第127話 「戻って来た平和」

文字数 2,123文字

 服を着た俺は、扉を開けた。
 外にはリゼット達、留守番組の嫁ズが全員居た。 

 リゼット達は、にこにこしている。
 俺が無事に戻って来た事も知っているみたいだし、初めて会う女の子が目の前に居るのに、ご機嫌だ。
 
 これは……

「うふふ、大丈夫です。神様から私達へお告げがありました。すべて聞いていますよぉ」

「「「「そうで~す」」」」

 ありがとうございます!
 管理神様ったら、またまたナイスフォロー。
 村を戻してくれた事といい、良い仕事しますねぇ。

 俺はさくっと経緯を話してから、早速クッカ&クーガーを紹介した。
 だけど嫁ズの中で、もう打合せはしっかりと出来ていたようだ。
 クッカとクーガーの前で、リゼットは、はきはきと挨拶する。

「クッカ姉、クーガー姉、これから宜しくお願いします」

 そしてレベッカ達も斉唱。

「「「「宜しくお願いしま~す」」」」

「皆さん、改めまして! 宜しくお願いしますねっ!」

 嫁ズの挨拶に対して、朗らかに返すクッカ。
 俺にしか見えない幻影ではあったが、クッカは村で暮らしている。
 嫁ズとは、全員気心がしれている。
 
 しかし……
 クーガーの方は、無言だ。
 暫し経っても返事をせず、終いには俯いてしまう。

「…………」

 俺は心配になって、俯いているクーガーの顔を覗き込んだ。

「どうしたクーガー?」

 ああ、目が真っ赤。
 涙が、一杯溜まっているじゃないか。

「おいおい」

 俺が再び促すと、クーガーは漸く口を開く。

「わ、私は……世界を滅ぼそうとした悪の魔王だぞ。そして皆からケンを無理矢理奪おうとした酷い女だ。……こ、こんな私でもお前達は仲良くしてくれるのか?」

 辛そうな口調で、口籠りながら尋ねるクーガー。
 しかし笑顔のリゼットが、「ぽ~ん」とクーガーの肩を叩いた。

「もうそれは言いっこなし。これからは皆、同じ妻同士なんだから一致団結しましょう、クーガー姉」

 再び姉と呼ばれて、クーガーの涙腺はとうとうパンクしたようだ。

「私が姉? お前達の姉! う、うわああああん!」

 クーガーったら……大泣きしちゃって。
 さっきまで冷酷非情な女魔王だったのに、すっかり涙脆い美少女嫁になっちゃった。

 ホント……可愛いぞ、お前。

「ふたりとの出会いは、私の時と一緒で……良いのですよね?」

 ソフィことステファニーが言う。
 そう……
 クッカとクーガーは、遠くの国から旅をして来た双子の美少女姉妹。
 そのような触れ込みで、ボヌール村へ移住する事になるだろう。

 嫁ズ全員が嬉しそうに微笑んでいるのを見て……
 俺は、確かな幸せを予感していた。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ソフィの言う通り、クッカとクーガーの『サオトメ姉妹』は俺と街道で知り合って、ボヌール村にやって来た――という事にしたのである。
 ちなみに西の草原での魔王軍との激闘の跡は、管理神様が処理してくれたらしく全く痕跡が残っていなかった。

 管理神様、超が付く、スーパーナイスフォロー。
 やっぱり、貴方は素晴らしい仕事をしますね。
 
 良~く考えたら……管理神様。
 貴方だっていろいろな尻拭いで、大変だったんですもの。
 どうすれば皆が幸せになれるか、考えてくれたんですよね。

 俺には惚けた口調で話す管理神様が、いかに深謀遠慮の存在なのかが改めて実感出来たんだ。

 ベイヤールは何も無かったかのように(うまや)に居たし、ケルベロスやジャンも無事に村へ戻されていた。
 ジョエルさん以下村民の方々に関しては、寝ている間に全て事が終わったので、こちらも問題無し。
 全てが万事丸く収まったのである。

 こうして俺と嫁ズには再び平和な日々が戻って来たのだ。

 ……月日が流れた。

 俺と嫁ズが村で働く日々は、ますます充実したものになった。
 新たに嫁として加わったクッカとクーガーも優秀な女の子だったから。
 人間に転生したが、管理神様はふたりに魔法の素晴らしい素養を与えてくれたので、上級魔法使いレベルの力がある。
 
 ちなみにクッカは回復系の薬師、クーガーは戦士としての優れた適性があったのでボヌール村にとっては凄く貴重な人材となったのだ。
 但し、俺のレベル99同様おおっぴらに使うとまずいので、注意しながら地味に能力発揮したのはいうまでもない。

 そんなこんなで、俺がボヌール村へ来てだいぶ経った。

 もう少しで16歳の誕生日(ちなみに俺の誕生日は管理神様が適当に決めた日だ)を迎える事になるが、その日は俺と嫁ズが心待ちにしている日でもある。
 
 ボヌール村のあるヴァレンタイン王国の法律で定められた結婚OKの日……そう、俺は16歳の誕生日に、嫁ズと正式な結婚式を挙げる事になったのである。
 
 ボヌール村では、久々に行われる結婚式だという。
 村民達も、めでたい日を楽しみにしているだろう。
 村中がお祭りのようににぎやかに、そして朗らかになるのは間違い無い。

 誰もがその日を、指折り数えて待っていたのである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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