第１０９話 「奇妙な提案」
文字数 2,173文字
今は、真夜中……
俺のベッドに座った若い女は、また笑う。
コケティッシュで、不思議な雰囲気を持つ女だ。
ブルネットのロングヘア。
魅惑的な黒い瞳。
誰もが知る、あの某女優にそっくり。
口角の上がり方が、絶妙。
まだ青い、俺の男をそっとくすぐる。
背筋を、ぞくぞくする感覚が襲う。
しかし女の出現と同時に、勇気＆冷静スキルを発動させた俺は索敵もスイッチオン！
最初はアンノウンと表示された反応を、内なる声が変えて行く。
『サキュバス。悪魔族。人型魔物 。女性型淫魔。人間の夢に入り込み、卑猥な幻影を見せ魔力を吸収する』
サキュバスは人間の精——すなわち魔力を吸って糧としている。
ちなみに、魔力というのは人間の体液に含まれる場合が多いと言う。
だから、吸血鬼は血液を吸いながら魔力を取り込む。
女の夢魔は……男のアレである。
そうか、成る程。
こいつは、超が付く有名な夢魔だ。
と、なると今見ていた夢はこいつが仕掛けた？
しかし俺の中二病的知識では、夢魔とはもっと淫蕩な——すなわちHな夢を見せる筈。
なら、先程まで見ていた夢は全然違う。
俺が見ていた夢は、心をセピア色に染めるかつての故郷の風景。
懐かしくて堪らなく、見れるならまたぜひ見たい夢。
最後はもどかしさで一杯になってしまったが、郷愁を誘うものだった。
色々な意味で、二度と帰れない故郷を体感させてくれる夢だった。
決して悪夢などではない、寧ろその逆だ。
物思いに耽る俺を、夢魔はにこにこして見つめていた。
こういう時は大声を出したり、じたばたしない方が良い。
いろいろ、聞きたい事もある。
「何故、俺の名を知っている？ お前の名は？」
「リリアン」
夢魔の女——リリアンは投げやりな感じで言い放った。
今の所、殺意は感じないが油断は禁物だ。
「リリアンか、まず聞こう……俺以外にこの村の人間に何か悪さをしたか？」
俺の言葉を聞いたリリアンは、悪戯っぽく笑う。
「うん！ 私と仲間達が……した……と、言ったら？」
「お前達、夢魔を殺す。そしてお前へ命令した者が存在するならば、そいつも殺す」
低くドスの効いた俺の声を聞いても、リリアンは動じていない。
「こわ～い！」
こいつ……俺を舐めてる。
俺が、女には手を出さない事を見越しているようだ。
「ブリブリしても無駄、冗談は抜きだ。俺の大事な家族に手を出したらお前を塵にしてやる。俺は破邪の最高魔法を使えるんだ」
俺は少しだけイラっとしながら、脅してやった。
クッカから不死者 の話を聞いて、俺は既に対策を立てていた。
葬送魔法は死体を処理して不死者にさせない魔法だから、倒す為にはそれ以外の魔法が必要だ。
通常の魔法が通じない存在、たとえば霊体へ攻撃が効く魔法を俺は習得している。
「ふ～ん、そう」
リリアンの言葉を聞きながら、俺は索敵を広範囲に働かせる。
他の魔族の気配は……ない。
何故かこいつは、単独でやって来たようだ。
そして俺の嫁ズの気配も異常なし……皆、安眠しているようだ。
全員無事……とすれば、リリアンの言った事は嘘だ。
俺は本気で脅したのに、リリアンの様子はずっと変わらない。
死の概念が、人間とは違うせいだろうか。
「全然驚かないな、お前。何か特別な目的がある筈だ、答えろ」
「どうして、そう思うの？」
……何だか、俺とリリアンのやりとりは問答みたいになって来た。
人間へ、害為す魔族との会話には思えない。
とても奇妙である。
「理由はいくつかある」
「ふ～ん、言ってみてよ」
「まず……今お前が言った事が嘘だから」
俺は、ズバリ言ってやった。
リリアンは……まだ惚けている。
「へぇ！ 私、嘘つきなんだ」
「ああ、今、この村に居る魔族は俺の従士達を除けばお前ひとり、それに村民は全員無事だからな」
そう、言いながら俺は不思議に思う。
リリアン、この夢魔は何故従士のチェックを抜けて村内へ入れたのか、と。
片や、リリアンはさすがに俺の力量を認めたらしい。
でも、にんまり笑う。
相変わらず余裕がある。
「……さすがレベル99勇者ね」
「褒めても何も出ないぞ、次にお前の見せてくれた夢だ」
そう、こいつが俺に見せた夢が謎だ。
俺を殺すつもりなら、理想の女性に化けてたぶらかす筈なのに……
何故そうしなかったのだろう？
「うふ！ 貴方のふるさとって素敵ね！ ……懐かしかったでしょ」
やはり！
この夢魔は俺の故郷を知っていた。
どうしてだろう？
疑問が次々に湧いて来る。
「……どういうつもりだ？」
「どういうつもりって、私の目的が知りたい？」
リリアンは面白そうに俺をからかい、会話自体は堂々巡り。
少し、俺の語気が強くなる。
「おいおい……当たり前だろう？ 知りたいから聞いているんだ」
「だったら、私を抱き締めて優しくキスしてくれる？」
「はぁ？」
夢魔に、優しくキス？
俺は奇想天外なリリアンの提案……いやお誘いに唖然としていたのであった。
俺のベッドに座った若い女は、また笑う。
コケティッシュで、不思議な雰囲気を持つ女だ。
ブルネットのロングヘア。
魅惑的な黒い瞳。
誰もが知る、あの某女優にそっくり。
口角の上がり方が、絶妙。
まだ青い、俺の男をそっとくすぐる。
背筋を、ぞくぞくする感覚が襲う。
しかし女の出現と同時に、勇気＆冷静スキルを発動させた俺は索敵もスイッチオン！
最初はアンノウンと表示された反応を、内なる声が変えて行く。
『サキュバス。悪魔族。
サキュバスは人間の精——すなわち魔力を吸って糧としている。
ちなみに、魔力というのは人間の体液に含まれる場合が多いと言う。
だから、吸血鬼は血液を吸いながら魔力を取り込む。
女の夢魔は……男のアレである。
そうか、成る程。
こいつは、超が付く有名な夢魔だ。
と、なると今見ていた夢はこいつが仕掛けた？
しかし俺の中二病的知識では、夢魔とはもっと淫蕩な——すなわちHな夢を見せる筈。
なら、先程まで見ていた夢は全然違う。
俺が見ていた夢は、心をセピア色に染めるかつての故郷の風景。
懐かしくて堪らなく、見れるならまたぜひ見たい夢。
最後はもどかしさで一杯になってしまったが、郷愁を誘うものだった。
色々な意味で、二度と帰れない故郷を体感させてくれる夢だった。
決して悪夢などではない、寧ろその逆だ。
物思いに耽る俺を、夢魔はにこにこして見つめていた。
こういう時は大声を出したり、じたばたしない方が良い。
いろいろ、聞きたい事もある。
「何故、俺の名を知っている？ お前の名は？」
「リリアン」
夢魔の女——リリアンは投げやりな感じで言い放った。
今の所、殺意は感じないが油断は禁物だ。
「リリアンか、まず聞こう……俺以外にこの村の人間に何か悪さをしたか？」
俺の言葉を聞いたリリアンは、悪戯っぽく笑う。
「うん！ 私と仲間達が……した……と、言ったら？」
「お前達、夢魔を殺す。そしてお前へ命令した者が存在するならば、そいつも殺す」
低くドスの効いた俺の声を聞いても、リリアンは動じていない。
「こわ～い！」
こいつ……俺を舐めてる。
俺が、女には手を出さない事を見越しているようだ。
「ブリブリしても無駄、冗談は抜きだ。俺の大事な家族に手を出したらお前を塵にしてやる。俺は破邪の最高魔法を使えるんだ」
俺は少しだけイラっとしながら、脅してやった。
クッカから
葬送魔法は死体を処理して不死者にさせない魔法だから、倒す為にはそれ以外の魔法が必要だ。
通常の魔法が通じない存在、たとえば霊体へ攻撃が効く魔法を俺は習得している。
「ふ～ん、そう」
リリアンの言葉を聞きながら、俺は索敵を広範囲に働かせる。
他の魔族の気配は……ない。
何故かこいつは、単独でやって来たようだ。
そして俺の嫁ズの気配も異常なし……皆、安眠しているようだ。
全員無事……とすれば、リリアンの言った事は嘘だ。
俺は本気で脅したのに、リリアンの様子はずっと変わらない。
死の概念が、人間とは違うせいだろうか。
「全然驚かないな、お前。何か特別な目的がある筈だ、答えろ」
「どうして、そう思うの？」
……何だか、俺とリリアンのやりとりは問答みたいになって来た。
人間へ、害為す魔族との会話には思えない。
とても奇妙である。
「理由はいくつかある」
「ふ～ん、言ってみてよ」
「まず……今お前が言った事が嘘だから」
俺は、ズバリ言ってやった。
リリアンは……まだ惚けている。
「へぇ！ 私、嘘つきなんだ」
「ああ、今、この村に居る魔族は俺の従士達を除けばお前ひとり、それに村民は全員無事だからな」
そう、言いながら俺は不思議に思う。
リリアン、この夢魔は何故従士のチェックを抜けて村内へ入れたのか、と。
片や、リリアンはさすがに俺の力量を認めたらしい。
でも、にんまり笑う。
相変わらず余裕がある。
「……さすがレベル99勇者ね」
「褒めても何も出ないぞ、次にお前の見せてくれた夢だ」
そう、こいつが俺に見せた夢が謎だ。
俺を殺すつもりなら、理想の女性に化けてたぶらかす筈なのに……
何故そうしなかったのだろう？
「うふ！ 貴方のふるさとって素敵ね！ ……懐かしかったでしょ」
やはり！
この夢魔は俺の故郷を知っていた。
どうしてだろう？
疑問が次々に湧いて来る。
「……どういうつもりだ？」
「どういうつもりって、私の目的が知りたい？」
リリアンは面白そうに俺をからかい、会話自体は堂々巡り。
少し、俺の語気が強くなる。
「おいおい……当たり前だろう？ 知りたいから聞いているんだ」
「だったら、私を抱き締めて優しくキスしてくれる？」
「はぁ？」
夢魔に、優しくキス？
俺は奇想天外なリリアンの提案……いやお誘いに唖然としていたのであった。
