第38話 「私もいかが?」

文字数 3,062文字

 大空屋に併設した宿屋の中で、俺はまたもや、イザベルさんに褒められる。

「ケンは農作業と狩りも、両方バッチリだったみたいね?」

「いや、それほどでも……」

「まあ! 謙遜しちゃって、もう!」

 にっこり笑うイザベルさん。
 俺もこんなお母さん、
 いや! 素敵なお姉様が居たら、絶対シスコンになっていただろう。
 禁断の関係になりたくなる……なんちゃって!
 
 ミシェルが「こらっ」というように、俺の方を見て悪戯っぽく笑う。
 貴方の相手は私よ! とでも言うかのようだ。
 
 そんな笑顔のミシェルが、

「……という事で、今度は私達の店を手伝って欲しいと言うことになったわけ」

「ケンにやって貰う仕事は、店の手伝いと、併設の宿屋にもしもお客が来たらその対応ってところね」

 ミシェルの説明を、イザベルさんがすぐに捕捉した。
 さすが母娘、呼吸(いき)がぴったりだ。
 
 間を置かず、ミシェルが俺に言う。

「後で店内を見て貰うと分かるけど、ウチは万屋。村外の人も来るけれど、お客さんは大体村内の人になるわ。村では自給出来ない日用品を主に売っているの」

「成る程」

「領主様に納めた後の、余剰品やその他を買取りもしている。この村の人達には無くてはならない店なのよ」

 ミシェルは、誇らしげに説明してくれた。
 こういう時は、しっかり空気を読まないと。

「大空屋は、ボヌール村にとって大事な店なんだな」

「ええ、そうよ! でも村の人はともかく。外からの人には、女ふたりだと、舐められる事も多くてね。ちょうど男手が欲しいと思っていたの」

 ここで、ミシェルとイザベルさんが見つめ合って頷いた。
 何か、意思疎通をしたようである。

「昨日、レベッカと貴方が、仲良く手を(つな)いでいるのを見たよぉ~」

 あちゃぁ~
 見られちゃったか。

「アレを見てやっぱり! と思ったわ」

「うふふ、良かったなって!」

 あれ?
 ふたりの意外な反応。
 何故に?

「???」

 訝しげな俺を見て、ミシェルが優しく微笑んだ。

「レベッカと1日一緒に居て、よ~く分かったでしょう?」

「ええっと……」

 何となく、分かるような気がするが……
 超ツンデレとか、ど真っすぐとか……
 でも、ぺらぺら真実を言ったら、俺はレベッカに殺される。
 必ず、瞬殺される。

 そんな俺を見越したように、ミシェルは言う。

「あの子は、私の親友なんだ」

「そ、そうなんだ?」

「うふふ。(とぼ)けちゃって、ほら、分かってるでしょ? このぉ!」

「な、な、何が? 分かってる?」

「あの子の性格よぉ! レベッカはね、良い子なんだけど、真っすぐ過ぎて思い込みが激しい。女子は勿論、男子には凄く厳しいのよ。それが、あんなに甘えるなんて、今迄になかったもの」

 ピンポ~ン!
 さすが親友!
 良く見ていらっしゃる。
 レベッカはいっつもツンで、あのデレデレ状態は初めて……なんだなぁ。

 そしてミシェルの話は、まだ終わらなかった。

「それにクラリスの事も聞いたよ。あの子は華奢(きゃしゃ)で、そんなに体力がないけれど、農作業が大好きな子なんだ。疲れて困っていたのを、とても親切にしてあげたんだって?」

「ま、まあ、ちょっとだけさ」

 またもや謙遜して答えた俺を見て、ミシェルとイザベルさんはさっきより大きく大きく頷いた。
 ふたりとも、満面の笑みを浮かべている。

「母さん、やっぱり!」

「うん、そっくりだね」

「やっぱり? そっくり?」

 そっくりって……一体、誰にだろう?
 俺は、黙ってふたりを見つめた。

 ミシェルが、何故か、うっとりした目で俺を見る。
 何で? 何で? 何で?
 と、思ったら…… 

「ケンはね、私の父さんに凄く似ているの!」

「ミシェルのお父さんに!? 俺がそっくり?」

 俺は驚いて、大きな声をあげた。
 ああ、そうなんだ。
 だがミシェルは、いきなり父に似ているといわれる男の心理をしっかり理解していた。

「うん! 頼むから、ファザコンとか言って、引かないでね。ケンは死んだ父さんそっくりで、私の理想の男の子なの」

「そりゃ光栄だ、ありがとう」

 美少女から、『理想の男子』だと言われる。
 そりゃ、男なら誰でも嬉しいじゃない?
 俺は、素直に礼を言った。

 ミシェルの目が少し遠くなる……

「父さんは魔物との戦いで、私を守る為に戦って死んだ。強くて優しくて親切で、だけどそれを一切ひけらかさない、不言実行な本当にカッコいい父さんだった……」

 父の思い出を告げたミシェルは改めて、『自分』を売り込んで来た。

「さっきは、貴方の家で、凄く先走っちゃったけど……改めて私を見て! そしてお嫁さんにしても良い子だなって思ったら……そうしてね」

 ここで、イザベルさんも追随する。
 可愛い娘の為には、美人ママも援護を惜しまない。

「親馬鹿だけど、ミシェルはすっごくいい子よ。尽くすタイプだし、ケンの良いお嫁さんになるよ」

 俺は、この場で、どう言ったら良いのか分からない。
 だって、一歩間違えれば、地雷を踏む。

「ええっと……」

 俺が口篭ると、ミシェルはふふっと笑う。
 この笑いは……何だ?

「大丈夫! 聞いているから!」

「聞いている?」

 な?
 何を聞いてるって?

「うん! リゼットとレベッカをお嫁さんにする約束したんでしょう? 大丈夫、全然OKだから」

 あらら……
 すべて、ばれて~ら。

 俺は、思わず溜息を吐いてしまう。
 別にミシェルが嫌いとか、そういうわけではない。
 ただ何となく、気が重くなっただけだ。

 だってさ……クッカを入れたら嫁がもう4人だぜ。
 え?
 ふざけるな?
 お前なんて、すぐ爆発しろ?
 って……そうですか……

「よっし!」

 何か考え込んでいたイザベルさんが、はたと手を叩く。

「母さん、どうしたの?」

 と、ミシェルが聞けば、イザベルさんは……

「この際だから、私もお嫁にして貰おうと思ってね、どう? 私」

「か、か、母さん!?」

 母からの想定外の発言に、さすがのミシェルも驚いている。

 はぁっ!?
 何、それぇ!!!
 
 年上のお姉さん?
 ……いや違うぞ。
 母と娘が俺の嫁さんに?
 
 これって……親子丼?
 すっげ~まずくね?
 どこかの、アダルトビデオみたじゃないか!

 場を、沈黙が支配する。
 しかし、イザベルさんは希望を引っ込めるつもりはないらしい。

「ねぇ、どう?」

 ウインクするイザベルさん。
 美少女に無い、大人の色香がぷ~んと来た。
 
 ダメだ!
 抵抗など出来ない。
 これで、俺は完全にノックアウトだ!

「あ、ありです! OKです、大人の魅力です」

 俺は、素直に熱くイザベルさんを褒め称える。
 さすがに、ミシェルも呆れたように見つめていた。

 しかし……

「あっははは」

 ばぁん!

「わう!」

 イザベルさんに思いっきり背中を叩かれたぁ!!!
  
 さ、さっきのミシェルの3倍以上の強さだ。
 さすが、この娘にしてこの母ありだ。

「ほほほほほ! 冗談よ、冗談! 私は死んだ亭主一筋だからね」

 大空屋の宿屋には、イザベルさんの嬉しそうな笑い声が響いていたのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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