第99話 「貴族令嬢を救出せよ⑧」
文字数 2,311文字
ソフィことステファニーは、ボヌール村へ連れて来たその日に、俺と街道で出会ったという事になる。
そう、誰も知らない遠くの国から、ひとり旅をして来て……
俺の案内で、たまたまボヌール村を訪れて……
村がとても気に入ったから、住む事になったという顛末……
ステファニーが村に住む事自体には、全く支障がなかった。
リゼット父でもある村長のジョエルさん曰く……
若い女の子の移住は特に大歓迎!
なので、俺と共に簡単な面談をしただけですぐにOKが出たのである。
住居は、クラリスがひとり暮らしだから、暫く一緒に住んで……
街道で出会った俺と、いろいろ仕事をするうちにお互いに魅かれ合って……
という、一見自然な展開。
そして来年には、嫁ズ全員一緒に結婚……
うん! 大丈夫! 完璧!
仕事でいえば、貴族のステファニーは思ったより『実戦』に強かった。
城館の庭で庭師から教えて貰って本格的に花作りをしていたから、リゼットやクラリスとはバッチリ話が合う。
父親のオベール様と子供の頃からしょっちゅう狩りに出ていたから、馬にも乗れるし、ナイフなど刃物も扱える。
なので、レベッカとも意気投合して楽しそうに狩りにも出掛ける。
そしてミシェルの手伝いで、大空屋の店番や宿屋の仕事をした時、
「接客が凄く面白い」と夢中になってしまう。
毎日一生懸命働くステファニーは、ボヌール村のソフィとして、あっという間に溶け込んで行ったのである。
一方、しばしばステファニーに擬態したジャンからは、念話で報告があった。
俺とステファニーが城館を脱出して数日後、王都セントヘレナへ向けて出発し、2週間かけて到着する予定だと伝えて来たのだ。
俺はジャンを救出すべく、万全の準備をして待つ。
ジェトレ村を経由し、いくつかの町や村を通って更に北へ向かったステファニー(実は妖精猫ジャン)護送隊は予定通りに王都へ着いたらしい。
そして……打ち合せ通りジャンから最後の念話連絡があった。
ジャンが今、スケベな馬鹿息子が待つ、伯爵の屋敷前に着いたという報せだ。
俺は、当然変身。
ジャンの波動を手繰り、転移魔法で一気に王都へ飛んだのである。
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片や、こちらはボヌール村からは遠く離れたヴァレンタイン王国王都セントヘレナ。
……馬車が止まり、扉が開かれてゆっくりと降りるステファニー(実はジャン)。
玄関で待ち受けているのは、開いた口から覗く歯茎がやけに大きく、でっぷり太った男である。
この男が、悪評高い伯爵家の三男だ。
「げははは! ドラポール伯爵家へようこそ! お前がステファニーか? 俺がお前の主人となるウジューヌだぁ」
「…………」
無言で俯く少女……
鬼畜ウジューヌは、短気のようだ。
相手から返事が無くて、切れたらしい。
極端な俺様タイプである。
「何で返事をしない。えっらそうに! たかが妾の癖にぃ!」
その瞬間であった。
少女(ジャン)とウジューヌの間に、俺がいきなり現れて立ち塞がったのだ。
出現した俺の恰好はと言うと……あの魔王の手下風黒ずくめファッションで固めている。
はっきり言って、とても
まるで、魔族である。
「ぎゃっぴ~っ!」
怖がって泣き叫ぶ、ゴブリンみたいな奇声をあげて、ウジューヌが仰天した。
「はははは、恨み骨髄な憎きドラポール伯爵家め。潰れてしまうが良いわぁ」
俺は大声で叫び、あくまでもドラポール伯爵家の敵対勢力を装う。
叫んだ俺はマスクで顔を半分隠しているが、いつもの少年ケンとは全くの別人だ。
背も180cmを超える大柄で、年齢も30歳近くに設定しているから絶対にバレる事はない。
当然ながら、声も渋い大人声だ。
おお、良いぞ。
俺が周囲を見渡すと、騒ぎを聞いて野次馬がどんどん集まって来る。
彼等が証人となるから、ステファニーを攫ってもオベール様の落ち度にはならない……筈。
「わわわ、貴様! 我がドラポール伯爵家に恨みを持つ者か!? さ、下がれ、下民めっ!」
はぁ?
下民?
何、言ってるんだ。
この腐ったゴミ屑野郎が!
「ドラポール伯爵家、天誅!」
普通の人間など、俺がまともに殴ると即、死んでしまう。
なので、俺は充分手加減をした上で、怒りの拳をウジューヌの顔面に叩き込んでやった。
それでもウジューヌは顔面がへこみ、血をまき散らしながら派手にぶっ倒れて昏倒した。
権力にモノをいわせ、多くの女をおもちゃにした罰はこれでも超が付くほど軽いくらいだ。
なので俺はとどめをさすべく、ウジューヌのズボンとパンツを脱がして汚い尻を晒してやる。
野次馬という、公衆の面前に。
こんな奴には、これ以上触りたくないから、ズボンとパンツは当然魔法でパッと消してやった。
ああ、本当にバッチイ尻だ。
え~んがちょ。
ここで、やっと遠巻きにしていた従士達が駆け寄って来る。
護衛らしい、騎士と衛兵もやって来た。
全員が、剣を振りかざしている。
「あははは! この女は遠慮なく貰って行くぞ。ざまあみろ、ドラポールめぇ」
ちらっと見ると、ステファニーに擬態したジャンが片目を瞑っている。
作戦成功! という意味だろう。
俺は気付かないふりをして、ジャンを横抱きにする。
そして神速で発動させた転移魔法で、一緒に消え失せたのであった。