第55話 「ミシェルの過去②」
文字数 2,647文字
カミーユは、ねめつけるような目でミシェルを見た。
「そんな事、俺は認めないぜ」の拒否オーラが半端なく出ている。
案の定、カミーユの口からはとんでもない
「俺は、な。お前と別れたなんて全然思っていないぜ」
「カミーユ!」
レベッカが大きな声でカミーユを
「うるせぇ! レベッカは引っ込んでろよ。部外者が俺達の間に入って来るんじゃねぇ……」
カミーユはそう言うと、俺をちらっと見た。
相変わらず目付きが悪い。
まるでチンピラだ。
「ん~? ミシェルよぉ、お前の結婚相手って、まさかこのガキなのか?」
風貌からしてカミーユは多分、20歳くらいだろう。
こいつから見れば、15歳の俺は確かにガキだ。
しかし俺の事を聞かれたミシェルは何故か……答えない。
「…………」
ミシェルが黙り込んだのを良い事に、カミーユは言いたい放題である。
「だからよぉ、クソつまらない村なんて一緒に出ようって言っただろう? あんなしょっぱい村に居るから、こんなガキ相手にする事になるんだぜ」
クソつまらない?
しょっぱい?
よく、ボヌール村にそんな事を言えるな!
お前、自分の生まれた
まだ同郷出身者同士、仲間内で故郷を茶化すのは許せる。
俺達の地元は超田舎だよなぁ……なんて笑い合うのは許せる。
だけどこいつ、カミーユという男の口調には酷く悪意が籠っていた。
あからさまに、ボヌール村を馬鹿にしていた。
俺の第二の故郷をよくも……
てめぇ、許さねぇぞ。
「はぁ? お前、何か機嫌が悪いのか? 餓鬼ぃ」
カミーユは再び俺の顔を覗き込んで来た。
おい、近いよ、近い。
汚ねぇ面を俺に近づけるな!
そう、はっきり言ってやりたい気分である。
クッカ達嫁ズなら、ともかく。
男の顔なんか、間近で見たくねぇ。
特に、てめぇみたいな最低な奴の顔はな。
不愉快そうな俺を無視して、カミーユの口は止まらない。
「おい、ガキ! お前さぁ、もうミシェルとエッチさせて貰ったのか? こいつ、たまらない身体してるだろう?」
「…………」
俺が無視していると、カミーユは更に調子に乗る。
「まあ頭は馬鹿だけど、身体だけは最高だからな。俺も随分楽しませて貰ったぜ」
おいおい……
何て事言うんだ、コイツ。
ひとつ分かったのは、カミーユって男は最低最悪の馬鹿野郎だって事だ。
俺同様、ミシェルもさすがにうんざりしたようだ。
「カミーユ、あっち行ってよ。一緒に飲む筋合いなんか無いわ。貴方はボヌール村を見捨てた人間……もう、よそ者だもの」
「よ、よそ者だとぉ!」
ミシェルの言った、『よそ者』という言葉がカミーユの心の琴線に触れたらしい。
拳を振り上げて、激高している。
だが傍観者で居ろと言われたレベッカも、醒めた視線をカミーユに投げ掛けた。
「……さっきから聞いていれば良くそんな酷い事言えるわね。あんた、ミシェルのお父さんに命を助けて貰った癖に」
何だ?
こいつ……ミシェルのお父さんに命を助けて貰ったのか?
それでいて……この偉そうな態度かよ。
「うるせ~! あんなゴブ共、俺が本気出せば簡単に倒せたんだ。それをあの親父が無理矢理、俺達を逃がしやがって」
ぱあん!
と、その時。
肉を打つ音が店内に鳴った。
ミシェルがとうとう我慢しきれないといった表情で立ち上がり、カミーユの頬を張ったのである。
張られたカミーユは痛む頬を押えてぺたんと尻餅をついてしまう。
「てっ、てめぇ! よくもやりやがったな! 身体しか能がない女がぁ!」
カミーユの罵声に、レベッカが思わず反撃する。
「何て事言うの! この馬鹿男!」
「うるせ~、男女ぁ!」
カミーユは立ち上がってレベッカを殴ろうとし、レベッカはミシェルを守ろうと立ち上がる。
ほう!
『男女』か……
言い得て妙かもしれないが……最悪最低なお前が言っちゃいけね~よ。
そろそろ、こいつにお仕置きをしても良いだろう。
がしっ!
俺は素早く反応して、カミーユの右腕をしっかりと掴んだ。
「おい、お前、カミーユ……とか言ったよな」
「くうう……放せ、ガキ! 馬鹿野郎!」
俺を睨みつけるカミーユ。
ここで、見物していたカミーユの仲間らしい冒険者クランの男共がやって来た。
「おいおい、どうした、どうした」
仲間の声を聞いたカミーユが、喜色を あらわにした。
「助かった!」って顔に描いてある。
「おお、兄貴達! そうだ、兄貴達にこの女共を進呈しますよ、好きに思う存分やっちゃって下さい」
「うは、良いのか? 結構滅茶苦茶にしてしまうが」
「どうせ、俺の女ですから、全然オッケーですよ、うぎゃっ! いたたたた」
俺が黙ってカミーユを掴んだ腕に力を入れると、奴は情けない悲鳴をあげた。
全然力を入れていないのに……大袈裟なんだよ。
でもさ、さっきから黙っていれば……なんちゅう会話をしているんだ。
ここまで来ると、俺の怒りもそろそろ限界である。
だから、きっぱり言ってやった。
「おい、いい加減にしろや、貴様ら。俺の嫁達を勝手にてめぇらのもんにすんじゃねぇ」
口調が「がらり」と変わった、俺の言葉を聞いた冒険者共がいきり立った。
「何だぁ、このくそガキ!」
「こらぁ」
「生意気こくと、しばくぞ」
しかしなぁ、いくら凄んでも全然平気。
魔物を含め、今迄戦った相手に比べれば、こんな奴等は雑魚だって分かっているから。
でもこのまま店で戦えば、この町の衛兵様が飛んで来る。
スターップってね。
もしも衛兵に連れて行かれたら、俺は悪くないのに喧嘩両成敗になるかも。
良くて罰金。下手すれば牢屋行き。
そんなの、真っ平御免さ。
だから目立たない場所で、懲らしめてやる。
徹底的に、うんとな……
「おっさんたち……ここじゃ、店に迷惑がかかる。外に出ようぜ」
俺がカミーユの腕を掴んだまま、空いた方の手をくいっと動かす。
卑劣な雑魚冒険者共へ、外でケリをつけようと促したのであった。