第78話 「ミッドナイトデート」
文字数 2,128文字
昼間、俺がレベッカとイチャしていた草原だ。
先程、自宅から転移魔法で「ぱぱっ」と移動した。
今は、真夜中。
さすがに、こんな時間は出歩いている人間など居やしない。
人間は基本的に夜目がきかないから、視界が悪くなる。
その上、魔物やら狼やら危険な捕食者がわんさか出る。
普通の人間がこんな時間にひとりで居たら自殺行為だ。
でも俺は平気。
クッカも平気。
逆に人目がないぶん、堂々とデートが出来る。
とは言っても、クッカは実体の無い幻影だから、俺にしか見えない。
知らない奴が傍から見れば、俺は絶対変人に見える。
『浮き浮きにやにや』しながら、たったひとりで歩いている、極めて危ない男だろう。
まあ、細かい事は良い。
間違いなく、俺はクッカと手を
何と!
唇にキスという奇跡に続いて、手も実体化するという二度目の奇跡が起きたのだ。
クッカの手は、とても綺麗だ。
形もほっそりとして華奢。
肌が白いから、白魚という形容がぴったりである。
まるで芸術品。
キスをした時に分かったが、この世界の女神様は人間の女の子と変わらない。
クッカの唇も他の嫁と変わらず、とても甘くて美味しかった。
繋ぐ事が、出来るようになった手も変わらない。
ほど良い温かさ、柔らかさを、俺の手へ伝えて来る。
頭上には、満天の星。
今にも降って来るという、形容がぴったり。
月明かりが、俺達をほんのりと照らしている。
ちなみに今夜の俺の風貌は、いつか変態狼男ライカンに茶化された『魔王の手下系黒ファッション』である。
万全を期した。
絶対に俺と特定されないように、クッカの助言で変化の魔法を発動して変装したのだ。
やはりクッカは俺の事を
普通の女の子なら、
「デートの時くらい外見は俺の素顔で!」とか
「ダサイ恰好NG! カッコよく決めなきゃ嫌」とか言いそうだからだ。
でもクッカは、けしてそんな事は言わない。
俺の『素』を理解して、惚れてくれているから。
『うふふ、静かだし星は綺麗だし、ケン様とふたりきりだし、凄くロマンチックですねぇ』
『ああ、本当だな』
『私、手を繋ぐ事が出来て、とっても嬉しいです』
『俺も、さ……』
クッカは、俺とイチャするのがとても嬉しいようだ。
当然、俺も同じ気持ち。
『旦那様、奇跡って……何度も起こるものなんですねぇ』
奇跡かぁ……
でも奇跡を起こすのは神様だって、昔から相場が決まっている。
と、なると……
『これって絶対に、管理神様の
俺は自分で言って、絶対にそうだと思った。
顔は見えず声しか知らないけれど、悪戯っぽく笑ってVサインを出すオジサン。
管理神様はそんなイメージ。
これは……確信だ。
クッカは、相変わらずにこにこ笑っている。
『そうですね、きっと! でも、何か……お考えがあるのですよ。ここは素直に喜ばないと』
クッカは管理神様の意図も、敢えて前向きに捉えていた。
まあ確かに……
クッカの言う通りだ。
神様のやる事を、邪推しても仕方が無いだろう。
『まあ、確かにね』
『これって、もしかしたら……もしかしますよ』
もしかする?
クッカが、もしかしたらって事?
『もしかしたら、もしかするって……ホントかな?』
俺の脳裏に浮かんだ事。
クッカが、幻影から完全な実体になる事。
その為には……
『私は信じます。だから頑張ります、絶対にケン様のお役に立って、必要とされる存在になる。必ず……夢を叶えます』
『夢を叶える、か……』
クッカの夢、それは俺の花嫁になる事。
凄くいじらしいクッカ。
涙が出そうになる。
健気なクッカの頑張りを、俺もぜひ全力でアシストしたい。
彼女が嫁になってくれるのは、『俺の夢』でもあるのだから。
『……そう言えば何となく思ったんだけど』
『何でしょう?』
『唇が実体化しているんだから……もしかして喋れないのかな?』
『あ!?』
もしもクッカが、喋れたとしたら?
直接、彼女と話せる。
そうなったら……凄いぞ。
『じゃあ……試してみます』
『うん! やってみよう』
『せ~の』
『どん!』
「…………」
クッカが一生懸命に口をパクパクさせている。
しかし声は全く出ていない。
う~ん、残念だ。
「…………」
『やっぱり、現実はそう甘くはないみたいです』
クッカは、ちょっと残念そうだ。
俺も、少しがっかりした。
『そうか……クッカが喋れるようになるにはもっと頑張らないと駄目か』
『そう……みたいです。私、頑張ってポイント稼ぎますから』
え?
ポイント?
何か、カード会社のサービスみたいで俗っぽいぞ。
ま、いっか。
苦笑いするクッカの手を、俺は「きゅっ」と握ってやったのである。