第26話 「豪拳炸裂」
文字数 2,334文字
俺はとんでもなく凄まじい速度で飛ぶと、レベッカとオーガの間に割って入った!
怯えたレベッカの前に立った俺は、大きく両手を広げる。
彼女を、しっかり守るように。
即座に、内なる声が大きく響く。
『究極格闘スキル発動! 拳撃! 豪拳貫通!!!』
これって何か、凄い技なのか!?
考える暇もなく、俺の腕が凄まじい速度で動く。
レベッカへ手を伸ばし、がら空きになったオーガの下腹に、容赦なく叩き込まれる。
ど!!!
ばっじゃ~んっ!!!
俺の拳が当たった瞬間!
自分でも信じられない音がした。
「ざああっ」と、滝のような血しぶきがあがり、無数の肉片が飛び散る。
まるで柔い豆腐を貫くように、俺の腕があっさり吸い込まれると、オーガの体内に「ずぽん!」と潜り込んだのだ。
血の臭いと、生暖かい感触が俺の全身を満たす。
ぐぎゃああああああああああああああ~!!!
森に響き渡る、断末魔の叫び。
俺の腕は、オーガの硬い表皮を完全に突き抜け、奴の背中へ貫通していた。
一瞬、時間が止まった。
座り込んだレベッカが背後から驚愕の波動を放出し、俺を見つめているのが分かる。
しかし、このまま勝利に酔ってはいられない。
オーガはまだ、左右に2体も残っているのだ。
俺は足を奴の身体にかけ踏ん張ると、貫いたオーガから腕を抜く。
「ずぼちゃっ」という不快な音がして腕は抜け、既に命を失い肉塊と化していたオーガは仰向けに倒れた。
俺は次に、クッカから貰った銅剣を抜き放つ。
もう、一気に片をつける。
『剣技スキル発動!』
また、内なる声が響いた。
レベッカから、俺はどのように見えているだろう。
背後からなので分からないだろうが、オーガを拳で貫き殺した俺は返り血を全身に浴びていて、まるで地獄の悪鬼状態である。
俺は、すかさず飛ぶ。
向かったのは、まず右側のオーガである。
オーガが威嚇の為か、咆哮しようとした瞬間だ。
俺は空中に静止したまま、頭から剣を振り下ろす。
『唐竹割りぃ!!!』
オーガは目の前に浮かんだ俺を掴もうとしたようだが、遅い!
遅すぎる!
どっ!!!
ばぁっ!!!!!
剣は凄まじい速度で振り下ろされた為に、刃が地面にまで噛み付いてしまう。
素早く剣を引き戻した俺は、目の前のオーガを凝視する。
俺を掴もうとした姿勢のままで、オーガの左右がズレ始める。
既に、奴は死んでいる。
本来なら倒した余韻に浸りたいが、今はそんな暇はない。
今度は、左側のオーガに向かう。
仲間を2体倒された奴は、怒りでもう錯乱状態だ。
正常な判断など出来やしない。
こんな馬鹿は、もう俺の敵じゃない。
殴り殺そうとした、相手の大きな拳を軽々と
ずっ!
ばあっ!!!
「か! ……はあっ!」
腹を斬られたオーガが切なげに息を吐いた瞬間、奴の上半身と下半身は真っ二つに分かれてまたも肉塊と化したのである。
こうして……
レベッカを襲ったオーガ共は、あっさり死んだ……
俺が管理神様から授かったレベル99の力を発揮させ、瞬殺したのだ。
「ふう……」
剣を下げたままの俺は大きく息を吐く。
そして、レベッカに向き直った。
自分でも分かる。
オーガ共の返り血を浴び、全身が真っ赤で「どろどろ」になっている事を。
大きく目を見開いたまま、呆然と俺を見るレベッカは相変わらず座り込んだままだ。
オーガに襲われたショックの余り、腰が抜けてしまっているのに違いない。
この血塗れ状態の俺はレベッから見て、やはり怖ろしく見えるだろうなぁ……
もし怖ろしいと思うなら、勝手にそう思え。
俺は、お前を助けるのに夢中だったんだから。
そうだ!
『小さな勇者』を忘れていた。
オーガからレベッカを必死に助けようとした『勇者ヴェガ』を。
俺は周囲を見渡し、再度索敵をした。
どうやら、敵は居ないようである。
安全を確かめた俺は、大急ぎで倒れているヴェガの方へ走った。
……ヴェガは、オーガが木に叩きつけたままになっていた。
近付くと、3色トライカラーの毛並みは血だらけで、最早虫の息である。
少し離れた場所に、ガストンさんの愛犬リゲルが座って、僚友を心配そうに見つめていた。
「くそ! 俺はレベル99でオールスキルだろ! 回復の魔法だって使える筈だろ! どうすれば良いんだよ」
その時である。
『あわわわ……い、今! も、も、戻りましたっ!』
俺が声のした方を見ると、幻影のクッカが蒼ざめて空中に浮かんでいた。
どうやら俺がこのような状態になっているのを報されて、慌てて戻って来たという雰囲気である。
サポート役として不在だったクッカへ、俺の怒りが向けられる。
『クッカ! お前、今頃っ!』
『ひ!』
怒った俺が、思わず身を乗り出すと、クッカは恐怖を感じたのであろう。
一番肝心な時に俺をフォロー出来なかった、後ろめたさもあったに違いない。
しかしここでクッカを責めても、状況は良くはならない。
俺がやる事は……ひとつだけだ。
『話は後で聞こう。俺の回復魔法のスキル……最高のモノが発動出来るか? もしこの犬を助けられなくても出来るだけの事はしてやりたい』
『わ、わ、分かりました……』
俺は、横たわったヴェガを見つめる。
そして回復魔法の為に魔力を高めるべく、呼吸を整え始めたのであった。