第121話 「魔王軍総攻撃②」
文字数 2,365文字
「この役立たず共めが!」
悪魔騎士エリゴスが不甲斐ない配下共を見て、憎々しげに罵った。
大軍勢で繰り出したオーガもゴブも俺達を倒すどころか、止める事さえ出来なかったからだ。
さあ、後は魔王と悪魔エリゴスを倒すのみ!
敵の首魁へ肉薄した俺達は、改めて気合を入れる。
「うふふふ……」
エリゴスの後ろで竜に跨り、微笑む美少女が見える。
彼女が……魔王クーガーか。
俺は、視点のスキルを発動させる。
顔を、見てやる。
しっかり見てやる。
そして確かめてやる。
あのバルカンが驚いた、クッカと魔王の顔がそっくりだという事実を。
「あ! あああっ!」
しかし!
魔王の顔を見た俺は、唖然とした。
似ているのだ。
本当に、魔王の顔がクッカにそっくりなのだ。
髪型とか、雰囲気は微妙に違うが、顔立ちは……本当にクッカに似ている。
俺の傍らにいるクッカも、魔王の顔を見て吃驚したのか無言だ。
多分、言葉が出ないのであろう。
俺達がひるんだのを感じてか、魔王クーガーは高笑いをする。
「あ~ははははは!」
魔王の笑いに煽られたのか、エリゴスの奴はとんでもない策略を繰り出して来た。
「ふん! 抜かったな、勇者。お前が良い気になって戦っているうちに我等魔王軍の別働隊がおまえの村を襲う。……村人を殺されたくなかったら抵抗を一切やめる事だ」
え?
俺が留守にした村を襲う!?
別動隊が居るだってぇ?
こ、このヤロー!
しまったぁ!
「な、何!? この卑怯者め」
「ははははは! 勝つ為に我が魔王軍は手段を選ばない、ざまあみろ」
「ぐうう……てめぇ!」
エリゴスは、思いっきり嘲笑する。
まるで、俺が苦しむのが楽しいように。
それは、男の嫉妬。
魔王が惚れている俺に対する、凄まじい憎しみ。
でも、俺が留守にした村を襲う?
そんなの……想定内なんだよ。
俺はビビり顔を一転させ、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「ふふふ……な~んてな。もし村があれば存分に攻めてみな」
『そうそう! もしもやれるなら、攻めてみてよぉ』
クッカも面白そうに煽り立てる。
「な、何っ!? 貴様ぁ」
俺の、余裕の態度に驚くエリゴス。
どうやら、違和感を覚えたようである。
その時、ひらひらと1羽の真っ黒な蝙蝠がエリゴスにまとわりついた。
多分、偵察に出した奴の使い魔なのだろう。
「なな、何っ! む、む、村が無い!? ききき、消えただとぉ!?」
使い魔の報告を受けたエリゴスは、声を上ずらせていた。
吃驚仰天って感じで、きょどっている。
俺は「ざまあみろ」とばかりに思い切り、可愛く萌えてやる。
「てへぺろ」
「何がてへぺろだぁ! ききき、貴様! 村をどうしたぁ!」
「そんな事、お前に答える必要はない。さあ行くぜ」
『馬鹿悪魔、そっちこそいい気味よ』
「ぐうう、くっそ~!!!」
俺とクッカが優位に立って、思い切り笑った瞬間。
「あ~はははははははっ!」
女の高笑いが再び木霊する。
竜に跨ったクッカそっくりの美しい少女魔王が、さも楽しそうに笑っているのだ。
「だから私が言ったであろう、エリゴス。勇者ケンに雑魚や下司な策略は通じぬと」
「しかし、ですね」
反論するエリゴス。
魔王に取り繕いながら、俺への真っ黒な憎悪をぶつけてくる。
悪魔騎士エリゴス……有名な悪魔。
ソロモン72柱の1柱。
爵位は公爵。
魔王の紋章らしいマークが入った旗を掲げ、馬上で槍を構えた
頑丈なフルフェイス兜に隠された表情は読み取れないが、射すような視線は変わらない。
しかし、悪魔エリゴスなど俺には関係ない。
問題は、首魁である魔王クーガーだ。
こいつが俺に対して異常な執着を見せるせいで、この平和なボヌール村が攻められるとしたら、その理由を知る必要がある。
だから俺はエリゴスをスルーし、魔王に言い放つ。
「おい、魔王クーガー! 何故俺に拘る。俺はお前など一切知らないぞ」
俺の言葉を聞いて、クッカそっくりの美少女魔王は可愛らしく首を傾げた。
「ふふふふふ。これは薄情な物言いをしおって。私は昔からお前をよく知っている。そしてずっと待っていたのだ」
衝撃の事実。
昔から……俺を知っているだと!?
「え? お、俺をずっと待っていただと!?」
「そうだ、待っていた。お前は私と大事な約束をしている」
「や、約束……だと!?」
「そう、約束だ! お前は、な……将来私の夫となるべき男なのだ。……まあ良い。どちらにしても、うるさい小娘は邪魔だ」
『何よ! 魔王めぇ。横取りなんか許さないわ! いきなり旦那様へコクっても駄目ですからね!』
「だ~ん!!!」
いきなり魔王がクッカを指差した。
すると!
『痛い! 旦那様ぁ、頭が痛い!』
急に、クッカが頭を抱えて苦しみ出したのだ。
魔王の攻撃か、何かだろうか?
「あ~っ、魔王め! クッカに何をするっ!?」
「こうするのさっ! だ~ん」
再び、魔王クーガーがクッカをびしっと指差した。
魔王は一体何をやったのか、その瞬間クッカは「ふっ」と消えてしまったのである。
幻影のクッカが、俺の前から消えてしまったのだ。
「あああああああああああっ!!! クッカ~っ!!!!!!」
あまりの出来事に吃驚した俺は、思わず大絶叫したのであった。