第57話 「ミシェルの過去④」
文字数 2,535文字
元ボヌール村の住人、最低最悪の馬鹿男カミーユの所属するクランのリーダーだ。
雑魚としかいえない部下達が、俺にあっさりとやられてしまったので、奴は我慢出来ずとうとう剣を抜いてしまう。
ああ、もう
俺が得物を持たない素手でも、卑怯なんて関係ないのだろう。
身構える俺へ、謎の内なる『声』が囁きかける。
クッカのアドバイスとも違う、己の感情が発する声である。
お前なら大丈夫!
あんな、なまくら剣は素手で受け止めてやれ!
素手で剣を受け止めろ?
その疑問と懸念を俺の心が確信へと変えて行く。
問題なし……と。
そもそも俺の能力レベル99、そしてオールスキルってどういう能力だろう……
一回だけ、こっそり自分の能力値を見たが、全てが999,999というインフレというか無茶苦茶な数字だった。
しかしオールスキルと言いながら、クッカが居ない時には半人前のようなあの体たらく。
頭が?マークで一杯になった俺は一度、クッカへ聞いた事がある。
特に能力値とスキルとの兼ね合いに関してだ。
まず能力値だが、これは正確な数字では表せないという。
999,999というのは無理やり当てはめた
神様の力は、例えていうのならレベル100。
レベル99はそれに一歩足りない『人の子』だという意味であり、すなわち神様には及ばないが、人の子の中では突出した最高の能力らしい。
そしてスキルとの兼ね合いだが……
スキルを発動させる為には必要な能力値の消費があるという。
すなわち見た目の能力値が高いだけでは駄目であり、決められた量を消費するスキルをその都度発動させないと与えられた能力は発揮出来ないのだと。
まあ、いちいち発動の手順を行うのが面倒臭いので、行動開始の際の自動発動という形にしているが普段の俺は一般の人間。
もし身体強化のスキルを発動しなければ、殴られたら痛い事に変わりは無い。
生命力は高いから致命傷が来ない限り即死する事はないが、万が一スキルが発動しなければとてつもないダメージを喰らう事もありえる。
そしてクッカが居なかった時に能力が充分発揮出来なかったのは、先の作戦名クッカでよ~く分かった。
クッカは色々な意味で俺の魔法の『発動体』に近いのだ。
すなわち、俺が完璧な能力を発揮する為にはクッカが居た方が万全だという事らしい。
もう!
管理神様め!
最初にオールスキルをくれた時に(仮)と書いてあったのをつい見落としてしまったが……仮とはクッカと一緒に居る時に完全に発動する事が条件である。
またオールという範疇はこの世の全てのスキルではなく管理神様の決めた極めて曖昧なものだということらしい。
『オール』って言っていたのに、それって詐欺じゃないか!
じゃあ、最初に『準オール』とか言って欲しかった。
だったら納得するのに。
だけど、俺の理屈なんか関係ない。
いくら抗議しても無駄なのは、転生した際の管理神様との会話でよっく理解している。
この世界では神様の決めた事が、全て正しい。
神様が、白と言えばカラスも白。
ん?
たまにアルビノが居るって?
そういうボケは嫌いじゃないけれど……まあ神様の言う通りに異世界の摂理は決まるって事を言いたいのよ。
まあ、文句を言っても仕方が無い。
今の状態でも俺は、チート過ぎるくらいチートなのだから。
閑話休題。
クランの髭リーダーは思いっきり剣を振り下ろして来る。
がつん!
鈍い音がした。
俺が、素手で奴の剣の刀身を受け止めたのだ。
「しめた!」と言わんばかりに、にやっと笑う髭男。
しかし奴の表情は、すぐ驚愕といっていいものへ変わって行く。
普通であれば、手が切り落とされている筈が、何も起こらないどころか俺がにっこり笑っているからだ。
ミシミシミシ……
何かが壊れる音がする。
バキン!
何と、掴んでいた刀身が真っ二つに折れてしまった。
俺が、鋼鉄をあっさりと握り折ったのである。
「ひえええええっ!」
悲鳴をあげる髭男。
俺は、すかさず魔法を掛ける。
こんな時には便利な、『沈黙』の魔法にかぎるぜ。
これで髭男が、もう悲鳴をあげたりする事は出来ない。
ついでに、カミーユにも掛けておこう。
騒がれるといけないから。
呆然とした表情で、ぺたんと座り込んだ髭男。
ああ、臭い!
びびって、おしっこ漏らしてるぜ。
え?
可哀そうだから許すかって?
いいええ~
俺は平等主義だから、髭の可愛い部下と同じように扱ってやる。
散々餓鬼と罵倒された分も利子を付けて返してやろう。
「おい、てめぇ、餓鬼の俺に世間を分からせてやるとか言っていたな? 悪さばっかりしているとこうなるって、逆によ~く教えてやるぜ」
ぱんぱんぱんぱんぱんぱ~ん!
俺は髭男を部下同様、頬を張り飛ばした。
沈黙の魔法が掛かっているから、髭男は悲鳴をあげる事が出来ない。
「…………」
髭男の頬もあっと言う間に俺のビンタで、どす黒い紫色に変わってしまった。
さっきまでの偉そうな態度はどこへやら、奴の顔は、涙と鼻水にまみれている。
口からも、盛大に血もまき散らしている。
って、良く見たら……気絶していた。
俺は、ビンタする手を一旦止める。
まあ、これくらいで許してやるか……
いや待て!
こいつ、俺の嫁達を無茶苦茶にするって言ってたよな。
許せん!
もう少し、お仕置きしてやろう!
こんな時には、頼りになる麗しき嫁に相談だ。
『ク~ッカ!』
『は~い、待ってましたぁ』
俺の呼び掛けに、手を挙げて返事をしたクッカ。
そして、いかにも嬉しそうな笑みを浮かべて空中から降りて来たのである。