第4話 「ぼっち」

文字数 2,683文字

 こうして……
 転生した俺は……
 
 気が付けば、見知らぬ道を歩いていた。
 その上、周りには誰も居ない。
 いくら探しても管理神様から付けて貰った、サポート女神クッカの姿は見えなかった。
 
 そういえば、彼女の呼び出し方を聞いていなかった……
 ああ、俺の超ドジ、間抜け。

 俺が現在(いま)、歩いているのは、コンクリートやアスファルトでちゃんと整地、舗装された道ではない。
 土がむきだしで、固く踏み固められただけの道。
 あちこちに大きな石ころがごろごろしている、超田舎道だ。
 
 昔、故郷で歩いた道に、ほんのちょっとだけ似ている。
 誰かと道を歩く、楽しい思い出があったような気もするが……
 
 駄目だ!
 思い出せない。
 そして周囲といえば、日本ではあまり見られないような、見渡す限り緑一面の大草原なのである。

 周りには人間どころか、本当に猫の子一匹居ない。
 たったひとりぼっちだ。
 ぼっちはそんなに嫌いじゃないが、いきなりは嫌だ。
 心の準備が欲しいよ。

 その上、何と容姿も変わっていた。
 とはいっても、鏡が無い。
 なので自分の顔は良く分からない。
 
 だが、頑丈そうな厚手の革鎧を着込んでいる事にまず吃驚。
 そして細身の剣も鞘に入って、腰から提げられていた。
 この剣は確か……
 あの異界でクッカが掲げていた地味な銅の剣だ。
 
 でも……これじゃあ、どこぞのフアンタスティックなコスプレーヤー。
 イメージが湧かない方へ敢えて言うならば、
 超有名ロールプレイングゲームやハリウッドファンタジー映画で見られる、西洋風の戦士に近い恰好……それも極めて初期装備。
 
 といえば分かり易いだろう。
 口の悪い奴が見たら、「センス最悪なコスプレイヤーだ」とか、からかうに違いない。
 
 それに身体つきにも、結構な変化が生じていた。
 ひとまわり、いやふたまわりほど体格が違っている。
 でかくじゃない、逆に身体が小さくなっているのだ。
 
 気になって、鎧をめくって「ちらっ」と腹を見ると……
 最近運動不足のせいか、22歳の若さなのに、若干出ていた醜い『アレ』が消えていた。
 醜悪な「ぽにょん」とした肉塊の代わりに、引き締まって見事に割れた腹筋が目に飛び込んで来る。
 肌の張りを見ても、「ぴかぴかつやつや」
 まるで少年だった頃の俺だ。
 たぶん管理神様は、俺を10代の少年に転生させ、この異世界へ送ってくれたに違いない。
 
 そして分不相応なレベル99?
 絶対に何か起こっている。
 ……この俺の身に。

「きゃ~っ」

 おおっ!
 いきなり、若い女の子の悲鳴が聞こえた。
 でも周囲を見渡したら、やはりどこにも姿が見えない。
 
 ……もしかして、俺の五感……
 聴覚が異常にあがっていて、遠くの声でも聞こえたからだろうか?
 
 それだけではない。
 ず~っと遠くから、『やばそうな気配』が伝わって来る。
 「ええっと」……街道を外れて、ここからずっと西の方角だぞ。

 俺が読んだ事のある大好きなラノベ展開だと、凶悪なゴブリンに襲われた女の子を助けて村へ一緒に行くパターンがあるけれど……
 よしっ!
 行ってみようか。

 ええっと?
 距離は?

 俺がふとそう考えた時。
 
『目標まで西へ真っすぐ! 距離約1Km』

 若い女性の無機質な声が、いきなり心の中で響いた。
 これは……
 聞き覚えのある声じゃないか?
 も、もしかして!

「クッカ!」

 思わず声が出た。
 帰って来るのは、念話による返事である。

『はいっ! 私クッカで~す』

 よかった!
 専任女神が居てくれた!

 寂しく乾いていた俺の心は潤った。
 美少女女神の、鈴を鳴らすような美声でね。 
 
 でもこれって……
 ナビゲーターシステム?
 まるで……音声案内カーナビだ。
 
 それも目標まで1kmって!?
 俺は、そんなに遠くの声が聞こえたのか?

 管理神様が使っていた心の声は、確か念話だと言っていた、
 じゃあ俺も心で念じる念話を使い、クッカと話してみよう。

『クッカ、とりあえず急ごう』

『了解!』

 事情を察したクッカの返事がまた心の中で響き、俺は走り出した。

「おおおっ、身体が軽い!」

 凄い!
 自分の身体ながら、まさに飛ぶような感じだぞ。
 これもレベル99の力なのだろうか?

 「ぶわっ」と砂煙が巻きあがり、俺はとんでもない速度で西へ向かって走って行った。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 俺がダッシュで現場へ向かうと、多くの邪悪な気配が小さな怯えた気配を追いかけているのを感じた。

 ええと……もしかして索敵って出来るのかな?
 すると……またクッカの声が聞こえる。

『目標まであと約500m。目標の周囲には多数の敵反応あり。アンノウンです!』

『アンノウン? アンノウンって何だっけ?』

『ケン様が遭遇していない未確認の敵の事ですよ』

 俺は、記憶を呼び覚ます。
 確かにアンノウンというのは、未知とか不明って意味である。
 
 そうか!
 遭遇して確認しないと、自分の中に知識として蓄えられないんだ。
 まだ俺は、1回も敵にも誰にも出会っていないから。

「きゃああ!」

 また、女の子の叫ぶ声が耳へ入った。
 さっきより、ずっと近い。
 
「やばいぞ! 急がないと」

 俺は、一気に速度を上げる。
 すると、草原を必死にこちらへ走ってくる女の子がひとり。
 髪を振り乱して、逃げて来る。
 
 そして、凄い数で追いかけて来ているのは……
 1mくらいの小柄な身体に、サルを思い切り醜く兇悪にしたような顔付き。
 雰囲気からして、やはりお約束の……ザコ敵ゴブリンだ。

 少し先に、青々とした森が見える。
 あそこで、ゴブリンどもに見付かって逃げて来たのだろうか?

 森からこの草原まで、ず~っと走って来たのであろう。
 必死に走る少女は、もう息が切れそうだ。
 俺は手を振り、大声を張り上げる。

「お~い!!! こっちだっ!」

 そう言えば、この異世界は言葉って通じるのだろうか?
 俺は日本語しか喋れないが……
 まあ、良い!

 「ハッ!」とした少女は、俺に気付いたようだ。
 『地獄に仏』という、安堵の表情を浮かべて、転がるように走って来る。

 俺は立ち止まると、少女をしっかり受け止めるように、両手を大きく広げたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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