第１２８話 「再会」
文字数 2,269文字
更に、月日は流れた……
「おっちょこちょい」な新人女神と、「怖ろしい」女魔王は居なくなったが……
ボヌール村の住民には、優しい美少女ふたりが増えた。
ふたりとも、初めからこの村の住人のように溶け込み生活している。
俺と嫁ズの結婚式が迫っていた某日……
ボヌール村では、ある父娘の再会が、果たされようとしていた。
そう！
ソフィことステファニーが……
この村の領主である父オベール騎士爵様と再び会う日が、とうとう来たのである。
妖精猫 のジャンが届ける、父娘間で交換する手紙の中で、「会いたい」「会えない」というやりとりが何度もあった。
オベール様に対して、『絶対にステファニーの正体を明かさない』『無理矢理連れ戻さない』という不干渉を条件として、遂に再会の約束は為された。
ソフィは、もう完全にボヌール村の住人。
俺とも、「愛し愛される」関係だし、離れるなんて絶対に考えられないから。
ステファニーがボヌール村に居たと初めて知った時に、オベール様はとても驚いたそうである。
手紙の雰囲気から見て、ステファニーは、どこか遠い他国で暮らしていると思っていたらしい。
それが……
愛する娘が、まさか領内の村に居たとは……
いわゆる灯台下暗し。
だが、元気に暮らしていると知って、父から娘へ送られて来る手紙の文面も明るくなった。
親とは……
きっと、そういうものなのだろう。
そしていよいよ再会の当日……
ここ大空屋では、お付きの従士を外に待たせて、オベール様が落ち着かない様子で待っている。
妖精猫ジャンが、部屋の片隅に何気なく寝そべっていて……
彼の目から、俺の心へ、オベール様の様子が『実況中継』されている。
当然、主人オベール様が、誰と会うか従士達は知らない。
表向きの理由は、単なる領内視察という事になっていた。
貧乏ゆすりをしながら、「そわそわ」するオベール様を見かねて、ミシェル母のイザベルさんが「そっ」とお茶を出した。
「これ、お飲みになると落ち着きますよ。村の名物ですし、宜しかったらいかがですか？」
「ああ、ハーブティですか？ 丁度、喉が渇いていた、頂きましょう」
イザベルさんが出したのは、リゼットとクッカ、そしてクラリスの努力の結晶。
村のハーブ園で、丹精込めて育てた名品のお茶だ。
お茶を出して貰ったオベール様は、意外にも丁寧な物言いをして腰も低い。
村民に対して横柄な態度を取らないように、ステファニーから、幾度となく念を押されたのは勿論だが……
例の『まま母さん』が王都へ帰ってからというもの、今迄の尊大さが影を潜めたそうである。
「ああ、美味しい。確かに落ち着きますよ。店主さん、ありがとう……え？」
オベール様は礼を言いながら、イザベルさんを「じっ」と見た。
何か、怪訝な表情だ。
「私の顔に何か？」
「い、いや何でもない。気のせいだ……」
「うふふ、そろそろ娘さん……いらっしゃいますよ」
と、その時。
宿屋の帳場奥から、声があがる。
「お父様！」
オベール様の視線の先には、俺と手を繋いだソフィ……いや、ステファニーが居た。
そして6人の嫁ズが一緒に立っていた。
「ああ、お前がステファニーなのか！ おおお、ステファニーだ、確かに私のステファニーだ」
ステファニーは再会の為に、今日だけは元の姿に戻っている。
当然だが、大空屋店内限定。
オベール様は、目を細めた。
柔らかな表情である。
愛娘の元気そうな姿を見て、安心したのだろう。
「ホッ」として息を吐く。
ステファニーは村の生活を経験して、逞しくなっている。
抜けるような白い肌が、日々の労働の為に少しだけ日焼けしているのが、彼女を健康的に見せていた。
胸元には、俺が贈ったアミュレット。
そして、しっかりと右手が俺の左手を握っている。
「お前が……いや、君がステファニーの……」
傍らに寄り添う俺に声を掛けたオベール様を遮るように、ステファニーが言い放つ。
「はい！ ケン・ユウキ様です！ 私の旦那様です！ 私が危ないところを助けて頂きました！」
秘密厳守という事で、オベール様には俺の秘密をある程度話している。
いくら寄り親の命令とはいえ……
娘が馬鹿息子のおもちゃにされるのを、父は我慢が出来なかったのは当たり前。
俺に、一応感謝はしてくれたらしい。
しかし実際、俺に会ってみると……
「愛する娘を奪った憎い男だ！」という感覚があるのに違いなかった。
「…………」
顔をしかめて黙り込んだ父へ、娘が大きな声で言う。
「お父様！ 貴方の娘ステファニーは旦那様が大好き。村の皆さんも大好き。畑仕事や狩り、大空屋の店番も大好き。そう！ ボヌール村全てが大好きなんです」
それは、かつて泣きながら俺に言ったセリフと、全く一緒だった。
愛娘の魂の叫びに、父も心をうたれたようだ。
「おおお……そうか……そうなのだな！ 分かった！ ステファニー、お前は今、幸福なのだな？」
「はいっ！ ステファニーはとっても幸せです」
「ああ、良かった、本当に良かった！」
「お父様ぁ！」
ふたりは泣いていた。
しかし、それは悲しい涙ではない。
俺達家族全員の見守る中、ステファニーとオベール様は「ひし！」と抱き合ったのであった。
「おっちょこちょい」な新人女神と、「怖ろしい」女魔王は居なくなったが……
ボヌール村の住民には、優しい美少女ふたりが増えた。
ふたりとも、初めからこの村の住人のように溶け込み生活している。
俺と嫁ズの結婚式が迫っていた某日……
ボヌール村では、ある父娘の再会が、果たされようとしていた。
そう！
ソフィことステファニーが……
この村の領主である父オベール騎士爵様と再び会う日が、とうとう来たのである。
オベール様に対して、『絶対にステファニーの正体を明かさない』『無理矢理連れ戻さない』という不干渉を条件として、遂に再会の約束は為された。
ソフィは、もう完全にボヌール村の住人。
俺とも、「愛し愛される」関係だし、離れるなんて絶対に考えられないから。
ステファニーがボヌール村に居たと初めて知った時に、オベール様はとても驚いたそうである。
手紙の雰囲気から見て、ステファニーは、どこか遠い他国で暮らしていると思っていたらしい。
それが……
愛する娘が、まさか領内の村に居たとは……
いわゆる灯台下暗し。
だが、元気に暮らしていると知って、父から娘へ送られて来る手紙の文面も明るくなった。
親とは……
きっと、そういうものなのだろう。
そしていよいよ再会の当日……
ここ大空屋では、お付きの従士を外に待たせて、オベール様が落ち着かない様子で待っている。
妖精猫ジャンが、部屋の片隅に何気なく寝そべっていて……
彼の目から、俺の心へ、オベール様の様子が『実況中継』されている。
当然、主人オベール様が、誰と会うか従士達は知らない。
表向きの理由は、単なる領内視察という事になっていた。
貧乏ゆすりをしながら、「そわそわ」するオベール様を見かねて、ミシェル母のイザベルさんが「そっ」とお茶を出した。
「これ、お飲みになると落ち着きますよ。村の名物ですし、宜しかったらいかがですか？」
「ああ、ハーブティですか？ 丁度、喉が渇いていた、頂きましょう」
イザベルさんが出したのは、リゼットとクッカ、そしてクラリスの努力の結晶。
村のハーブ園で、丹精込めて育てた名品のお茶だ。
お茶を出して貰ったオベール様は、意外にも丁寧な物言いをして腰も低い。
村民に対して横柄な態度を取らないように、ステファニーから、幾度となく念を押されたのは勿論だが……
例の『まま母さん』が王都へ帰ってからというもの、今迄の尊大さが影を潜めたそうである。
「ああ、美味しい。確かに落ち着きますよ。店主さん、ありがとう……え？」
オベール様は礼を言いながら、イザベルさんを「じっ」と見た。
何か、怪訝な表情だ。
「私の顔に何か？」
「い、いや何でもない。気のせいだ……」
「うふふ、そろそろ娘さん……いらっしゃいますよ」
と、その時。
宿屋の帳場奥から、声があがる。
「お父様！」
オベール様の視線の先には、俺と手を繋いだソフィ……いや、ステファニーが居た。
そして6人の嫁ズが一緒に立っていた。
「ああ、お前がステファニーなのか！ おおお、ステファニーだ、確かに私のステファニーだ」
ステファニーは再会の為に、今日だけは元の姿に戻っている。
当然だが、大空屋店内限定。
オベール様は、目を細めた。
柔らかな表情である。
愛娘の元気そうな姿を見て、安心したのだろう。
「ホッ」として息を吐く。
ステファニーは村の生活を経験して、逞しくなっている。
抜けるような白い肌が、日々の労働の為に少しだけ日焼けしているのが、彼女を健康的に見せていた。
胸元には、俺が贈ったアミュレット。
そして、しっかりと右手が俺の左手を握っている。
「お前が……いや、君がステファニーの……」
傍らに寄り添う俺に声を掛けたオベール様を遮るように、ステファニーが言い放つ。
「はい！ ケン・ユウキ様です！ 私の旦那様です！ 私が危ないところを助けて頂きました！」
秘密厳守という事で、オベール様には俺の秘密をある程度話している。
いくら寄り親の命令とはいえ……
娘が馬鹿息子のおもちゃにされるのを、父は我慢が出来なかったのは当たり前。
俺に、一応感謝はしてくれたらしい。
しかし実際、俺に会ってみると……
「愛する娘を奪った憎い男だ！」という感覚があるのに違いなかった。
「…………」
顔をしかめて黙り込んだ父へ、娘が大きな声で言う。
「お父様！ 貴方の娘ステファニーは旦那様が大好き。村の皆さんも大好き。畑仕事や狩り、大空屋の店番も大好き。そう！ ボヌール村全てが大好きなんです」
それは、かつて泣きながら俺に言ったセリフと、全く一緒だった。
愛娘の魂の叫びに、父も心をうたれたようだ。
「おおお……そうか……そうなのだな！ 分かった！ ステファニー、お前は今、幸福なのだな？」
「はいっ！ ステファニーはとっても幸せです」
「ああ、良かった、本当に良かった！」
「お父様ぁ！」
ふたりは泣いていた。
しかし、それは悲しい涙ではない。
俺達家族全員の見守る中、ステファニーとオベール様は「ひし！」と抱き合ったのであった。
