第2話 「金、銀、銅の選択」

文字数 3,614文字

 今の、この状態って……
 多分……俺は死んでいる。
 前の世界で生き返る事は、不可能なのだろう。
 だから、俺は諦めた。
 「すぱっ」と切り替えて……『実』を取る事にしたのだ。

 「開き直った」俺は、管理神様に問いかける。 

『じゃあ、管理神様。手違いで死んだ代わりに何かケアしてくれるのですか?』

『うん、今回はお詫びにばっちり大サービスだよ~ん』

 大サービスだよ~ん?

 本当に、砕けた物言いをする管理神様だ。
 だけど『大サービス』って?
 一体、何だろう?
 逆に、話がうますぎてヤバそうじゃないか?

 せっかちそうな管理神様は、間を置かずに「さくっ」と言って来た。

『これから、君が行くのは良くあるパターンだけど剣と魔法の異世界だよ~ん。もし僕から、美人の先生と凄い力を得たら、君はこれからどうする、どうするぅ?』

 美人の先生?
 凄い力?
 あの、抽象的過ぎて……ピンと来ないんですけど。

 だが、一応『反応』しておかないとまずいだろう。
 管理神様の機嫌を、損ねたくない。

『いやぁ……美人は大好きですし、俺って至極平凡な男でしたから……凄い力なんて貰えたら、一応、嬉しいことは嬉しいと思います』

 俺の反応に、満足したらしい管理神様は、本題を切り出す。

『そっか! よ~し! じゃあ君に好きな道を選ばせてあげるよ~ん』

『好きな道?』

 俺が呟いたと同時に「ボン」というベタな音が響き、白煙の中からいきなり3人の女性が出現した。
 おお、確かに全員……凄い美人だ。
 美人と言っても、それぞれタイプが違うけど……
 何と!
 見た目がもろ、人間族じゃないお方も、ひとり混ざっている。

 吃驚する俺に、管理神様の声が響く。
 面白そうに笑っている。 

『ふふふ、丁度君の名はケンというじゃないか。だから今回は剣をラッキーアイテムにしてみたよ~ん』

『剣? あ、ああ……』

 俺が改めて見ると確かに女性は皆、手に剣を掲げていた。
 3人が持つのは、それぞれ違う色の(ロングソード)だ。

 あの、確かこれは……
 木こりが泉に鉄の斧を落としたイソップ寓話で、正直者が最後には救われるとか、そんな話じゃなかったっけ。
 俺がそう思っても、管理神様は華麗にスルー。

『じゃ~ん! ひとりめのサポート女神は、金の剣を持つエルフの女神ケルトゥリだよ~ん』

 管理神様が言うと、金色の剣を持つエルフの女神ケルトゥリは、優雅に一礼をした。
 サラサラ金髪&長髪で、鼻筋の通った端麗な顔立ち。
 切れ長の目、菫色(すみれいろ)の瞳で、見下すように俺を見ていた。
 「ツン」として、プライドが超高そうな雰囲気である。
 そして、独特なデザインのエルフの衣装に包まれているスレンダーな体型。
 俺の持つ、エルフのイメージ通りだ。

 でも、そんなエルフ美人より、俺が気になったのは?

『管理神様、サポート女神って何ですか?』

『ああ、彼女達が美人の先生だよ~ん』

『び、美人の先生?』

『うん! つまりぃ、これから君が行く異世界でね、生きて行く為にさ、いろいろ手解(てほど)きしてくれる仙人……じゃない、専任。専任女神だよ~ん』

『へぇ! 専任って言うと、俺だけについてくれる担当って事ですか?』

『うん! そうだよ~ん。君の専任になる女神の事だよ~ん』

『め、女神が! て、手解き……かぁ……うふふ、何か、期待しちゃいますね!』

『残念! 手解きと言っても、君が期待するおっぱいの揉み方とか、エッチな事は教えないよ~ん。それに彼女達は本体を天界へ置くよ~ん。君には幻影で会う事になるよ~ん。だから君から女神のおっぱいへは、直接触れられないんだよ~ん』

 うっわ!
 俺のストレートな希望を『おっぱい』じゃなかった……
 『いっぱい』考慮して頂き……詳しい説明……ありがとうございます。
 お陰様で、女神様達から見て、『俺のイメージ』がしっかり固まってしまいましたとさ……
 
 それにしても、エルフの『おっぱい』って……
 俺がそう思った瞬間、ケルトゥリは青筋立てて凄い目で睨んで来た。
 やっべ!

 「びびった」俺が顔を伏せると、管理神様の声が響いて来た。

『話を戻すよ~ん、金の剣を持つケルトゥリを選べば、君はエルフの国の勇者に転生する。あらゆる魔法に長けたエルフの超魔法剣士ってとこだよ~ん』

 え?
 俺が?
 この俺が、エルフの魔法剣士になるの!?
 
 具体的なイメージ……湧かねぇ!
 あのファンタジー映画の、某外人俳優が恰好良すぎたからねぇ。
 今、無理矢理考えても……顔が全然似合わねぇ!

『うふふ、転生すれば顔なんて何とかなるよ~ん。それとケルトゥリが「ちっぱい」なのは仕方がな~い。まあ、我慢するしかないよ~ん』

 管理神様は、俺の心を読んだらしい。
 でも……ケルトゥリが『ちっぱい』って……
 それ、すっげぇ『余計なひと言』ですよ。
 だって……

『はぁ!? 私が、一体何ですって! いくら管理神様でも失礼ですよ!』

 ほらぁ!
 ケルトゥリが輪をかけて怒って、金の剣を「ぶんぶん」振り回しているよ。
 ああ、そんな酷い事、俺が直接口に出して言ったんじゃないのに!
 目を吊り上げて、こっちを「ギロリ」と睨んでいるし……

『はぁぁ……』

 俺は、大きなため息をついて、ケルトゥリから視線を外した。
 しかし、管理神様は『おかまいなし』である。

『じゃあ、次の女神行ってみよう! 銀の剣を持つ戦いの女神ヴァルヴァラだよ~ん』

 管理神様から紹介された戦いの女神は、銀の剣を数回素振りした。
 「びゅんびゅん」風を切る、凄まじい音が響き渡る。

『宜しく、人間! この美しく強い私を選べばビシバシ鍛えてやるぞ』 

 ヴァルヴァラさんは、赤毛(レディッシュ)の短髪。
 ダークブラウンの瞳を持つ、野性的な凛々しい男顔の美人である。
 そして、革鎧をまとった身体も異様に逞しい。
 ボン、キュッ、ボンは勿論だが、全身を分厚い筋肉の鎧で覆っていた。
 はっきり言って、超体育会系姉御だ。

『ケン君、銀の剣を持つヴァルヴァラを選べば、君は人間の強き勇者に転生する。剣と格闘に長けた、体力抜群な人間の超戦士ってとこだよ~ん』

 管理神様の説明を補足するように、ヴァルヴァラさんは言い放つ。

『人間! 私を選べば間違いなく無敵な勇者にするぞ。王都に赴いたお前を誰もが尊敬し、見合う実力も付ける事が出来る! そこらの魔王など楽勝で倒せるほどにな』

 成る程!
 誉れ高き、強靭な勇者になって魔王を倒す!
 よくあるパターンだ。

 実のところヴァルヴァラさん、銀の剣を持たされて悔しかったようなのだ。
 金の剣を持たされたケルトゥリお姉様を、『ライバル視』している波動が伝わって来る。
 
 でもさ!
 んなの、答えはもう決まっている。

『いや……折角ですが遠慮します』

『はぁ!? え、遠慮するだと? 強き勇者になってにぎやかな王都で可愛い女の子一杯引き連れてハーレムうはうは! とかしたくないのか? いわゆる俺TUEEE状態だぞ!』

 驚いて必死に口説いてくるヴァルヴァラさんであったが、俺の気持ちは変わらない。
 逆に、きっぱりと言う。

『いや、断固お断りします! ごみごみして、空気の悪い都会のわずらわしさが嫌で、故郷に帰ろうと思っていたのに……また逆戻りなんて真っ平です。勇者? 冗談ポイです』

『な、何! この無礼者め! なら私の方からお断りだ』

 あ~あ……また女神様の機嫌を損ねてしまった。
 ヴァルヴァラさん、「ぷいっ」とそっぽを向いてしまったよ。

『勇者が冗談ポイ? あはははは!』

 俺の本音を聞いて何と管理神様は笑い出した。
 
 え?
 おかしい……かな?

 思わず口を尖らせた俺は、管理神様に対して理解して貰う為、理由を述べる。

『何かあるごとに、王様からいちいち呼び出されて雑用を命じられ、挙句の果てにおっそろしい魔王と戦う……なんて真っ平です』

『成る程! 勇者は雑用係? 面白い事言うね、君は』

『だって……もろ、そうじゃないですか』

『あはは、言えてるかも。でも魔王退治って恰好良いよ~ん』

『いや、遠慮します』

 やっぱり!
 俺の判断は、間違い無いじゃないか。
 魔王退治とか真っ平だ。
 まあ、ハーレムは少し興味あるけど……
 でも、怖いのや~だ。

『うん、了解! じゃあ最後、銅の剣を持つのは新米女神のクッカだよ~ん』

 は?
 新米……女神?

 新米の女神様だという、銅の剣を持つ3人目の『彼女』を、俺は「じいっ」と見つめたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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