第118話 「魔王軍侵攻せり⑤」

文字数 2,309文字

 興奮するクッカを、俺は一生懸命(なだ)める。
 俺だって、気持ちは良く分かる。
 
 いくら気持ちが動じない冷静のスキルがあっても、「ユーは魔王にそっくり」だなんて言われたら暴れる。
 至極当然だ。
 しかし、ここは冷静にならなければ……

『クッカ、落ち着け。もう少し話を聞こう』

『はぁはぁ……わ、分かりました』

 クッカは、相変わらず凄い目でバルカンを睨んでいる。
 まあ落ち着いて考えれば、こいつが原因でなければ恨むのはお門違い。
 全くの逆恨みだ。
 でも、今クッカに、そんな事を言ったら殺される。

 クッカに睨まれても、禁断の魔法が効いているせいか、バルカンの奴は相変わらず放心状態だ。
 
 なので、今度はまた俺から質問を続ける。

『そもそも……魔王というのはどんな奴なんだ』

『魔王クーガー様はいきなりこの世界に現れた。そしてそれまで居た魔王をあっさり倒すと、悪魔騎士エリゴスを召喚して右腕とし、新たな魔王軍を編成し始めた』

 魔王が、いきなり降臨?
 俺は、魔王の出現理由が何なのか全然分からない。
 良く読むラノベにも、魔王が存在する理由を突き詰めたものは少ない。

 だから、魔王がいきなり現れても「そんなものですよ」と言われたら……
 「はい、そうですか」と答えるしかない。
 そして魔王の右腕……悪魔騎士エリゴス……
 多分、そいつがナンバーツーなのだろう。
 
 よっし!
 だんだん、話が見えて来た。
 とりあえず、こいつには、もっともっと話をさせるように誘導しよう。

『魔王クーガー様は冷酷無比の女魔王だ。凄まじい魔力を誇り、高い攻撃力を持っている』

『その女魔王が何故、この俺に執着する。人間の俺なんか彼氏にしてもメリット……無いだろうが』

『それも分からない』

『はぁ!? こらっ!』

 傍らで興奮するクッカであったが、俺は手を挙げて制止する。
 バルカンが、何か言い掛けようとしたからだ。

『ただ……』

『ただ?』

『この村に居る勇者……つまりはお前に対して何かにつけて固執している、何故か異常なほどに、な』

 俺に……何かにつけて固執?
 異常なほど?
 夢魔リリアンもそう言っていたけど……何故?

『偵察に出したライカンが行方不明になり、諜報部のリリアンをお前の下へ送った』

 ……あのさ。
 狼男ライカンとその手下は、偵察部隊って感じじゃなかったぞ。
 ハーレム創るとか言って、思い切り個人の趣味へ走っていた。
 挙句の果てに美少女を喰うとか、たわけた事を抜かしたから倒したのだ。

 そして諜報部? 
 確かに、女スパイという感じでリリアンは来た。
 まあ良い。
 話はある程度、一致しているから、引き続きバルカンの話を聞こう。

『ああ、来たよ。あの夢魔だろう?』

『そうだ! お前は投降しないという意思を示したそうだな?』

『当たり前だ! 俺が降伏してもこの村は魔物に蹂躙される。それは御免だ』

『ふむ……リリアンの報告通りだ。クーガー様はその後、弟のリカントを送ったが連絡が取れなくなった……お前が倒したのか?』

 何か、さっきから逆に、俺がいろいろと聞かれているような。
 ちょっと微妙。
 でもこいつが、気持ち良く話してくれるなら、まあ良いか……

『何か、尋問じゃない感じだが、答えてやろう。……倒したよ』 

『ふむ! やはりお前は強い! さっきの戦いを見ても分かる』

 おいおい!
 今度は、褒め殺しか?
 何も出ないと言いたいが、我慢。
 こいつは今、話す気になっている。

『リカントが行方不明となり、業を煮やしたクーガー様は……村を一気に攻め取る為の橋頭堡を、儂に造るよう命じた。儂は基地完成の報告をしたから、まもなくエリゴスと共に、この地へいらっしゃるだろう』

 は?
 魔王が、もうここへ来るの?
 早いな!
 と、言う事は……

『そう、全魔王軍が村を総攻撃するのだ』

『『えええっ!』』

 全魔王軍が総攻撃!?
 ショックで、俺とクッカの声が重なった。
 で、でもさ!
 全魔王軍って……どれくらいの規模なんだ?

『か、数は!?』

『オーガ1万、ゴブリン10万という所だな』

 は!?
 はああっ!?
 何、それ!!!
 11万って、何それぇ!?

『おいおい! いくら何でも大袈裟だろう? それ……』

 そんな数の軍勢なら、この国の王都だって楽に攻められるのに……
 人口100人にも満たないボヌール村を?
 それも、住民の殆どが非戦闘員じゃないか。

『いや……大袈裟ではない。勇者……お前を倒して生け捕りにする為に魔王軍の全てを繰り出すと仰っていた』

 やっぱり俺が……目的なの?
 全魔王軍11万の軍勢を出すのが?

 クッカが、呆れて俺を見ている。
 女魔王の情の深さ、執念に呆れているらしい。

『旦那様、改めてお聞きします……以前その魔王と付き合って……まさか、散々騙したとか!』

『騙してねぇ!』

『では! 一方的に! ゴミ屑みたいに! 非道に! ポイ捨てしたとかじゃないでしょうね?』

 クッカの容赦ない詰問。
 確かに、女魔王のどろどろした怨念は感じる。
 でも、俺には全く身に覚えがない。

『ねぇよ! そんなの!』

 俺は疑惑の数々を、一切きっぱりと否定した。
 でも軍勢11万でボヌール村を攻めるなんて、あまりも常軌を逸している。

 これから起こるであろう魔王軍の大攻撃を想像した俺は……
 理由も理由だけに、「げんなり」していたのである。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み