第61話 「ど派手少女に気付かれた?」

文字数 2,704文字

 大空屋の仕入れも、私用の買い物も終了し、エモシオンの町へ来た目的の大半は果たした。
 
 気が付けば、もうお昼どき。
 買物に集中して腹も減ったので、昼飯を食おうという事になった。
 ミシェルがまたも、任せろと言う。
 良い店に心当たりがあるからと。
 
 善は急げ!
 俺達は、早速歩き出した。

 しかし(つら)い!
 何が辛いの? 
 と聞かれれば理由は、はっきり。
 ずばり……『金欠』でっす!
 
 買い物をしていて痛感したのは、俺が自由に使えるお金が全くない事。
 いわゆる『小遣いゼロ』の状態なのです。
 市場の中には、俺の物欲をそそる物も多数あったから。
 『個人的』に買いたいものが。
 
 今回の護衛の報酬金貨30枚は、嫁のミシェルがガッチリ管理している。
 なので、さすがに小遣いをくれとは言えない。
 
 今迄に倒した魔物の部位を、こまめに回収してどこかへ売れば金になったかもしれない。
 だが、こんな少年(ガキ)の俺がそれをやるとあまりにも目立つだろう。

 え?
 変装して王都か、この町で商売しろって?

 う~ん、それも一応考えた。
 しかし正式な村の住人になったばかりの俺が、さしたる理由もなしに長期の不在はまずい。
 行き先を告げずに居なくなったら、嫁ズを始め、村の人達に心配をかけ且つ不審がられるから。
 
 でも今後の事を考えれば小遣いは欲しい。
 出来れば、たくさん欲しい。
 金がないって本当に悩ましい。
 何か、他に金を稼ぐ良い方法を考えよう、そうしよう。
 前世の俺も金がなくて、バイトに明け暮れていたけれど……
 まさか異世界へ来ても金欠に悩むとは予想出来なかった。

 しかし金といえば、このエモシオンの町中ではやたらに貼紙がしてあった。
 とんでもなく高い金額が紙面に躍る。
 西部劇の悪漢はこいつだ、捕まえろみたいな!
 すなわち、ウオンテッド的な貼り紙である。
 内容は……

 『勇者を見たら即、通報!』
 ………勇者認定された者を通報した方には高額報奨金保証します。
 貴方も勇者発見で大金持ちになろう! 

 エモシオン領主オベール

 ……何なんだ。
 これじゃあ、まるで勇者って……指名手配の犯人じゃね~かよ。
 
 大きく派手な文字が踊る脇に、ど下手なイラストで革鎧のムキムキ戦士が描いてある。
 この絵はあくまでイメージです……って奴か?
 アホらしい!

 俺は軽く舌打ちすると、笑顔で先を歩くミシェルとレベッカの後を追ったのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 そんなこんなでミシェルに連れられて来た店は、昨夜の居酒屋(ビストロ)よりもだいぶ高級そうな店であった。
 
 こんな店が、このような辺境の町にある不思議さ。
 あの管理神様が超アバウト、適当を具現化したようないい加減さだから……
 ありえる。

 店内も格段に綺麗で、内装も凝っている。
 給仕をするのも、昨夜みたいなメイド少女ではない。
 何と男子オンリー、独特の「ぱりっ」とした給仕用制服を着用したイケメン男子ばっかりなのだ。
 
 レベッカが彼等を見て、少し「ぼうっ」としている。
 ちょっと顔が赤い。
 
 ははぁ、こいつ……絶対に面食いだぞ。
 こらっ!
 浮気は駄目ですよ。
 
 俺がレベッカの袖を引っ張ると「いけね」とばかりに舌を出して「てへぺろ」状態になった。
 ううむ、普段の凛々しい顔との大ギャップ、てへぺろ顔が凄く可愛いから許そう。
 
 苦笑した俺は話題をがらり変えようと、今度はミシェルに尋ねる。

「だけどミシェルったら、こんな店、いつどうやって知ったんだよ?」

 俺が尋ねてもミシェルはにこにこしている。
 あの、そのニコニコって……どんな意味?

「ええっと、今回とは違う商隊の人に連れて来て貰った」

 おいおい、こんな店に美少女連れて来る商隊の奴って何者?
 男だったら絶対に下心アリアリだろう?

 俺は……すっごく気になった。
 うわ!
 ジェラシーだ、これ。

「ここに? 連れて来て貰った? それって誰? 男? それとも女?」

 焦った俺が質問攻め&ジト目で見ても、ミシェルは相変わらず可愛い澄まし顔だ。
 もしかしたら昨夜、俺がメイド少女を「ぼうっ」と見ていたからお返し?
 
 まあ良い……
 私見だが、はっきり言って、男の嫉妬は醜い。
 (はた)から見て、みっともない。
 あくまでも、男から見てだがね。

 まぁ……
 昨夜の件があったから、却って安心。
 ミシェルは、とっても身持ちが堅い女子。
 護身術も身に付けているしね。

 それに俺だって、少しは『器の大きさ』を見せないといかん。
 『ちっさい奴』と嫁達に思われるのは、絶対に嫌だ。

 さてさて店内はお昼時なので、やはり満席に近い。
 だけど空席があったから俺達はすぐ案内され、運良く待たずに座る事が出来た。
 周囲の客も何となく品が良い。
 
 やはり、昨夜の店とは違うのか。
 俺の好みだけなら、メイド少女満開な昨夜の店がダントツに良いけれど……

 席に座って、ようやく落ち着いた俺達。
 注文をしようとした瞬間。

 体つきががっちりしている革鎧姿の若い男3人に連れられた、裕福な身なりの少女が店へ入って来た。
 4人は「リザーブ」という札が置かれた席に当然な顔をして座る。

 何気に俺は改めて少女を見た。

 背は160cmくらい。
 金髪で碧眼。
 髪が結構長い。
 さらさら綺麗で腰のあたりまである。
  
 美人だ。
 でも顔立ちは整っているが、つくりが派手な雰囲気。
 化粧もバッチリ。
 はっきり言って、ケバい。
 
 少女の着ている服は、俺の趣味とはほど遠い。
 キンキラ成金的悪趣味な……いや、『ど』が付く派手な服を着ている。

 そして、身体はというと……
 スタイルはまあまあだが、全体的に華奢なつくりだ。
 
 あらら、おっぱいは小さいみたい。
 そう、おっぱいチェックは必須。
 男の悲しい(さが)
 
 ああ、俺も人の事は言えない。
 可愛い女の子と見れば、つい反射的に観察してしまうのだから。
 それも今回はガン見に近い、じっくりな観察。

 ど派手少女を見ていたら、先方は俺の視線に気付いたらしい。
 見られていると知った少女は、大きく頷き、にやりと笑う。
 目が……合った!

 うう、凄く嫌な予感。

 俺は思わずど派手少女から視線を外し、思い切り顔を伏せてしまったのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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