第114話 「魔王軍侵攻せり①」
文字数 2,836文字
幸いあっさりと倒したが、ヤバイ兆候だと思う。
なので、以降、パトロールをより強化している。
クッカに聞いたが、相変わらず管理神様が情報公開してくれないという。
例の魔王に関しては、最近急に出現したくらいしか分からないようだ。
その為、情報があまりにもない。
現状では、相手の出方が全く分からない。
それ故、警戒するくらいしかない。
そんな、ある夜の事……
俺とクッカは、いつも通り西の森を見回りしていた。
西の森は今迄に、2体の狼男=魔王軍が出現しているから要注意の場所だ。
リゼットがお気に入りの野生のハーブ園もあるから、荒らされると非常に困る。
魔王軍が俺の留守にボヌール村を襲うとまずいので、従士達は村で留守番であった。
今、俺達が居る場所は数日前に通ったが、ただの崖であった筈。
それが今日通りかかると、何と洞窟が出現していた。
加えて、青白い炎で照らされた木の看板も掲げられている。
俺は首を傾げて、クッカへ話し掛ける。
『なぁ、クッカ。こんな洞窟って以前からあったっけ?』
『無かったですよ』
俺もクッカも、憮然とした表情だ。
洞窟が、単にあっただけではない。
他にも、いくつか理由があるからだ。
『確かに……それに、こんな看板があるようじゃあなぁ』
俺が指差した看板には下手な文字でこう書いてあった。
~まおうぐんさいぜんせんきち~
『…………』
眉間に皺を寄せて、無言で首を横に振るクッカ。
あまりのベタさに絶句したのと、元々気分が悪いのと両方であろう。
『大丈夫か、クッカ』
『旦那様、ちょっと
『おいおい大丈夫かよ、かと言って……この洞窟をこのままにするのは、まずいよなぁ』
俺が呟くと、クッカは苦笑した。
ふたりで暫し考え込んだが、このままでは
見なかった事にも出来ないし……
溜息を吐いた俺は、クッカを促した。
『はぁ……仕方がない、入るか』
『旦那様、……やっぱり中へ入るのですか?』
クッカは、いつになく消極的だ。
声のトーンも落ちている。
謎の体調不良を訴えてからというっもの、最近のクッカの調子は万全ではない。
しかし、ボヌール村の近辺に魔王の基地を放置するのはまずい……だろう?
『ああ、このまま放置出来ないし、入るよ』
『でも……表札の脇に、変な骸骨とか飾ってありますよ。断言します! 中に居るのは絶対に死霊使い系の奴です』
うん、確かに。
悪趣味な事にね。
飾ってあるよね。
『そうだろうな』
『……実は私、ゾンビとか生理的に駄目なんです。臭いし、気持ち悪いし』
考えてみれば、クッカは嫌いなものが多い。
ゴブはNGだし、蛇もミミズも苦手だ。
そしてゾンビも……
男の俺だって、そんな奴等は好きなわけがないし、女子らしいと言えば、その通りかもしれない。
『じゃあ、入り口で待ってるか?』
俺の違う提案に対して、クッカはやはり首を振った。
『ううう……こんな場所でひとり待つのは嫌だし、旦那様おひとりでまた思うようにスキルが使えないとまずいし……仕方がない! 私も一緒に行きます』
そうか!
頑張れ、クッカ。
では、俺の出来る事といえば……
『よっし! じゃあしっかり手を
『あ、ありがとう! 旦那様』
俺は、クッカの手を「きゅっ」と握ってやった。
心の底から、ゾンビが嫌なのだろう。
手が、硬く強張っている。
洞窟の入り口には、粗末な木の扉が取り付けられていた。
堅固な防衛システム(笑い)というべきだろうか?
ノブを回してみたが、開かない。
どうやら鍵が掛かっているようだ。
生意気な!
『旦那様、開錠のスキルを使いましょう』
『開錠のスキル? そんなのあるんだ』
『はい! 1回発動してNGなのはお約束。次回からはこの世界のどのような錠前も開けられるマスターキーのようになります。まあいきなり巧く行く場合もありますけど』
『……相変わらずのスキル習得だね』
『お約束ですから!』
『分かった、分かった』
俺は、開錠の魔法を発動。
最初は開かなかったが、次の発動で呆気なく鍵が解除され扉が開く。
こうして俺は、開錠のスキルを手に入れたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺とクッカは、洞窟の中を進んで行く。
洞窟の内部は、真っ暗だ。
しかし、俺とクッカには暗視のスキルがあるから全く問題はない。
魔王の手下が基地にした洞窟は、元々この場所にあったらしい。
壁を見ると、人為的に掘削したという感じではなかったからだ。
天然の洞窟に、若干人の手が加わったというところか。
俺とクッカの索敵に、早速反応があった。
例によって、『アンノウン』と表示されている。
相手に1回も遭遇した事がないと、そうなってしまうのだ。
周囲に気をつけながら暫し進むと、小さな広間に出た。
アンノウンの反応は、な。ここにある。
物陰に隠れて「そっ」と見ると……スケルトン2体であった。
友好関係を結ぶのは……ゴブよりも無理だろうな。
どうせ、片付けるんだ。
俺は更に「そっ」とスケルトンに近付いた。
奴等は、スキルで気配を消した俺に全く気付かない。
ごしゃ!
俺が、背後からスケルトンの頭を拳で殴打し、破砕した。
普通の魔物と違って、スケルトンは声を出さない。
ただ、黙って襲って来るだけだ。
仲間が倒されて、俺に気付いたたもう1体も振り返る間も無く、バラバラになってしまう。
俺が、すかさず拳で粉砕したからである。
『とりあえず2体……でもまだまだだな』
洞窟内に入って、分かった。
入り口附近にはあまり反応がないが、奥に多くの反応があったのだ。
敵は、結構大勢だ。
その中に、大きな反応もひとつあったので、これが親玉だろう。
『基地』だから……『司令官』に違いない。
そもそも
死霊が宿って動かしているとか、邪悪な魔力によって動かされているとかだ。
ここのスケルトンは、後者のようだ。
俺が2体倒すと、いくつもの反応が動いてこちらに向かって来たからだ。
どうやら俺とクッカが敵として侵入したとばれてしまったらしい。
『まあどっちにしろ良いさ。この基地ごと潰すから』
『はい!』
がしゃ、がしゃ、がしゃ
奥から骨共が、大地を踏みしめる音が聞こえて来る。
俺とクッカは……
迫り来る敵を、向かい撃つべく構えたのであった。