第3話 「ど新人女神」
文字数 3,394文字
『はい! 初めまして! 天界神様連合後方支援課所属、D級女神クッカと申しまぁす』
『て、天界? 神様連合? こ、こうほう…何?』
肩書きが長い……
長すぎるよ。
それに凄い早口だし……
俺が覚えきれずに首を傾げたので、クッカは再び名乗る。
今度は若干ゆっくり目だ。
『復唱致します! 天界神様連合、後方、支援課所属、D級女神、クッカです!』
『どっきゅん女神?』
『D級女神ですっ! もう! ……管理神様、私から説明してさしあげても宜しいですか?』
『ああ、いいよ~ん』
クッカは俺にいじられて、ちょっとだけ頬を膨らませた。
だけど、直接俺と話す許可を管理神様から与えられたので、嬉しそうに話し始めた。
『はいっ! じゃあ、改めてご説明致しましょう。えっと、天界は我々神が住まう場所です。そして神様連合とはですね、創世神様をトップにして、様々な神様の所属する組合みたいなものです』
『ふむふむ』
『そしてケルトゥリ様、ヴァルヴァラ様含めて私達の所属する後方支援課というのは創世神様の教えに基づき、天界の声を地上の人々へ授けて加護を与える、すなわちサポートするのが主な業務のセクションです』
『で、クッカちゃんはその部署の新人なの?』
『はい! 私、女神になりたての、ど新人なのですが、この世界の管理神様からいきなり推薦を頂き、ケン様の担当候補として選ばれました。光栄の極みです!』
ど新人女神?
クッカちゃんか……
どれどれ?
俺は、改めてクッカを観察した。
先の先輩女神ふたりより、遥かに人間っぽい。
見た目、俺とは違い、完全な外人さんって、感じだけど……
うん……身長は、そこそこ高い。
大体……170㎝少し切るくらいだろうか?
そんな、極端に高くはないか。
でも、モデルみたいに顔が小さいなぁ……
年齢は、雰囲気的に18歳くらい?
長いさらさらの金髪が揺れてて、切れ長の涼しげな碧眼が綺麗だ。
鼻筋が通ってるし、整った可愛い顔立ちをしてる。
でも冷たいって感じじゃなく、何か親しみやすく、温かい雰囲気だ。
可愛い桜色の唇が美味しそう。
すらりとした抜群のスタイルは、素晴らしいぞぉ。
そして、白い薄絹のような古めかしいドレスを身に纏っている。
確か神話に出て来る女神様が着ている、キトンって服だよ、これ。
おお!
滅茶苦茶大きくはないが、形の良い胸はそそるなぁ。
あれ?
ええっと……胸が透けてないかぁぁぁ!?
そんな俺の、舐め回すような邪な視線を感じたのだろうか?
クッカは「ぱっ」と手で胸を隠してしまった。
あ、やっべ!
クッカちゃん、真っ赤になって俯いている。
さっきの話を聞いた上、俺のエッチな視線を感じたから、
「こいつ、凄くスケベな奴!」なんて思ったろうなぁ……
でも、おっぱいが好きなのは、男の本能なんだ。
許して欲しい……
クッカが黙り込んでしまったので、管理神様の声がまたも聞こえて来た。
『クッカを選んだ場合は、君のふるさとと若干趣きは違うけど、いかにもっていう感じの小さな農村に送るよ~ん。多分そこなら、前世で希望したものに近い暮らしが出来る筈。いわゆるスローライフだよ~ん』
小さな農村?
スローライフ?
もしかして、俺が帰ろうとした故郷の田舎に似てるのかな。
ああ、帰りたい、故郷へ……
あくせく暮らしたくない!
スローライフしたい!
それがもう、無理なのは分かっていても、暮らすならのんびりした異世界の村が絶対良い。
女神ふたりを怒らせたから、もう俺に選択肢は残っていないだろうし。
こんな俺には、新人で可愛いタイプのクッカちゃんが一番合いそうだ。
『スローライフ! それです、それっ! 俺、そんな村で静かで安全に暮らす方が全然良いですもん』
俺は、確信した。
やはり都会なんか真っ平だという事を。
だが、管理神様は聞いて来る。
しかも驚く事に、口調がいつの間にか、凄く真面目になってるし。
『その決意は絶対?』
絶対なんて、いきなり言われても困る。
だけど、初志貫徹だ。
俺は、しっかり返事をする。
『はい! 絶対です!』
でも、管理神様の追及は、なおも続く。
『一回約束したら、もう取り消し不可だよ、約束だよ! 僕に誓える?』
『僕に誓えって……ああ、管理神様にって事ですね。全然OKです、誓いますよ!』
俺は再びOK! と返す。
もう絶対に、間違いありませんよって、感じで。
でも、これって……
俺の考え方の裏付けや、
少し……不安が過ぎった。
『よし、分かった! これで君の加護の内容が決まったよ!』
『加護の内容が決まった? 答えって単にどこへ行くか? だけじゃあないのですか?』
『違うさ。もしエルフの国や王都へ出て勇者になりたいって言ったら、スキルは少しプレゼントしたけれどレベル1からのスタートだった』
『レベル1? まあ、良くありがちですね』
良くありがち……
敵と戦いながら様々な経験を積んで、徐々にレベルをあげスキルを覚え強くなって行く。
至極まっとうだ。
普通はねぇ、そうでしょう?
俺は、田舎の村でコツコツとレベル上げをして行く、ロールプレイングゲームの主人公をイメージした。
しかし神様からの提案は、全く意外なものであった。
『ふふふ、確かによくありがちだね。だけど今の答えのお陰で君は真逆の力を得る事になった』
『真逆???』
『うん! 今の問いは君を試したのさ。元々君の死が手違いな上に、故郷に帰り静かに人間らしく暮らす事に対して、他の神様も評価していたからね』
他の神様も、俺を評価?
それはありがたいけど。
まあ、何か少しは良い事があるかもしれない。
『へぇ! それはどうも……でも真逆って?』
『うん! レベル1の反対はこの世界のレベル上限であるレベル99……君はレベル99とオールスキル(仮)を与えられるって事だよ』
管理神様は凄い事を……あっさりと言ってのけた。
『は!? い、今、何と?』
『我々神様にも匹敵するレベル99の数値とオールスキル(仮)の能力をあげるって言ったのさ』
レベル99!!!
神様に匹敵する?
な、何!? その圧倒的な最終形態バージョン……
ただ(仮)ってついているのが気になるけれど。
俺は絶句してしまう。
『小さな村の平凡な暮らしでレベル99!? ……要らないでしょう、そんな凄い力!』
『いや、無欲な人は報われるって、よく神話にも例えがあるだろう? それにこれ神様連合の最終決定事項だから君は断れない』
『…………』
『あ、そうだ! あとひとつだけ忠告しておくよ、これから行く村には領主が居る』
『領主が?』
『うん! 領主の耳へ、君が持つ凄い能力の話が入ったら』
「入ったら?」
「絶対に王都へ報告が行く』
『報告が!? 絶対に?』
『そう! どこの国も、勇者が現れたら自国へ取り込もうとしている。だから各地の領主にも、王様から勇者発見料として莫大な報奨金が出るんだ』
『は!? 勇者発見料?』
……それって、莫大な懸賞金を懸けられた、『危ない犯罪者』みたいじゃないか!
俺は、急に脱力した。
『もしそうなれば、君は間違いなく王様に呼び出され勇者決定となる! 君の言う厄介ごとに散々使われた挙句、確実に魔王退治の任務を仰せつかる。まあ気をつけてね』
『そんな! じゃあ目立たないよう、隠れてこそこそ暮らすんですか?』
『そういう事。どうせケン君は、静かにひっそり暮らすのが望みだろう? じゃあ、クッカ。ケン君をしっかりサポートしてね~』
『はいっ! かしこまりました!』
『というわけで、せいぜい頑張って。まったね~、ばはは~いっ』
管理神様が別れを告げた、その瞬間!
俺の目の前は真っ暗になり、意識は手放されたのである。