第46話 「美少女達はアマゾネス」

文字数 3,316文字

 俺が軽く腹に一発入れると、ガエルは苦悶し、胃の中の内容物を「げえっ」と吐いて気を失ってしまった。
 本気でやると即死というか、塵も残らないだろうから、だいぶ手加減はしておいた。

「ダ~リ~ンッ!」

 レベッカが、Vサインを出しながら駆け寄って来る。
 約束通り『仇』を討ってやったので、とっても嬉しそうだ。

「いぇ~い、やったね」

 俺に抱きつくレベッカは、満面の笑みを浮かべていた。
 彼女にとって、伴侶は優しさと共に、強さも兼ね備えているのが理想なのだろう。

 結局、親分(リーダー)も倒れて、クラン大狼(ビッグウルフ)は全員戦闘不能となった。
 
 俺の勝利を見届けたガストンさんが正門を開いて、我慢し切れないという感じで、一目散に飛び出して来た。
 ダッシュで俺の傍へ駆けつけると、愛娘のレベッカごと俺を抱き締めてバンバン背中を叩く。
 あはは、ほんの少~しだけ痛いや。

「お~い、ケン。お前、やるなぁ、改めて惚れ直したぞ、我が息子よ」

 ははっ、くすぐったい。
 ガストンさんが『我が息子』だって、さ。
 まだ、俺はレベッカと結婚していないんだぜ。
 ミシェル母娘といい、この父娘も気が早過ぎるんじゃあないの?

 でも俺は何故か、すっごく嬉しくなってしまった。
 嬉しそうな俺を見て、ガストンさんは「にやっ」と笑う。

「もし危なかったら、すぐに助けてやろうと思っていたが……不要だったな」

 ガストンさんの俺を見る目は「頼もしいぞ」って褒める気持ちと、優しい慈愛に満ち溢れていた。

 こうしてガエル率いる悪の組織、クラン大狼(ビッグウルフ)の野望は脆くも崩れ去った。
 村の平和は、しっかりと守られたのだ。
 まあ、大袈裟に言えばそういう事。

 私見だし、本人へ言うと、絶対に殺されるから、あれだけど……
 レベッカの尻を、軽く触るくらいの軽犯罪ならまだ可愛い。
 半殺しくらいで許してやるが…… 
 しかし、あのガエルと若い『ちゃら男』の会話には、それを超える嫌らしい気配がプンプンしていた。
 多分、村内へ入ったら、夜半に宿屋を抜け出して、夜這い……
 女の子達に悪さしまくるつもりだったのだろう。

 渋い表情のガストンさんが、先に失神した3人に容赦なく水をぶっかけると、奴等は意識を取り戻した。
 俺を見ると「ひいっ」と悲鳴をあげて飛び上がる。
 そして、まだ失神して倒れているガエルを抱えると、あっと言う間に逃亡してしまった。

 その様子を見た俺は、ちょっとだけ心配になった。
 ついつい、クッカに尋ねてしまう。

『おいおい……あいつら、大丈夫? 君の忘却の魔法で記憶を消したんだよ、な』

『うふふ、大丈夫。単にケン様を畏怖して怯えただけですから』

 クッカは澄まし顔で言う。

 むう、畏怖ねぇ……
 ホントかなぁ……
 まあ、いいや。
 何か凄い力を振るったわけでもないし、いざとなれば(とぼ)ければ良い。
 うん!
 そうしよう。

 俺が自問自答して納得した、その時。

「あの……あんた、困った事をしてくれたな」

 言葉通り、困りきった表情で俺に声かけて来たのは、商隊のリーダーと思しき年かさの男であった。
 他の3人の商人達も、腕組みをして俺を見つめていた。
 皆、俺を非難するような表情である。

 俺は一瞬、意味が理解出来なかった。

「困った事?」

「あんたがクラン大狼を懲らしめ過ぎて、あいつら逃げちまった。私達商隊の護衛が居なくなってしまったじゃないか」

「はぁ?」

 何だ、こいつ!
 そもそも雇い主であるこのおっさんが、クラン大狼の事をうまく管理出来ていないからこうなったんだぜ。
 奴らが犯罪に走ったのを懲らしめ、更なる被害を防いだんだぜ。
 それを言うに事欠いて、俺が困った事をしてくれただとぉ?

 俺の口から、思わず怒りがほとばしる。

「おい、おっさん、ふざけるなよ?」

「は?」 

 俺の思わぬ反撃に、商人親爺は驚き顔だ。
 でも、この流れはそうだろ。
 いい年したおっさんが、常識も知らないのか?
 それに、他人の気持ちを察して上手く仕事をするのが商人だろうよ。

「おめぇらが雇ったアホなゴロツキ共が、村の決まりを守らず、挙句の果てに俺の可愛い嫁の尻を触ったんだぞ。こっちが賠償金を貰いたいくらいだ」

 俺の言葉を尤もだというように、ガストンさんもレベッカも頷いている。

「だ、だが……これでは……こうなっては私達はエモシオンの町へ行くどころか、ジェトレ村へ帰る事も出来ない」

 何だ、それ。
 こんな時には、はっきりこう言うに限る。

「はぁ? そんなの知った事か、自業自得だろ? それ」

「そんなぁ……」

 泣きそうになる商人の親爺。
 美少女の泣き顔はそそるが、こんなむさいおっさんの泣き顔など要らない。
 丸めて、ゴミ箱に「ぽいっ」と捨ててしまえ。

「ケン! いえ、ケン様。ちょっと相談があるんだけど……」

 気配でこっちに来たのは分かっていたが、ここで声を掛けて来たのがミシェルであった。
 俺への呼び方が変わったのは、彼女の心の中に変化が生じたらしい。
 多分、理由はレベッカと同じだ。

「ガストンおじさんとレベッカも一緒に……ちょっとあっちで話さない?」

 こうして俺は、ミシェル達と少し離れた場所へ行き、密談って奴をしたのである。

「ねぇ……こういうふうにしない?」

 ミシェルの提案とは……
 俺達が、クラン大狼の代わりに護衛役として、商隊を守る事。
 当然商隊から対価は頂くし、どちらにしろミシェルもエモシオンの町へ『仕入れ』に行く必要があるから一石二鳥だという。
 
 ミシェルの提案を聞いたレベッカは、目を輝かせた。

「名案じゃない! 私は構わないわ、面白そうだし一緒に行くよ」

 しかし、苦々しい表情のガストンさんは心配らしく手を左右に振った。

「う~ん、俺は反対だな。お前達だけでは心配だし、無理に仕入れに行かなくても村で自給出来る品で生活は可能だから」

 だが、意外!
 ミシェルが猛犬のように……
 いや、ケルベロスのように喰いついたのだ。

「もうガストンおじさんったら! 分かってる? この前エモシオンの町へ行ったのって、半年も前。だからもう色々なものが不足して凄く難儀していたのよ、それともおじさんが一緒に町まで行ってくれるの?」

「あ、ああ……わ、分かったよ」

 どうやらガストンさんは村の守り役なので、自分はエモシオンの町まで同行出来ないらしい。
 そんな事情もあり、先日のレベッカだけでなく、今度はミシェルにまで押し切られてしまった。
 
 レベッカもミシェルも、そしてミシェル母のイザベルさんなんか典型だが……
 やっぱり、この村の女性は強い! 逞しい!
 凄く、そう思う。

「でもお前達だけで大丈夫か?」

 納得させられたものの、ガストンさんはまだ心配らしい。
 
 そりゃ、そうだ。
 街道沿いには、ヤバそうな魔物&強盗がぞろぞろお出ましになるのだから。
 
 しかし、ミシェルは事も無げに言う。

「平気だよ、ケン様はご覧の通りの強さだし、レベッカの弓は達人級。そして私は……」

 ミシェルはそう言うと、真下に転がっていた大き目の石ころを拾う。

 ええっと……
 何をするおつもりですか、ミシェル様。

「はあっ」

 ミシェルが息を吐いて真上に軽く放った石は……

「たおおおっ!」

 ばしゅっ!

 裂帛の気合と共に、彼女の拳で粉々に打ち砕かれていたのである。

 呆然!

 今度は俺が目を丸くして、阿呆のように口を開けその場に突っ立っていた。

「うふふ、これは死んだ父さん直伝の拳法さ。自分の身を守るくらいは出来るよ」

 俺に向かって、にっこり笑うミシェル。

 そうか……
 こうやって、俺の家の扉をあっさりと破壊したんだね、キミ。

 ようやく納得した俺はぎこちない笑顔を浮かべて、黙って頷いたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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