第44話 「ふるさと勇者は劇画ヒーロー」

文字数 2,669文字

 怒りの形相で、拳を振り上げながら襲って来る、クラン大狼(ビッグウルフ)メンバー3人の男達。
 
 モブキャラならびびるところだが、今の俺はふるさと勇者。
 全く臆さずに奴等へ向かって歩いて行く。

 肩を怒らせて奴等へ迫る俺は、まるで敵地へ乗り込むヒーローである。
 自分自身を見る事は出来ないが、想像すると我ながらカッコい~。

『ざっざっざっ!』

「は?」

『ざっざっざっ!』

 何?
 この、やたらに迫力ある劇画調の足音は?
 荒野に響く、かっこいい靴音って感じだ。
 でも何故か、俺の中だけで聞こえてるぞ?

 それに……何か変だ。
 俺の歩いている場所の足元は、草がびっしり生えていて、そんな擬音はしない筈なんだが……
 と、いうかこの足音は……『口』で言っている『擬音』だ。
 ははぁ、誰が犯人か、分かったぞ。
 
『クッカ!』

『ざっざっざっ! って、アレェ気付きました?』

 お(とぼ)け顔で、にこっと爽やかに笑うクッカ。
 厳しいツッコミをしようとした俺は、思い切り外されてしまった。

 だって、クッカったら……
 やっぱり可愛いんだもの。
 爽やかな笑顔を見たら、男子はキュン死確定だ。
 でも言うだけは言わないと!

『アレェ? じゃないよ、ざっざっざっ! って何、それ?』

『ええっと、……少しでもケン様に気合を入れて頂く為の効果音です』

『こ、効果音?』

『はい! 正義のヒーローが、あまりにも酷い悪党の理不尽さに対し、凄まじい怒りに萌えて、訂正! 燃えてですね、格好良く歩く時には必須の音ですよね、キリッ!』

 空中で、「ぴしっ!」と姿勢を正すクッカ。
 気合がすっごく入っていて、敬礼までしているよ。

『……あのね、何となく分かるけど……ま、いっか』

 俺の『ウケ』があまり良くないので、クッカは少し元気をなくしてしまう。

『え? 反応薄いですね……もしかして……私がした事は、とっても余計だったのでしょうか?』

 余計って、言われても……
 だって迫力ある効果音って、微妙なフォロー……
 その上、俺にしか聞こえないし……あまり意味がないかも。

 しかし俺は、そんなクッカが、だんだんいじらしくなって来た。
 この子はこの子なりに、俺の為を思って一生懸命やってくれたんだって。
 
『い、いや! とんでもない! 凄く嬉しいよ、ありがとう!』

『ほ、本当?』

『ああ、も~っと、盛大にば~んとやってくれ。気合が入れば正義のヒーローとして、俺のノリが良くなるから』

『良かった! 私……少しはお役に立てていますよねっ』

 嬉しそうに微笑んで、俺へ一気に近付くクッカ。
 ああ、顔と顔がすっごく近いんですけど。
 幻影の筈なのに、彼女の甘い息がふっとかかる。

『お、おお、そうだよ。クッカは俺にとって絶対に必要な相棒さ』

『あ、相棒? 相棒って!? ううう、そんなぁ……』

 あちゃあ、まずった!
 相棒……この子はそんな表現じゃあ駄目なんだ!

『いや、もとい! 俺にとっては愛する嫁として、絶対に必要不可欠な女の子だ!』

『へ? ホントですかぁ? やったぁ! じゃあバンバン行きますよぉ』

 空中で、飛び上がって喜ぶクッカ。
 終いには、トンボ返りまでしている。
 ああ、やっぱり可愛い奴め。

 しかし、クッカといちゃいちゃして遊んでいる間に……
 クラン大狼(ビッグウルフ)の男達3人は俺の目前に迫っていた。

 だが意外にも、男達はいきなり襲い掛かっては来なかった。
 何をしたかというと髭の不埒リーダー、ガエル・カンポ同様、恫喝(どうかつ)である。

「なんだぁ、てめぇ、生意気だぞぉ」

「お~、こらあっ!」

「素直にリーダーの言う事が聞けないのか? さっきの女を献上したらすぐ土下座して速攻帰れや、餓鬼」

 これって……
 大体、お約束のパターンだ。
 相手の手の内が、丸わかりだ。
 俺がびびって後ずさると、かさにかかって更に攻めたてるって事か。
 ひとりじゃなく、3人で一緒にいうのがいかにも小悪党。

 あれ?
 恫喝しながらも、3人から僅かだが憐憫の波動が洩れているぞ。
 
 どうやら大の男3人で俺みたいな『餓鬼』をいたぶるのに少しだけ躊躇があるようだ。
 奴等には、ほんのちょっとだけ良心とやらが残っていたらしい。
 ならば、リーダーはともかく、こいつらには少し手加減してやろうかとも思う。

 しかし!

「どけぃ! 雑魚がぁ!」

 あれぇ?
 俺の口が急に?
 勝手に動いてる?
 
 それどころか、止まらねぇ!
 言葉が、どんどん出て来るぞ。
 
 これは!
 あのむさ苦しい狼男ライカンと戦った時と同じ、クッカによる俺の声帯ジャックだぁ!
 こうなるとクッカの挑発は止まらない。

「俺がな、用のあるのは、あのスケベな髭男(ひげお)だけだぁ! お前達みたいな、しょーもないゴミ雑魚は邪魔だ、邪魔! うろうろしないでさっさと道をあけて、土下座してひれ伏せ! さもないとやっつける」

「な、ゴミ? ゴミ雑魚だとぉ!」

「この糞餓鬼ぃ!」

「こっちが下手(したて)に出りゃ、付け上がりやがって!」

 3人は思った通り、激怒する。
 あ~あ、俺がほんの餓鬼だから、ちょっち手加減するなんて、もうそんなの無しだ。

 しかし、俺の口は……
 いやクッカは、まさにノリノリ絶好調である。

「はぁ? てめえらが狼? てんで笑わせるぜ! 小汚い、負け犬悪党の遠吠えは聞こえんな。そもそもお前等のような、最低最悪な人間のくされ屑に、この世を生きる資格はねぇ!」

 違う! 違う! 違~う!
 俺はこんなかっこいい! ……いや、ひでぇ事は言わない。
 言ったのは、口の超わる~い美女神様なんだぞ!
 
 だけど、そんな言い訳を、伝えられる筈もない。
 絶対の秘密なんだから。
 
 結局、奴等の怒りは、完全に燃え上がってしまった。

「俺達は小汚い負け犬じゃねぇ、つえ~狼だ! もう許せねぇ!」

「そうだ、くされ屑じゃねぇ! コロス!」

「てめぇこそ、メタメタにしてやるっ!」

 激高した男達が襲い掛かろうとする瞬間、何かが燃え上がるような音がする。

『ごごごごご!』

「ええっ!」「あわわっ!」「ひっ!」

 何と!
 3人の男達は、俺の姿を見直すと悲鳴をあげて、「ぺたん」と座り込んでしまったのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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