第119話 「魔王軍侵攻せり⑥」
文字数 3,077文字
俺は『石化』状態から無理矢理に脱してバルカンの尋問を続けた。
だけど、さすが禁呪!
天界にて行使されると言われる、魂の奥へと踏み込む魔法の効果は抜群だ。
バルカンは、自分の知っている事を、どんどん喋ってくれた。
聞き出した事を取り纏めると、大体下記の通りである。
魔王クーガーは、クッカそっくりの美少女である。
魔王クーガーは、冷酷無比の女魔王で、凄まじい魔力を誇り、高い攻撃力を持つ。
魔王クーガーは、いきなりこの世界に現れて、それまで居た魔王をあっさり倒すと、悪魔騎士エリゴスを召喚して右腕とし、新たな魔王軍を編成し始めた。
魔王クーガーと魔王軍の襲来は、そう遠くない時期だと思われる。
魔王クーガーは現在、魔王軍と共に自らが生み出した異界に居る。こちらから攻める事は難しい。
魔王クーガーの当面の目的はボヌール村を制圧し、俺を生きたまま確保する事。
魔王軍は、魔王と悪魔騎士エリゴス、オーガ1万、ゴブリン10万の総勢である。
何だ!
魔王軍の凄さばかりが、強調されているじゃないか。
これじゃあ、相手の自慢話を聞いているのと一緒だ。
『う~ん、困った……魔王軍と戦う上で俺達に有益な情報はないのかな?』
俺が「参った!」とばかりに愚痴ると、すかさずありがたい女神様の
『こういう場合は、魔王並び幹部である悪魔エリゴスの弱点を、絶対に聞いておくべきです』
クッカの提案は、『戦いの王道』とも言えるものだ。
それにしても……魔王の弱点ってあるのかな?
『魔王の弱点か……そうだなぁ。……まあ弱点を知ってれば、こいつは魔王に従わないと思うが……一応は聞いておくか』
『それが良いです』
クッカが微笑んだので、俺は親指を「びっ」と立ててから、バルカンに向き直った。
『じゃあ聞こう。バルカンよ、魔王及び悪魔エリゴスの弱点は?』
『魔王クーガー様に弱点は……ない。魔力対魔力、膂力対膂力。技対技。彼女を上回る力を持たなければ倒せない』
う~ん……
やっぱり弱点は無し……か。
単純に、能力の優劣以外では勝てないという事なんだな……
『但し、勇者……クーガー様がお前に対して、異常なほどに執着している事が鍵となるだろう』
俺に、異常なまでの執着?
理由が、まったく分からない。
原因と、何か打てる手を考えるか。
とりあえずは、後回しだ。
『じゃあ魔王の右腕、悪魔騎士エリゴスの弱点は?』
『悪魔騎士エリゴスの弱点も……お前かもしれない』
『え? お、俺?』
『そうだ……魔王クーガー様がお前に対して異常に執着する事にイラついている。嫉妬といっても、良いかもしれないな』
嫉妬か……
まあ、万が一の時にはつけ込めるかもしれないな。
覚えておこう。
それから俺はクッカと相談、確認しながらバルカンより聞けるだけの情報を聞き出した。
もう聞く事はないと伝えると、バルカンは意外な事を申し出た。
『……儂はもう、疲れた。頼むから……解放して欲しい……勇者、お前の葬送魔法でな……』
『バルカン、お前、不死を放棄するつもりなのか?』
『ああ、先程お前が倒したのは……儂が生者だった頃の忠実な部下達だ。彼等と共にあってこその儂だと思っておった。……もう潮時だろうよ』
バルカンの懺悔? にクッカが反応する。
『旦那様、バルカンの言葉は偽らざる魂の言葉、いわば本音です。希望通りにしてやりましょう』
『分かった!』
『おお、聞き入れてくれるか! ありがたい』
バルカンは、魂を解放する禁呪のお陰で素直になれたようだ。
生前のこいつは……
一体、どんな人間だったのだろう?
やがて……
俺の葬送魔法が発動し、バルカンは部下同様、塵になり天に召されたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
バルカンが造った基地を封鎖し、少し仕掛を施した俺はクッカと共にボヌール村へ帰還した。
すぐに魔王軍が、攻めて来る!
もう、愚図愚図はしていられない。
かといって、あまり煽ると嫁どころか村中がパニックになるから、伝え方のさじ加減が難しいところだ。
翌朝……
いつもの通りに俺を起こしに来たリゼットに、家族全員で相談したい事があると打診すると、勘の良いリゼットは何かあると感じたらしい。
可愛く返事をすると、すぐにレベッカ達を俺の家へ連れて来てくれたのである。
最初、嫁達は笑顔だった。
しかし俺が全く笑わないのを見ると、これは只事ではないと感じたようだ。
俺は話を始めた。
魔王軍なんて突拍子もない話だし、あまり複雑に説明してもややこしくなるだけなので、極力シンプルに説明する。
悪の魔王が、近々このボヌール村を攻めて来る事。
数は11万以上の大軍である事。
魔王の目的が俺を生かしたまま確保する事。
普段はとても明るい嫁達も、さすがに言葉を失った。
みるみるうちに、血の気が引いて行く。
そんな空気を吹き飛ばすように、俺はきっぱりと言い放つ。
「大丈夫だ! もう作戦は立ててある」
「大丈夫って、ダーリン!? 11万! 11万よ、敵の数! 想像も出来ないわ! どうするのぉ?」
興奮して、大きな声で叫んだのはレベッカだ。
嫁達の中では狩人として、1番戦い慣れたレベッカの言葉にまた場の空気が重くなる。
しかし、俺はまた強気に言い放った。
「大丈夫さ、レベッカ……オーガからお前を助けた時の事を思い出せ。今度も絶対に俺が村の皆を助ける」
「う、う、だって、だって! う、うわあああんっ! ダ~リ~ン、死なないでぇ~っ!!!」
あの危機より、遥かに絶望的な状況。
俺が、魔王軍に立ち向かう姿を想像して感極まったのだろう。
レベッカは、俺に「ひしっ」と抱きつき号泣してしまった。
だが、ここで不安を払拭するのは俺の役目だ。
レベッカに釣られて貰い泣きする嫁達へ、俺は強い視線を送る。
「約束するよ、俺は勝つだけじゃない、生きて、お前達の下へ必ず帰る」
俺の力強い言葉を聞いて、一足早く気持ちを切り替えたのがリゼットだ。
さすが、村の女子達のリーダーである。
「分かりました。旦那様がそう仰るなら私達妻は信じて従うのみ。必勝の作戦……聞かせて頂けますか」
「ああ、了解だ」
そして30分後……俺の、対魔王軍討伐作戦の説明は終わった。
「ええええ~っ」と、目を丸くするレベッカ。
「ひゅう! そんな事出来るんだ?」と、大きく口笛を吹くミシェル。
「旦那様って、もしかして神様……ですか?」と、俺に祈りを捧げようとするクラリス。
「うふふ! 私に違う人生をくれた旦那様は神様みたいな人です、魔王になんか楽勝で勝てますよ」と、ソフィことステファニー。
「そういう事で私達嫁ズは旦那様とクッカ様、そして従士さん達を信じていますからね! 1、2~のそ~っれっ!」
最後にリゼットが音頭を取って、村の嫁ズ全員でVサインだ。
『ははっ、クッカ! これじゃあ負けられないな』
『ええ、旦那様、勝ちましょう! 絶対に!』
俺と幻影のクッカは顔を見合わせると……
リゼット達へ向かって、同じ様にVサインを返したのであった。