第9話 「拗ねる女神」
文字数 3,398文字
ひとりになった俺は、たらいに汲んであった水にタオルをひたす。
濡れたタオルで身体を拭うと、
寝室へ行って、ベッドにごろりと横になる。
「はぁ~、やっと落ち着いた……さあて」
俺は、大きく深呼吸した。
そして心の中で……呼び掛けてみる。
相手は……色々と助けてくれた『あの子』だ。
『ク~ッカちゃん!』
『…………』
『あれ、返事が無い。ただの
『屍じゃあ、ありません!』
『あ、居るじゃない?』
『もう! あ、居るじゃない? じゃあないです! ず~っと放置して!』
何か、すごい怒りの波動が伝わって来る。
ここは、素直に謝った方がいいだろう。
『御免! 申し訳ない、今からゆっくりと話そうよ』
『分かりました、約束です! ゆっくりじっくり……ですよ!』
機嫌を直したクッカの声を聞いて、俺は「ホッ」と胸を撫で下ろす。
あ、そうだ。
『仕切り直し』した方が良いな。
「ふっ」と気付いた俺は、改めてクッカへ、自己紹介をする事にした。
この異世界に来て、いきなりリゼット救出と、ボヌール村到着とかで慌ただしかったしね。
『じゃあ、改めて! 俺の名前は当然知っているだろうけど……地球からの転生者ケン・ユウキ、宜しくね』
俺が名乗ると、クッカは、
『はい! じゃあ私も改めまして! 天界神様連合後方支援課所属、D級女神クッカと申します』
『だよね! クッカちゃん、本当に宜しくね』
『あ、ちゃん付け要りませんよ。呼び捨てにして下さい、管理神様に言われていますので』
成る程!
やっぱり、この子は女神様なんだ!
『俺専任』の、女神様なんだ。
でも、あのエルフ女神や
『後、管理神様から伝言です。ケン様の年齢は15歳で誕生日は今日にしとくって』
『あ、ああ……そう』
異世界に来た、今日が俺の誕生日って……
相変わらず、適当な管理神様……
……まぁ、良いか。
うん!
そんな事より、俺はクッカともう少し距離を縮めたいぞ。
だから、彼女をさりげなく褒める事にする。
『クッカ! ところで君、凄く可愛いね』
『は?』
案の定、驚く声が可愛い。
『いやぁ、クッカの顔も声も可愛いから!』
『や、私なんか、あ、あまり可愛くないですよぉ』
照れてる、照れてる!
『頼むからまた俺の前に姿を見せてくれない?』
『…………』
『どうしたの?』
『だって……ケン様ったら……私の胸をじろじろ見るから……エッチなんだもん』
わぁぁ!
やっぱり!
胸へのガン見が、『ばれて~ら!』
このような時は、変に否定しない方が良い。
なんて、冷静に考えられるのも、やっぱりレベル99のせいかしらん。
『だ、だってさ! クッカは凄く可愛いし、胸がとっても綺麗だったから! つい見ちゃったんだよ』
俺は、はっきり言い切った。
でも、これは嘘じゃない。
本心だ。
だからクッカも……
『あ、ありがとう……ございます。私を褒めて頂いて』
『そ、そうなんだ! だから俺、声だけじゃ嫌だよ。クッカを見て話したい』
『……分かりました』
よっし!
やった!
『……念の為言っておきますけど……私……容姿にまったく自信が無いのですが……』
『良いの! これ命令!』
『もう! ケン様は強引なんですから』
何か、魔力を感じる。
清冽で爽やかな気配が生じている。
すると……
いきなり、ホログラムのような3次元画像の人影が立ち上がった。
そうか!
実体じゃないって言ってたな、管理神様。
徐々に、映像がはっきりして来る。
クッカは、異界で会った通りの容姿だ。
美人だけど、親しみやすい雰囲気の顔。
綺麗な金髪碧眼。
細身だけど、おっぱい大きい。
やっぱ!
クッカは可愛い!
超可愛い!
女神なのにまじ天使!
『……あまり可愛くないでしょ?』
『そそそ、そんな事! 全然! ありません!!!』
念話なのに!
俺は盛大に噛みながら、大きな声で叫んでいた。
「でも……」
俺はつい、口篭る。
少しだけ迷ってから、やはり思い切って言う。
そうじゃないと、すっごく「もやもや」して来るからだ。
俺が気になって仕方が無いのは、クッカの着ている『服』である。
『身体のラインはバッチリ見えるし、胸の形も見えるような見えないような……それ、綺麗で素敵だけど微妙な服だよな、クッカ』
『え?』
一瞬驚くクッカであったが、俺の言いたい事を理解すると真っ赤になってしまう。
幻影とはいえ、すごくリアルだから色白の肌が真っ赤に染まるのがはっきりと分かる。
『もう! やっぱりケン様はエッチ!』
ああ、もじもじして恥らうクッカも可愛い。
でも……
男という動物は、しょーもないな。
先程まで、リゼットの可憐であどけない美しさに魅かれていた癖に……
今はクッカの、透明感溢れるたおやかな美しさに参ってしまっている。
俯いていたクッカが、「そ~っ」と顔を上げる。
そして、微笑む。
『でも安心して下さい。幻影とはいえ、この
意外な事実を聞いて、思わず「ホッ」とする。
そんな俺を見て、クッカも嬉しそうだ。
『でもさっきケン様がゴブリンと戦ったのを見て、ちょっと羨ましかったです。困った女子の為に一生懸命戦う男の子って素晴らしいですもの』
『お、おう!』
『でも今度は私の為に……戦ってくれると嬉しいな』
『おう!』
女神の為に戦う!
なんて、どこかの漫画か、特撮ヒーローものみたいで格好良い。
具体的に、どこの誰と戦うかは不明だが、深く考えるのは野暮。
それより、可愛いクッカとの会話は超、楽しい。
リゼットもそうだが、性格グッド美少女との甘い会話やイチャは、健康男子にとって最高だ。
し・あ・わ・せ!!!
だけど……
幸福なのは確かにいいが、いつまでもこんな事をしているわけにはいかない。
限られた時間は、有意義に使いたい。
まだまだやる事が、俺にはたくさんある。
俺がクッカへ話したのは、この夜の間に村外で、自分の能力の様々な試運転をしたいという提案だった。
魔法は勿論、体術その他も含め出来る限り!
昼間のゴブとの戦いだけでは到底不十分であるし、俺には試してみたい他のスキルがあり過ぎたのだ。
『そうですね。ちなみに、魔法を使う度に消費する魔力量は全く問題ありません。全然気にせずバンバン魔法を使ってください。ケン様の魔力量は中級の神様に匹敵するくらいで、私なんかより数十倍も多いですから』
は!?
神様に匹敵?
クッカの数十倍?
やっぱり、レベル99って凄いんだ。
『数値的に、ケン様が人間というには不適格過ぎますね』
確かにレベル99って、「これでも人間で~す」と言うのは詐欺のような気がする。
『ご安心下さい、魔力量の回復力もバッチリですよ! 何せ約1分間あれば魔力を全て使い切ってもすぐ満タンになります』
『あはははは…………馬鹿馬鹿しいくらい凄すぎて安心したよ』
こんな俺の笑いの事を「からからに乾いた笑い」っていうのかもしれない。
呆然としている俺を見たクッカが、悪戯っぽく笑う。
『うふふ……それにスキルは魔法系も体術系も武技系もその他系もオールスキルという言葉通り、ケン様は全て習得済みです。何でも最初に一回使えば練度は次回からMAXな神クラスへ達します』
『MAXな神クラス?』
『はい! 巷で良く言われる達人レベルの遥か先に、超人、使徒、大使徒、そして最後に神というMAXな超究極練度レベルがあるのです』
『……はは……これも馬鹿馬鹿しいくらい呆れるけど……はっきり言ってありがたいな』
『はいっ!』
俺の声に応えて返事をする、クッカのやけに元気な声が心の中に響いていた。