第91話 「村長からの依頼③」
文字数 2,869文字
以降俺は、村長見習いとなった。
但し、村長見習いといっても、普段やる仕事は全く変わらない。
朝、リゼットに起こされ、ミシェルの家である大空屋において嫁全員と飯を食う。
たま~に、ミシェル以外の嫁実家で食べたりするイレギュラーはあるが……
皆でワイワイ言いながら、ご飯を食べるのは楽しい。
1日の計画を、最終的に決めるのは朝のこの時間だ。
当然ながら、前以って予定は立てるのだけど、栽培している作物の出来やその日の天気によって、行う仕事が大幅に変わったりする。
村での仕事の大部分は、自然が相手だからそんなモノだ。
朝は、大体こんな感じ。
昼間の仕事は、日によって違う。
まず村の共同作業である畑仕事は全員で従事する。
最近、農地の片隅に生まれたばかりの小さなハーブ園の手入れを、俺とリゼットとクラリスの3人で行う。
狩人のレベッカと森や草原での狩り、ミシェル母娘と一緒に大空屋の運営と店番もやる。
そして夕飯後の深夜には、ふるさと勇者としてクッカとのデートを兼ねた魔物の掃討を密かに行う……
レベル99の力があるから、比較的楽にこなせるけど、よくよく考えれば結構激務かも。
そして、これらの仕事をこなした上でジョエルさんのいう村長見習いの仕事が入る。
そもそも、村長ってどんな仕事なんだろうか?
ジョエルさんに聞くと、極めて地味だという。
税の徴収を主とした、領主との間に立つ調整役に村内の管理、村民の冠婚葬祭の仕切りなど。
そして村の防衛がある……
本来、領内の村と民を外敵から守るのは、戦う者と呼ばれる領主とその部下である従士の仕事だ。
そういう意味では、俺の住むボヌール村って、特異な村と言えるだろう。
外敵に対する防衛は、村民達が自身でやるのだから。
後は税金だが、数ある中で、地代のみはちょっち高め。
毎年の収穫に対して変わる、結構な税金を払う。
だけどそれ以外に、極端な負担や締め付けはない。
人頭税、相続税は格安だし、強制される水車小屋の、変な施設使用料金とか、無理やり駆り出される賦役もない。
その上、村は自治、村民は結婚&職業選択等を含め、行動&移動の自由を認められている。
ジョエルさんは仕事をする合間に、俺を引き連れて村長見習いになった事を告げて回った。
村民の反応は、概ね好評であった。
俺の普段の働き振りと嫁達のケアが、上手くいっているせいだ。
村の外柵修復に進んで取り組み、大きな貢献をしたのも大きい。
ジョエルさんの顔も、つい
「ははは、お前の評判はバッチリだな。でも幸先が良い、人徳があるのは村長の必須条件だから」
「それは、どうも」
「村長の仕事は様々だが、基本的な部分は変わらない。村を繁栄させるにはどうしたら良いかと常に考えるのだ」
確かに!
俺も、ジョエルさんの気持ちは大いに分かる。
空中に浮かんで、俺とジョエルさんが話すのを聞いていた幻影のクッカが『うんうん』と頷いている。
『クッカ、どうしたの?』
『私、ジョエルさんの気持ちがすっごく分かります。村の衰退を何とかしないと! 心の底からそう思ってしまうんです』
『へぇ! ありがたいけど、何故そこまで共感出来るのかな?』
『わ、分かりません! どうしてそこまで気になってしまうのか、が……』
俺がクッカと念話で会話している間も、ジョエルさんの話は続く。
「村を繁栄させるには、やはり世代交代を上手くやっていかないと……だが我がボヌール村には致命的な事件が起きた。リゼット達から聞いてはいるだろう?」
「はい! 3年前に起きた魔物の襲撃で大勢の村民の方が亡くなり、結構な数の若者が村を出て行ってしまった」
「その通り。だから私は常々心掛けている、村に若い人を呼ぼうと……全くの偶然だが、お前が村に来てくれたお陰で村の雰囲気が明るくなった。ありがたいと思っている」
「いえ、そんな……」
このボヌール村は、一見のどかで良い村だ。
しかし、様々な問題を抱えている。
さしたる産業が無い貧しい生活に加えて、頻繁に起こる魔物や肉食獣の襲撃。
3年前の大規模な魔物の襲撃では、クラリスの両親を始めとした大勢の村民が死に、エモシオンの町で会ったカミーユのように村の生活に嫌気が差して大勢の若者達が出て行ってしまった。
ジョエルさんは、にっこり笑う。
「お前ひとりのお陰で村はこんなに変わった。だからもっともっと若い人を呼ばなければ!」
「そう……ですね」
村長の立場として、ジョエルさんが若い奴を呼ぼうという気持ちは分かる。
でも、若ければ誰でも良いというわけにはいかないだろう。
もしも変な男が来たら……
リゼット達、村の女子の危惧は当然だといえる。
俺が密かに天誅を加えて闇に葬ったが、あの変態狼男のように村の評判を聞きつけて様々な意味で『食い物』にしようとするアホが出て来る可能性だってあるのだから。
だが基本的には、俺もジョエルさんの意見に賛成である。
やはり若い人間が、このボヌール村には必要だ。
「俺も若い人が来るのは大賛成です」
「ケンもそう思うだろう。お前にはだいぶ取られてしまったが、村にはまだ可愛い女の子が残っているしな」
そうなんです。
総取りハーレムは、さすがにヒンシュクなんでやりません。
だけどジョエルさんの言う通り、村には俺の嫁以外に5人ほど独身女子が居る。
それがまた皆、俺の嫁とはタイプの違う美少女揃いなんですよ。
さあ、貴方もこのボヌール村へ移住したくなったでしょ。
ああ!
さりげに見渡したら、すっごく手が挙がってる。
「まあ人間、結婚が全てではないが……村の為を考えると、彼女達にも良い相手を見つけたいものだ」
ジョエルさんはそう言うと、またにっこり笑った。
クッカほどじゃないけど、ボヌール村の問題は俺も共感出来る。
どうしてだろうと記憶を
俺が帰ろうとした、故郷の役場の担当者もそう言っていたっけ。
村を発展させる為に、日夜悩んでいると。
俺みたいな若者は、少しでも早く帰って来て盛り上げて欲しいのだと。
ジョエルさんと一緒に何か良い方法はないかと、考えていたら……
「旦那様ぁ!」
「ケン様ぁ!」
大声で俺を呼ぶのは、リゼットとクラリスだ。
そうだった!
今日は3人で、ハーブ園の手入れをする日なのだ。
愛娘達に気付いたジョエルさんも、手を振って応えている。
「あはは、リゼットめ。父の私も一緒なのにお前だけを呼ぶのか? まあ良い、お前の嫁全員を、絶対幸せにしてくれよ」
苦笑したジョエルさんは、俺を見ながらVサインを出してくれたのであった。