第79話 「デートの後はバトルで!」
文字数 2,241文字
俺とクッカは、あっという間に上昇して、眼下の森や草原は箱庭のようになる。
生まれて初めて空を飛んだ時、俺は凄く自由な気分になった。
あっちこっちと好き勝手に飛び回ったし、解放感に満ち溢れてとても楽しかったのだ。
しかし!
はっきり言おう!
そんな解放感など、今の幸せに比べれば段違い平行棒だ。
美しい
大袈裟な言い方だが、今の俺達は神話に登場するようなカップルである。
神話、でも俺の外見は黒一色の不気味な鎧。
魔王の手下風なので、「ぱっ」と見は凶悪な悪魔と優しい美女神という超異色カップルではあるが。
こんな神話って、どこかにあっただろうか?
誰?
バカップルって言うのは!
しかしクッカは、相変わらず幸福モード継続中である。
『うふふ、私、本当に幸せです』
『おお、これからどんどんデートしような』
『はい! それに私、旦那様のお嫁になる村の女の子達が大好きなんです。彼女達ともぜひデートしてあげて下さい。皆でい~っぱい幸せになりましょうね』
ああ、クッカ。
お前は本当に優しい俺の女神様だ!
って、本当に女神様だよね。
俺って……馬鹿だ。
と、その時。
俺とクッカの索敵に何者かが現れたのだ。
『あ、敵が出現ですね』
『うん! これは……オーガだな』
1回でも戦っていれば、索敵には相手が具体的に示される。
オーガとは既に戦っているから、バッチリ。
しかし、またレベッカや他の村民が襲われたらかなわない。
俺は、容赦なく掃討する事を決めた。
当然、クッカも同じである。
『……ですね。やりますか?』
『ああ、軽くやっつけちゃおう』
『うふふ、楽勝ですよね? ケン様はレベル99! 世界最強のふるさと勇者ですもの』
『だな! 田舎は最高! ローカル万歳だ』
俺とクッカは頷き合うと、手を取り合ってオーガの群れへ向かい、飛んで行ったのである。
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暫く飛んで……
オーガ達を発見したのはやはり東の森の中だ。
奴等、この森のどこかに巣でも作っているのだろうか?
俺とクッカは、オーガの群れの真ん前に降り立った。
オーガ共ったら、いきなり現れた俺達に
幻影のクッカは奴等に見えないだろうから、俺が単身現れたように見えるだろう。
さあてさて、オーガとはこれで3回目の戦闘だ。
最初はレベッカを助けた時、2回目は従士達を連れて無双した時である。
戦いも3回目ともなれば俺もさすがに慣れる。
自分の能力とスキルも把握出来るので落ち着いて戦う事が出来るのだ。
ここで何と!
クッカのリクエストが出た。
『旦那様、天界拳希望で~す』
『天界拳?』
『はいっ! 武器や魔法で戦うより女の子は素手で戦う
素手で戦う逞しい男に痺れる?
本当かよ!?
あ、分かったぞ!
天界拳ね、了解!
ピンと来た俺にはクッカの意図が分かった。
天界拳は天界の長である創世神様が、『総帥』だ。
神様が特別に力を入れている御用達の拳法といえる。
そうなると、天界拳を進んで使う俺は、創世神様の覚えめでたい使徒か、愛弟子という事になる。
……すなわち……管理神様の覚えもめでたい……
うん! 押して知るべしだ。
クッカに手を振り、俺はゆっくりと構えた。
俺が戦う気満々だと知ったオーガ共は、挑発されたと感じたのか、
もしも勇気のスキルが無ければ、大いにびびるところだが、全く怖くない。
ばごん!
いきなりオーガが、俺の顔を殴る。
避けようと思えば避けられたけど、敢えてそうしなかった。
オーガの奴め。
こんな小動物、一発で殺そうと思ったのだろう。
だがね……身体強化に耐久性のスキルを極めた今の俺には、お前の拳など蚊ほども効かぬのだよぉ。
「ふふふ、効かぬなぁ……何故効かぬか、分かるまい」
ああ、言ってみたかったんだ、このセリフ。
気分は世紀末なんとやら。
ここは次に「な、何故?」とか「馬鹿な!」とか返って来るシーンだよね。
悪党の技が、全然通じなくて戸惑うシーン。
しかし俺が戦っている相手は人間ではない。
単なる馬鹿オーガである。
返って来たのは怒りの咆哮に過ぎなかった。
だけど俺は、もう自分の『世界』へ入ってる。
「まあ良い。お遊びもこれまでだ……」
くうう、自分で言っておいて、凄く恰好良いっ!
「あたっ!」
軽く拳を振るうと、俺を殴ったオーガが派手に吹っ飛んだ。
この前と一緒だ。
吹っ飛んだオーガは即死らしく「ぴくり」とも動かない。
かつてこいつらは村を襲い、村民を喰らった魔物だから俺は全く同情しない。
だから悪即斬だ。
まあ斬じゃなく拳だがね。
「悪党共め、さっさとかかって来い」
俺はにやりと笑う。
そして人差し指を手前に「くいっ」と動かし……
仲間をやられた怒りに咆哮するオーガ共を更に挑発したのであった。