第79話 「デートの後はバトルで!」

文字数 2,241文字

 少し草原を歩いた俺達は、手を(つな)いだまま、ふわりと飛び上がった。
 
 俺とクッカは、あっという間に上昇して、眼下の森や草原は箱庭のようになる。
 生まれて初めて空を飛んだ時、俺は凄く自由な気分になった。
 あっちこっちと好き勝手に飛び回ったし、解放感に満ち溢れてとても楽しかったのだ。

 しかし!
 はっきり言おう!
 そんな解放感など、今の幸せに比べれば段違い平行棒だ。
 
 美しい女神(クッカ)様の手を引いて大空を飛び回り、熱く見つめ合い、顔を寄せて甘いキスをする。
 大袈裟な言い方だが、今の俺達は神話に登場するようなカップルである。
 
 神話、でも俺の外見は黒一色の不気味な鎧。
 魔王の手下風なので、「ぱっ」と見は凶悪な悪魔と優しい美女神という超異色カップルではあるが。
 こんな神話って、どこかにあっただろうか?
 
 誰?
 バカップルって言うのは!

 しかしクッカは、相変わらず幸福モード継続中である。

『うふふ、私、本当に幸せです』

『おお、これからどんどんデートしような』

『はい! それに私、旦那様のお嫁になる村の女の子達が大好きなんです。彼女達ともぜひデートしてあげて下さい。皆でい~っぱい幸せになりましょうね』

 ああ、クッカ。
 お前は本当に優しい俺の女神様だ!
 って、本当に女神様だよね。
 俺って……馬鹿だ。

 と、その時。
 俺とクッカの索敵に何者かが現れたのだ。

『あ、敵が出現ですね』

『うん! これは……オーガだな』

1回でも戦っていれば、索敵には相手が具体的に示される。
オーガとは既に戦っているから、バッチリ。
しかし、またレベッカや他の村民が襲われたらかなわない。

俺は、容赦なく掃討する事を決めた。
当然、クッカも同じである。

『……ですね。やりますか?』

『ああ、軽くやっつけちゃおう』

『うふふ、楽勝ですよね? ケン様はレベル99! 世界最強のふるさと勇者ですもの』

『だな! 田舎は最高! ローカル万歳だ』

 俺とクッカは頷き合うと、手を取り合ってオーガの群れへ向かい、飛んで行ったのである。
 
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 暫く飛んで……
 オーガ達を発見したのはやはり東の森の中だ。
 奴等、この森のどこかに巣でも作っているのだろうか?

 俺とクッカは、オーガの群れの真ん前に降り立った。
 
 オーガ共ったら、いきなり現れた俺達に吃驚(びっくり)していやがる。
 幻影のクッカは奴等に見えないだろうから、俺が単身現れたように見えるだろう。

 さあてさて、オーガとはこれで3回目の戦闘だ。
 最初はレベッカを助けた時、2回目は従士達を連れて無双した時である。
 
 戦いも3回目ともなれば俺もさすがに慣れる。
 自分の能力とスキルも把握出来るので落ち着いて戦う事が出来るのだ。

 ここで何と!
 クッカのリクエストが出た。

『旦那様、天界拳希望で~す』

『天界拳?』

『はいっ! 武器や魔法で戦うより女の子は素手で戦う(たくま)しい男に痺れるので~す。それが愛する旦那様だと尚更で~す』

 素手で戦う逞しい男に痺れる?
 本当かよ!?
 あ、分かったぞ!
 天界拳ね、了解!

 ピンと来た俺にはクッカの意図が分かった。
 
 天界拳は天界の長である創世神様が、『総帥』だ。
 神様が特別に力を入れている御用達の拳法といえる。
 そうなると、天界拳を進んで使う俺は、創世神様の覚えめでたい使徒か、愛弟子という事になる。
 
 ……すなわち……管理神様の覚えもめでたい……
 うん! 押して知るべしだ。

 クッカに手を振り、俺はゆっくりと構えた。
 俺が戦う気満々だと知ったオーガ共は、挑発されたと感じたのか、(とどろ)くような声で咆哮する。
 もしも勇気のスキルが無ければ、大いにびびるところだが、全く怖くない。

 ばごん!

 いきなりオーガが、俺の顔を殴る。
 避けようと思えば避けられたけど、敢えてそうしなかった。

 オーガの奴め。
 こんな小動物、一発で殺そうと思ったのだろう。
 だがね……身体強化に耐久性のスキルを極めた今の俺には、お前の拳など蚊ほども効かぬのだよぉ。

「ふふふ、効かぬなぁ……何故効かぬか、分かるまい」

 ああ、言ってみたかったんだ、このセリフ。
 気分は世紀末なんとやら。

 ここは次に「な、何故?」とか「馬鹿な!」とか返って来るシーンだよね。
 悪党の技が、全然通じなくて戸惑うシーン。
 
 しかし俺が戦っている相手は人間ではない。
 単なる馬鹿オーガである。
 返って来たのは怒りの咆哮に過ぎなかった。

 だけど俺は、もう自分の『世界』へ入ってる。

「まあ良い。お遊びもこれまでだ……」

 くうう、自分で言っておいて、凄く恰好良いっ!

「あたっ!」

 軽く拳を振るうと、俺を殴ったオーガが派手に吹っ飛んだ。
 この前と一緒だ。
 吹っ飛んだオーガは即死らしく「ぴくり」とも動かない。

 かつてこいつらは村を襲い、村民を喰らった魔物だから俺は全く同情しない。
 だから悪即斬だ。
 まあ斬じゃなく拳だがね。

「悪党共め、さっさとかかって来い」

 俺はにやりと笑う。

 そして人差し指を手前に「くいっ」と動かし……
 仲間をやられた怒りに咆哮するオーガ共を更に挑発したのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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