第114話 「魔王軍侵攻せり①」

文字数 2,836文字

 先週、魔王軍のナンバーフォーと自称した狼男が、西の森に出た。
 幸いあっさりと倒したが、ヤバイ兆候だと思う。
 なので、以降、パトロールをより強化している。
 
 クッカに聞いたが、相変わらず管理神様が情報公開してくれないという。
 例の魔王に関しては、最近急に出現したくらいしか分からないようだ。
 
 その為、情報があまりにもない。
 現状では、相手の出方が全く分からない。
 それ故、警戒するくらいしかない。

 そんな、ある夜の事……
 
 俺とクッカは、いつも通り西の森を見回りしていた。
 西の森は今迄に、2体の狼男=魔王軍が出現しているから要注意の場所だ。
 リゼットがお気に入りの野生のハーブ園もあるから、荒らされると非常に困る。
 魔王軍が俺の留守にボヌール村を襲うとまずいので、従士達は村で留守番であった。

 今、俺達が居る場所は数日前に通ったが、ただの崖であった筈。
 それが今日通りかかると、何と洞窟が出現していた。
 加えて、青白い炎で照らされた木の看板も掲げられている。
 俺は首を傾げて、クッカへ話し掛ける。

『なぁ、クッカ。こんな洞窟って以前からあったっけ?』

『無かったですよ』

 俺もクッカも、憮然とした表情だ。
 洞窟が、単にあっただけではない。
 他にも、いくつか理由があるからだ。

『確かに……それに、こんな看板があるようじゃあなぁ』

 俺が指差した看板には下手な文字でこう書いてあった。

 ~まおうぐんさいぜんせんきち~

『…………』

 眉間に皺を寄せて、無言で首を横に振るクッカ。
 あまりのベタさに絶句したのと、元々気分が悪いのと両方であろう。
 
『大丈夫か、クッカ』

『旦那様、ちょっと眩暈(めまい)と頭痛が……』

『おいおい大丈夫かよ、かと言って……この洞窟をこのままにするのは、まずいよなぁ』

 俺が呟くと、クッカは苦笑した。
 ふたりで暫し考え込んだが、このままでは(らち)が明かない。
 見なかった事にも出来ないし……

 溜息を吐いた俺は、クッカを促した。

『はぁ……仕方がない、入るか』

『旦那様、……やっぱり中へ入るのですか?』

 クッカは、いつになく消極的だ。
 声のトーンも落ちている。
 
 謎の体調不良を訴えてからというっもの、最近のクッカの調子は万全ではない。
 しかし、ボヌール村の近辺に魔王の基地を放置するのはまずい……だろう?

『ああ、このまま放置出来ないし、入るよ』

『でも……表札の脇に、変な骸骨とか飾ってありますよ。断言します! 中に居るのは絶対に死霊使い系の奴です』

 うん、確かに。
 悪趣味な事にね。
 飾ってあるよね。

『そうだろうな』

『……実は私、ゾンビとか生理的に駄目なんです。臭いし、気持ち悪いし』

 考えてみれば、クッカは嫌いなものが多い。
 ゴブはNGだし、蛇もミミズも苦手だ。
 そしてゾンビも……
 男の俺だって、そんな奴等は好きなわけがないし、女子らしいと言えば、その通りかもしれない。

『じゃあ、入り口で待ってるか?』

 俺の違う提案に対して、クッカはやはり首を振った。

『ううう……こんな場所でひとり待つのは嫌だし、旦那様おひとりでまた思うようにスキルが使えないとまずいし……仕方がない! 私も一緒に行きます』

 そうか!
 頑張れ、クッカ。
 では、俺の出来る事といえば……

『よっし! じゃあしっかり手を(つな)いでやるから』

『あ、ありがとう! 旦那様』

 俺は、クッカの手を「きゅっ」と握ってやった。
 心の底から、ゾンビが嫌なのだろう。
 手が、硬く強張っている。

 洞窟の入り口には、粗末な木の扉が取り付けられていた。
 堅固な防衛システム(笑い)というべきだろうか?
 
 ノブを回してみたが、開かない。
 どうやら鍵が掛かっているようだ。
 生意気な!

『旦那様、開錠のスキルを使いましょう』

『開錠のスキル? そんなのあるんだ』

『はい! 1回発動してNGなのはお約束。次回からはこの世界のどのような錠前も開けられるマスターキーのようになります。まあいきなり巧く行く場合もありますけど』

『……相変わらずのスキル習得だね』

『お約束ですから!』

『分かった、分かった』

 俺は、開錠の魔法を発動。
 最初は開かなかったが、次の発動で呆気なく鍵が解除され扉が開く。
 こうして俺は、開錠のスキルを手に入れたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 俺とクッカは、洞窟の中を進んで行く。
 洞窟の内部は、真っ暗だ。
 しかし、俺とクッカには暗視のスキルがあるから全く問題はない。

 魔王の手下が基地にした洞窟は、元々この場所にあったらしい。
 壁を見ると、人為的に掘削したという感じではなかったからだ。
 天然の洞窟に、若干人の手が加わったというところか。

 俺とクッカの索敵に、早速反応があった。
 例によって、『アンノウン』と表示されている。
 相手に1回も遭遇した事がないと、そうなってしまうのだ。

 周囲に気をつけながら暫し進むと、小さな広間に出た。
 アンノウンの反応は、な。ここにある。
 物陰に隠れて「そっ」と見ると……スケルトン2体であった。

 友好関係を結ぶのは……ゴブよりも無理だろうな。
 どうせ、片付けるんだ。
 俺は更に「そっ」とスケルトンに近付いた。
 奴等は、スキルで気配を消した俺に全く気付かない。

 ごしゃ!

 俺が、背後からスケルトンの頭を拳で殴打し、破砕した。
 普通の魔物と違って、スケルトンは声を出さない。
 ただ、黙って襲って来るだけだ。
 仲間が倒されて、俺に気付いたたもう1体も振り返る間も無く、バラバラになってしまう。
 俺が、すかさず拳で粉砕したからである。

『とりあえず2体……でもまだまだだな』

 洞窟内に入って、分かった。
 
 入り口附近にはあまり反応がないが、奥に多くの反応があったのだ。
 敵は、結構大勢だ。
 その中に、大きな反応もひとつあったので、これが親玉だろう。
 『基地』だから……『司令官』に違いない。

 そもそも不死者(アンデッド)の定番であるスケルトンは諸説が飛び交っている。
 死霊が宿って動かしているとか、邪悪な魔力によって動かされているとかだ。

 ここのスケルトンは、後者のようだ。
 俺が2体倒すと、いくつもの反応が動いてこちらに向かって来たからだ。
 どうやら俺とクッカが敵として侵入したとばれてしまったらしい。

『まあどっちにしろ良いさ。この基地ごと潰すから』

『はい!』

 がしゃ、がしゃ、がしゃ

 奥から骨共が、大地を踏みしめる音が聞こえて来る。
 
 俺とクッカは……
 迫り来る敵を、向かい撃つべく構えたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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