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文字数 1,105文字

 白銀に輝く軌跡が横切るごとに、ライフルから吐き出された銃弾はことごとく地面に落下していた。怪物はその刃と反射神経で、撃ち込まれたすべての弾丸を叩き落としていたのだ。

 だがダメージを与えられなくとも、銃撃は相手をその場に釘付けにすることに成功していた。
 ヤマモトは弾切れと見るや空の弾倉を振り出し、すぐさま新しいものに代えて射撃を続けた。さらに彼は連射を続けながら、ゆっくりとその立ち位置をずらしていた。
 刃の軌跡が描く角度が変わり、怪物がその横腹をこちらに覗かせる。『ウィリー』の銃口を向けた、こちらへと。

 躊躇している余裕はなかった。勇三がこの状況を把握するのと同時に、ヤマモトの持っていたライフルの弾が底をついたからだ。
 ヤマモトは弾切れをしたライフルを素早く投げ捨てると、ホルスターから抜き取った自動拳銃の弾を続けざまに浴びせかけた。そして拳銃の弾も切れると、今度は反対の手に握っていた六連発式のリボルバーの引き金を引いた。血にまみれた銃身から、右目を貫かれて死んだサングラスの男の置き土産だということがわかる。

 勇三は全力疾走と緊張によって乱れた息を無理矢理抑えつけると、怪物の胴体に狙いを定めた。とにかく最初の攻撃で動きを鈍らせることだけを考えた。『ウィリー』の口径の大きさなら、それが可能だと信じていた。

 震えはぴたりと止まっていた。勇三が両手の親指で発射レバーを押し下げる。

 数発の銃声とともに、『ウィリー』がその名のとおり砲火と硝煙をあげる。しかし口径十二・七ミリの弾丸が捉えたのは、直前まで怪物がいた空間だけだった。
 弾丸はそのまま空を切ると、トラックのそばで横たわっていたサングラスの男の死体に食い込んだ。喉元にぽっかりと穴が空いたかと思うと、うなじの肉がはじけとぶ。男の死体はその衝撃で顔面を自分の胸に押し当て、ちぎれた傷口をさらした。

(ケツの穴は増えなかったな。丸ごと吹き飛んだから)

 場違いな考えが頭をよぎり、思わず笑いを吹き出しそうになった。それから罪悪感が波となり襲いかかってくる。

(ああ……気を失うぞ)勇三は思った。(それかこの場でまたゲロを吐くか、自分の吐いたゲロの中に突っ伏して気を失うんだ)

 だが、そうはならなかった。目の前に、危険を冒してまで自分を助けてくれたヤマモトの姿があったからだ。
 彼の命だけはなんとしても救わなくてはならない、ふたりで生き残るのだと信じることで、勇三はぎりぎりのところで踏みとどまることができた。

 勇三は姿を消したレギオンを血眼になって探した。
 だが死体の首がちぎれ飛んでから数秒ほどしか経っていないにも関わらず、怪物の姿はどこにもなかった。
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