文字数 383文字

   Ⅰ


 午後一時三十八分。

 昨夜から途端に強まった重々しい雨を振り払うように、勇三は校舎のあいだを駆け抜けた。
 悪天候のせいでぬかるんだ中庭はスニーカーごと足をぐっしょりと濡らしたが、いまはそれに構っている暇はない。一刻も早く、校舎を挟んだ反対にあるグラウンドに行かなくてはならなかったからだ。

「別館の裏手、抜けるぞ! 生徒がふたり襲われてる!」耳にはめたイヤホンから霧子の怒号が響く。「わたしもすぐに追いつく!」
「わかってる!」勇三も霧子に怒鳴り返した。

 走りながら、勇三は学ランの下、腰のあたりに右手を伸ばした。
 ベルトの内側におさまった重くひんやりとした感触が、緊張感をより高める。いざというとき、自分はまだ手に馴染んでいないこの武器を頼らなくてはならない。
 あらためて覚悟を決めた勇三は、さらに脚を速めた。

 事の発端は、そこから十二時間近く前にさかのぼる。
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