第74話 「純情美少女の願い③」

文字数 2,592文字

 男同士の内緒話。
 と、言われて思わず身構える俺。
 しかしラザールさん達の話はもっと言い方の砕けた、だけど真面目な話であった。 

「ははは、別にお前を取って喰おうというわけではない。儂達の可愛いクラリスを必ず幸せにして欲しいという年寄りの頼み事さ」

「そうそう、お前は真面目な奴だから大丈夫とは思うが、儂達は心配性だからな」

 ラザールさん達からの話は、親代わりをしているふたりから、「嫁のクラリスを大事にしろよ」という念押しだった。
 
 俺も身の上を聞いている。
 ……クラリスは気の毒に、魔物の襲撃で両親を失った。
 身寄りのないクラリスだが、両親の愛したこのボヌール村に残る事を選択した。
 ラザールさん達はそんなクラリスを不憫に思い、何かあればことごとく面倒を見て来たのだ。
 
 向ける気持ちは愛娘でもあり、年齢的には孫でもあるクラリスを幸せにしてやって欲しい。
 話からラザールさん達の熱く深い思いが伝わって来る。
 「当然だ」という強い思いが、俺をたっぷりと満たす。
 だから、はっきりと言い切れる。

「はい! クラリスを大切にして、絶対幸せにします」

 俺の「きりっ」とした物言いを聞いて、ラザールさん達は安心したようだ。

「良い返事だな。お前は本当に甲斐性のある男だ」
「儂達の若い頃と一緒だ、自信を持て」

「そう……ですか。俺はまだまだ未熟者ですけど」

 今度は一転口籠った俺に対し、ふたりはつい本音を洩らす。

「謙遜するな! まだ15歳の小僧が一度に4人も村の娘を嫁にするとはな。だがクラリスは本当はひとりの男にじっくり愛して貰いたかった……」 
「そうそう、お前が他の嫁と仲良くしている時にクラリスが寂しがったら可哀想じゃろ」

「…………」

 ラザールさん達の言う事は(もっと)もだ。
 俺は思わず言葉を失ってしまう。

 緊張した空気の中、ふたりの表情は……いきなり変わった。
 何と悪戯っぽく笑っている。

「な~んてな」
「冗談じゃ」

「…………」

 何なんだ……
 俺は、ついジト目でふたりを見てしまう。

「ははは、気にするな。一旦はそうも思ったのだが……あいつの幸せそうな笑顔を見るとお前が相手で本当に良かったと思うぞ」
「その通りじゃ」

「あ、ありがとうございます」

「それでな……早く作れよ」
「そうそう! それもい~っぱいな」

「は?」

 作れ?
 いっぱい?
 何なんだ?

 俺はポカンとしてしまう。
 今度は一体何なんだろう。

 ラザールさんとニコラさんは顔を見合わせてにやりと笑う。

「鈍い奴だな、子供だよ。クラリスは儂達の孫のような()さ。お前がクラリスと子供を作ればその子はひ孫みたいなものだ。可愛くて仕方がないだろうよ」
「そうそう、ひいじいじとか呼ばれて可愛がるんじゃ、これは(たま)らんぞ」

 わ!
 そういう事かよ!
 
 俺の顔には、汗がどっと沸いた。
 このような話の場合、勇気のスキルは全く役に立たないようだ。

「ま、ま、ま、前向きに努力させて頂きます」

 盛大に噛みながらも、俺は頑張る事を告げるしかなかったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 笑顔のラザールさん達と別れた俺達は……
 今、家畜の放牧地の(かたわ)らを歩いていた。
 相変わらずブタとニワトリ、そしてヤギが『良い味』を出している。

「のんびりしているこの子達を見ていると、とても心が(なご)みますね」

 クラリスが微笑む。

 確かにそうだ。
 俺も、同意して言葉を返す。

「ああ、和むな。何か気持ち良いよね」

 ああ、クラリス。
 実の所、俺はお前の笑顔の方に癒されるよ。

 クラリスは、俺がラザールさん達とどのような話をしたのか気になるようだ。

「ねぇ、旦那様。ラザールさん達、何か言っていました?」

「ああ、お前を必ず幸せにしろって」

「まあ!」

 口に手を当てて驚くクラリス。

 ああ……可愛いな、クラリス。
 じゃあ、もうひとつのお願いも伝えてやるか。

「それとさ、……子供いっぱい作れって」

「ええええっ!」

 やはり!

 親とも言うべき人達からストレートな要望を聞き、全身を真っ赤にして、固まってしまったクラリス。
 以前のリゼットのように、具体的な『あのイメージ』で頭が真っ白になっているらしい。
 予想通りの展開だ。

 暫し経って、やっと硬直状態から脱したクラリスが言う。

「ラザールさん達の仰る事は分かります。もっと村がにぎやかで明るくなれば良い……そう思っているのですよ。……子供がたくさん居れば村も活気付きます」

 そうだよね……
 自分達が、可愛がるだけが理由じゃない。
 未来へ向け、村全体の発展、村民全ての幸せ。
 その為に、ボヌール村には子供がいっぱい必要なんだ。 

 リゼットが、俺を見る。
 凄く、真面目な眼差しだ。

「旦那様……私、子供が大好きです。たくさん作りましょうね」

「お、おお、が、頑張るぞ」

 俺は、クラリスの気合に圧倒される。
 中学生の頃、こんな話は『Hな話』と相場が決まっていたけど、今は全然真面目な話。
 何というか、とても使命感を感じ(おごそ)かなんだもの。
 おっと、クラリスからは、まだ何か話があるようだ。

「旦那様、聞いて下さい。私が服を好きなのは死んだ両親の影響なんです。農作業の傍ら、裁縫が好きで様々な服を作っていたのを見て、私も習い服作りが好きになりました」

「へぇ、そうだったんだ」

「はい! 素敵な服は人を明るくする。両親はそう言って村の人達の服を作っていました。私もそう思います」

 そうか!
 確かに服ひとつで、人の気持ちってすっごく変わるものな。
 晴れやかになるし、堂々とふるまえたりする。
 
 同意して大きく頷いた俺を、クラリスは潤んだ目で見つめた。

「旦那様と私の子供達が、私の作った服を着て村中を元気に走り回る。それが私の叶えたい夢なんです」

 ああ、クラリスの夢って……
 凄く素敵だ。

「クラリス……俺もその夢をぜひとも叶えたいぞ」

 俺は目の前の華奢な少女が急に愛おしくなって、「ぎゅっ」と抱き締めたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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