第63話 「下僕になります!(嘘)」
文字数 2,399文字
俺は3人の男達を制止させようと、大きく両手を挙げた。
ややオーバーアクション気味だが、効果はバッチリ。
向かって来ようとした、ステファニーの従士らしい男3人も反射的に止まる。
ここで暴れては、絶対にまずいから。
店に迷惑がかかるだけでなく、衆人環視の目に晒《さら)されれば俺の『秘密』がバレる可能性も高くなる。
なので、とりあえず『降伏』だ。
「ええっと、気が変わった。俺、ステファニー様の従士になりますよ」
「決めるのが遅い! それに勘違いしないで! 従士じゃなくて下僕!」
「はぁ……」
「良い? 貴方は私の命令全てに従う忠実なる下僕なのよ! ああ、男を屈服させるって何て気持ち良いのかしら」
従士じゃなく、下僕。
わざわざ、言い直したステファニー。
男を屈服させる事が、気持ち良いだって?
ああ、こいつは歪んでる。
根っからの、女王様体質なのだろう。
男を
とんでもない快感を覚えているらしく、小さな拳を握り締めながらぶるぶると身体を震わせていた。
改めて言う。
見た目が派手だけど、近くでステファニーを見ると結構可愛い。
だから、ちょっと
可愛いのに凄く『痛い子』、それが、ステファニー。
俺が、冷めた目で見ていたら……
敏感に察知したようで、こっちを睨んでいる。
「何、貴方、その呆れたような目は? まだ反抗する気?」
「いいえ、滅相もございません」
「じゃあ、これからは大人しく私に従って貰うわ。とりあえずお城まで来るのよ」
「了解っす」
「ダ~リ~ン!」
「旦那様!」
レベッカとミシェルは、俺がステファニーに連れて行かれると知って切なげに叫んだ。
ステファニーは、嫁達の悲しみも快感なのだろう。
さも面白そうに笑う。
ああ、意地が悪い。
「ふふふ、ケンとやら……それで、この女達はどうするの?」
「いや、ステファニー様の下僕になるのでしたら、仕方がないので別れます(きりっ)」
俺は無表情で、ステファニーに向かって敬礼する。
実は、馬鹿馬鹿しいので笑うのを必死に
「お~ほほほほほ、よ~し、よし。漸く私の奴隷、いえ下僕になる覚悟を決めたようね」
高らかに、笑うステファニー。
やっぱ、コイツは悪役令嬢、ドが付くSお嬢様だ。
「ダーリン! そんなぁ! え?」
「旦那様ったら、何言ってる……の?」
レベッカとミシェルの悲しみの言葉が、急に途中で止まる。
振向いた俺が、笑顔でウインクしたからだ。
ステファニーや従士達からは、俺の表情は見えないからバレてはいない。
『合図』を受けた、レベッカとミシェルは黙り込んだ。
昨夜のカミーユ達の件もあったし、俺に何か考えがあると理解したようである。
念話を使って伝えようかと、思ったがやめておいた。
レベッカ達は念話がまだ未経験。。
いきなり使うと、吃驚して騒ぐかもしれない。。
それは、まずい。
だからこの場では使わないが、嫁ズ全員とはいずれは念話が使えるようにおこう。
うん、それが良い。
「店主さん、食事は中止よ! 私、お城に戻るから。食べたお金はお父様へ請求して!」
「はい、かしこまりました、お嬢様」
ステファニーは、店主が従ったのを聞いて満足そうに頷いた。
ああ、自分の思い通りに行くと嬉しいんだ。
「アベル、アレクシ、アンセルム、さあ、行くわよ。ケン、私が先頭を歩くから、最後方から着いて来て!」
先頭に立ったステファニーは、結構切れが良い動きを見せて、さっさと歩いて行く。
こうして俺は、ステファニー主従について店を出たのであった。
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ヴァレンタイン王国の南方に位置するエモシオンの町は、典型的な地球の中世西洋風の町。
中央広場を中心にして放射線状に伸びた道により各区画が分かれている。
だが、ここは辺境ともいえる片田舎の町である。
中央広場自体は極めて小さく、直径は200mほどしかない……
その周囲に、小規模な造りの様々な商店が40軒余り連なっている。
そして町から少し離れた小高い丘の上に、領主オベール騎士爵様の城館があるのだ。
当然ステファニーは、その城館へ向かっている。
彼女が居住するその城館へ俺を連れて行って、下僕として召し使うらしい。
下僕ねぇ……
確かに美少女と四六時中、一緒に居るのは嫌ではない。
だが、ステファニーの性格なら散々顎で使われて、機嫌が悪い時は罵倒されるのは確実。
挙句の果てに、「地べたに這いつくばって私の靴を舐めろ」なんて言われたら敵わない。
虐められるのが嬉しい人にはウエルカムであろうが、俺にそのような趣味はない。
『うふふ、ケン様そろそろですねぇ』
空中から、クッカがほほ笑み掛けて来る。
食事の際は姿が見えなかったが、彼女は店を出るとすぐに現れて、俺を見守っていた。
最近のクッカは他の妻達との兼ね合いを理解し、登場する頻度をとても良く考えている。
今回も、絶妙なタイミングで現れたのだ。
『あの辺りで……いかがでしょうか?』
クッカが指差した方向は、完全に
愛する美女神妻の言う通り、そろそろ『下僕ごっこ』は終わりとしよう。
俺は神妙な顔付きになって、頭を深々と下げた。
「ええっと……ステファニー様、皆様……ちょっと良いですか? 私からぜひお話したい事があるのですが、そこの路地でちょっと……」
俺の突然の申し出に、ステファニーは