第80話 「女神と美少女の共通項①」
文字数 2,758文字
あくまで、俺の持つ印象だけど。
多分ハーブに対して、良いイメージがあるのだろう。
身体に良いとか、美容に有効だとか……
香りが『アロマテラピー』というのも心のツボへ響くに違いない。
ハーブの香りが、嫌いとか苦手だという男はたまに聞くけれど、女では全然聞かないもの。
いきなり転生させられた、この異世界でもそう。
ボヌール村の女性も、俺の嫁ズを含めて全員が好きだという。
その中でも突出して、ハーブ好きなのは嫁のひとりリゼットである。
彼女の夢は、将来ボヌール村に素晴らしいハーブ園を作る事だ。
リゼットは数年前、エモシオンの町でハーブティーを飲んだ事がきっかけで、村にハーブ園を作る事が出来ないかと考えた。
更に……
西の森で偶然見つけた野生のハーブ園が、彼女の夢の実現を後押ししたのである。
そしてリゼットは病気の祖母の為に、ハーブを取りに行った事がきっかけで、将来の夫となる俺と知り合った。
それが最大の理由らしいが、ハーブは自分の『超ラッキーアイテム』と考えているらしい。
一方、ハーブ好きなら、クッカもけして負けてはいない。
何たって、天界ではふたつ名が『お茶汲みのクッカ』だもの。
クッカのハーブの知識は、凄いモノがある。
森へ行った時にはっきりと実証されたし、今迄の話振りだとハーブティーには目が無い。
リゼットと双璧の、ハーブ好きだと言えるだろう。
……今日は、そのリゼットの夢を叶える記念すべき第一歩の日。
天気は、ボヌール村お約束の快晴。
最高のお出かけ日和。
朝早く一緒に出て、俺とリゼットは西の森の『ハーブ園』へと向かっている。
大空屋や自宅地下に俺の考案した氷室が完成したとほぼ同時に、懸案事項であった村の外柵もやっと完成したので遂に時間が取れたのだ。
野生のハーブ園は、女性にとっては憧れで楽しみな場所らしい。
特別ハーブに興味がない俺でも、『楽園』だと思ったくらいである。
ハーブ好きな嫁ズにとっては、推して知るべしであろう。
リゼット以外の嫁ズにも伝えた所、やはり当初は「全員で行こう」という話になった。
特にリゼットの親友クラリスは、植物好きなので行く気満々だった。
しかし協議の結果……
1番最初は俺とリゼットのふたりきりで行かせてくれる事になったのである。
これは以前にクラリスと、ふたりきりで村内デートさせてくれたのと同じだ。
他の嫁ズの、思い遣りって事。
俺とリゼットにとって、西の森のハーブ園は出会いのきっかけを作った場所として思い入れが深い。
そのように考えてくれ、「先にふたりきりで思い出を作れ」と気を利かせてくれたのである。
ああ、ウチの嫁ズは皆、優しいし気配り抜群。
その上、超美少女ばかりであり、俺には勿体ないくらい自慢の嫁ズだ。
え?
もうお腹がいっぱい?
前にも聞いていて、何度もしつこいし、自慢はもうNG?
勝手に爆発していろと?
……そうですか、どうもすみません。
ところで今回のハーブ園行きで、同行する者が居た。
幻影のクッカは内緒でサポート役。
加えて異界から召喚した俺の従士達フルメンバーである。
従士達は一応、護衛役。
加えて、ここ最近暴れていないので、ストレス発散の意味もあった。
なので、ミシェルから借りた荷馬車を牽引するのは、悪魔の愛馬であった妖馬ベイヤール。
目立たないよう、地味な馬に擬態している。
本来持つ逞しい鹿毛の馬体は、そこらに居る並みの馬にしか見えない。
荷馬車の少し前を軽快に駆けているのは、これまた普通の犬に擬態したケルベロス。
そして荷台に丸くなって寝ているのは強硬に同行を主張した
唯一ジャンだけは、外見が普通の白黒ぶち猫なので、擬態せず『そのまま』である。
前回手酷く振られたジャンは、今度こそ村の雌猫達へ、自分が『強い男』なのを証明したいらしい。
ちなみに、今回の西の森行きは俺と嫁ズ以外、他の村民には内緒。
リゼットの両親である村長のジョエルさんと奥さんのフロランスさん、村の保安担当であるガストンさん、ジャコブさん達嫁ズの肉親にも伏せてある。
表向きは近くの草原へ、野草詰みに行く事になっていた。
ジョエルさん達へ言わなかったのは、確実に反対されるからだ。
相変わらず西の森には、ゴブの群れが相当数生息している。
凶暴なゴブの奴等は、数を頼んで獲物を襲う。
俺も、戦ってみて良く分かった。
あんな群れで襲われたら、ひ弱な人間などは恰好の獲物。
たまたま俺は、レベル99のチート魔人だから楽勝で撃退出来たが、普通の人なら簡単に餌食となっていた。
襲われたリゼットが助かったのは、本当に幸運中の幸運だったのだ。
リゼットを助けた際、俺はレベル99の実力を隠す為に嘘をついた。
助けられたのは、「相手の数がたまたま少なかった」と偽の報告をしたのだ。
すなわちゴブどもに勝てたのは偶然の産物、あくまでラッキーだったという事になっている。
そんな危険な場所へ俺はともかく、村長夫婦が可愛い娘を行かせるわけがない。
「ねぇ、旦那様! 持って来た頂いたハーブのお陰でお祖母ちゃん、すっかり良くなったのよ」
荷馬車に揺られるリゼットの顔は、本当に嬉しそうだ。
そんなに感謝されると、俺も真夜中にハーブを採りに行った甲斐がある。
「おおっ、良かったなぁ」
リゼットは、とても優しい女の子だ。
あの時はおばあちゃんが重い風邪で辛い思いをしているのが、可哀想で我慢出来なかったらしい。
だから命の危険を冒してまで、西の森へハーブを取りに行ったのだ。
「あの時……お父さんとお母さんにはすっごく怒られたけど……最高の旦那様にも巡り会えた。絶対に創世神様のお導きとお祖母ちゃんのお陰だよね」
確かに、俺をこの異世界へと送り込んだのは創世神様の部下であるこの世界の管理神様。
西の森へ行った原因は、お祖母ちゃんの風邪。
だから、その指摘は合っている。
バッチグーの正解だ。
リゼットは、繋いでいる俺の手を「きゅっ」と握って来た。
ああ、柔らかい美少女の手!
天国だ!
『けっ! 大爆発してろ』
荷台から、舌打ちが聞こえる。
また『読者様』かと思ったら違った。
寝ていたジャンが、いつの間にか起きていた。
そして俺とリゼットのアツアツ振りを見て羨んだのだ。
俺は思わず苦笑して、肩を大きくすくめたのであった。