、自分の右手が作ったチョキをじっと見つめた。あの四人でペアができたとなれば、おのずと残った組み合わせも決まってくる。
 ふと顔をあげると、正面に立っていた勇三と目が合う。彼も直前まで、自分の出したチョキに穴が空くほど視線を注いでいた。

「それじゃあ、なにかわかったらおれか勇三に連絡してくれ」そう言って輝彦は、広基とともに日の傾いた雑踏の中へと消えていった。
「よし河合さん、おれたちも行こうぜ」
「うん。サエちゃんも速水くんも、頑張ろうね」

 啓二と友香が別の方向に向かって歩き去っていく。
 背中越しでもわかるほど、啓二は上機嫌そうだった。可愛らしい顔だちの友香は同学年の男子に対する人気も高く、そんな彼女と連れだって歩けることできっと夢見心地なのだろう。

 取り残されたサエと勇三は、どちらともなくお互いを見やった。

「なに見てんのよ?」
「そっちが見てるんだろ」
「なによ!」思わず頭に血が上ったが、サエは深呼吸することで自分を落ち着けた。「もうやめよう。いまはこんなことしてる場合じゃないでしょ」
「そっちから先に始めたんだけどな」

 勇三の反論を無視するように、サエは残る方角へと足を進めた。路面を打つローファーの足音がやけに大きく聞こえる。
 とにかく早く見つけてしまおう。色々な理由から、サエはそう考えながら歩いていった。
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