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文字数 967文字

 報告書によればストローヘッドは単独行動をとる習性があり、複数で行動をすることは考えづらい。
 新手のレギオンが地上に進出してきたという可能性についても、限りなくゼロに近かった。<アウターガイア>全域に張り巡らされた監視システムは、完璧とまでは言えないまでも極めて精度が高く、今回のような〝穴抜け〟というケース自体が極めて稀なのだ。

「高岡さん、この赤い点の示す場所にレギオンはいるんですか?」
「それをいま実働部隊に調べさせているところだ」

 高岡が指さしたのは緑の光点だった。こちらは前者とは異なり、地図上を一定の速度で進んでいる。<特務管轄課>の実働部隊から逐一送られてくる信号だった。
 黒川は彼らが向かっていく目撃地点に違和感をおぼえた。

「高岡さん、これって……」

 通信機器を担当していた局員に指示を飛ばしていた高岡が振り返り、黒川が指さしていたほうを見る。

 モニターに記されたレギオンの目撃情報は、どれも作成範囲の南北に点在していた。そしてそれらの裏取りをすべく急行した実働部隊の配置は、地図上の東西を一直線に結ぶような間隙を作り出していた。
 はたして、直線の終端にあったのは……

「まるでおびき寄せられてるみたい……」
「監視カメラの映像、出せるか?」 黒川の言葉を聞くが早いか、高岡は傍らの局員に訊ねた。「4、5、6とAからIまでの座標上にあるのものを録画、中継問わず全部だ」

 局員がキーを打つと、モニターを占領していた地図が脇へと場所を譲り、代わって監視カメラが捉えた映像が九つに分割された画面に流れた。
 ちらりと横目で窺うと、モニターに視線を注いだ高岡はまばたきひとつしていなかった。

「六番モニター、止めてくれ」せわしなく動かしていた視線をとある一点で止め、高岡が言う。
「十三分前に録画された映像です」

 局員の声と共に拡大された画面が映す風景に、黒川は見覚えがあった。I―4のエリアに設置された監視カメラからの映像だ。
 地域の犯罪対策のため、通学路に設置された監視カメラ。モノクロの画面が捉えていたのは、人間の日常を取り巻く世界から異様に浮き上がる、レギオンの後ろ姿だった。

 黒川が得心するのとほとんど同時に、さらに険しくなった顔つきで高岡が手元のインカムを取り上げる。

「入江、聞こえるか? 抜けられた。標的がそっちに行くぞ!」
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