第25話 「暴走美少女を救え」
文字数 2,280文字
彼女の後を追う俺。
張り巡らした俺の索敵に、大きな反応が浮かび上がる。
場所は向かう森の中、それが何と3つもあるのだ。
距離は約300m!?
まさか、こんな凄い敵が居たというのか!
だが、対象の敵はアンノウン……
という事は、やっぱり俺が戦った事のない未知の敵だ。
もう一回、さらにもう一回……
何度、聞いてみてもアンノウン。
俺の中で、クッカとは違う感情の無い内なる声が返して来る。
どちらにしても正体不明な強敵という事で、反応の強さからしてもゴブリンなんか比べ物にならない奴等なのだろう。
しかし、それ以上の情報は入って来ない。
畜生!
これじゃあ、あまりにも情報が不足だ
やはりクッカの索敵の方が、1日の長がある。
昨日の狼の時に、はっきり相手が認識出来なかったのと同じだ。
世界最強レベル99であり、オールスキルはすぐに神レベルの熟練度に成長するといっても、全てがそううまくはいかないようだ。
もしかして、俺をあまりにも全知全能チックにすると世界のバランスとやらが崩れるから、管理神様が特別な補正でもかけたのだろうか。
どちらにしろ今、ここにフォロー役のクッカが居ないのは痛い。
彼女が居れば、レベッカの追跡が何倍も楽になっていたのは紛れもない事実だ。
「くそ! こんな時にクッカが居れば!」
思わず、不満の声が出てしまう。
しかし、居ない者の事をいつまで言っていても仕方がない。
身体強化のスキルを発動させたので驚異的な速度で移動する俺は、もう少しでレベッカが出している反応と接触する。
彼女の周囲にぽつぽつとあるふたつの小さな反応は、あの犬2匹なのだろう。
怯えの気配を大量に放出しているが、感心にも踏み止まって『主人』を守っているらしい。
「レベッカぁ! どうか無事でいてくれよぉ!」
俺は叫びながら、一層速度を速める。
と、その時!
がはあおおおおおおっ!
突然、凄まじい咆哮が響き渡る。
そして、呼応するように続けて咆哮が起こった。
あぐがあおおおおおおっ!
があああああああっ!
対して、か細くも必死な犬の吠える声も聞えて来た。
怖いのを我慢して、何とか声を振り絞っている……そんな感じだ。
俺の習得したスキルが、意思に関係なく自動的に発動する。
クッカが言っていた魔物の意思を読み取り、逆にこちらからも伝えられるスぺッシャルなものだ。
そのアンノウン達の咆哮は……
美味そうな人間の女を喰えるぞ! という歓喜の感情。
バカヤロー!
冗談じゃねぇっ!
ふざけるな!
俺は、「キッ」と前方を睨むと一気に目標地点へ飛び込んだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺が飛び込んだ場所は、東の森の中で拓けた草原のようになっている場所であった。
そこに、レベッカは居た。
背中を向けて座り込み、ガタガタと熱病にかかったように震えていた。
ああ!
無事だったぁ!
間に合ったぁ!
俺は「ふう」と、軽く安堵の息を吐く。
やや前方に2匹の犬が、彼女を守るように吠えている。
無理矢理、虚勢を張っているのは丸分かりであったが、頑張って逃げない。
普段、余程レベッカに可愛がられているのだろう。
そして、ひとりと2匹の前に立ち塞がっているのは……
身長は、楽に5mを超えているだろう。
ゴブリンなんか比較にならない、巨大な
体色はどす黒く、目は充血したように真っ赤である。
大きな口からは、鋭い牙が見え隠れしていた。
俺の心の中で、アンノウンの名称が切り替わって行く。
『オーガ。大型の
え?
目の前にオーガが居るのに情報って、これだけ?
こんなスペック、ファンタジーオタクなら誰でも知っている最低の一般常識じゃないか!
身体能力とか耐久力とか……
そして肝心の弱点は……
弱点は、出ないのかよぉ。
く!
使えねぇ!
本当に使えねぇぞ、俺!!!
しかし、もう猶予はない。
オーガが踏み込んで、いきなりレベッカを掴もうとしたのである。
彼女を、『餌』として喰らおうとしているのは明らかだ。
その瞬間。
レベッカの愛犬ヴェガが、ダッシュしてオーガの腕に噛み付いた。
勇気を振り絞って、強敵へ戦いを挑んだのだ。
「ヴェガ!!!」
響き渡るレベッカの絶叫。
しかし噛みついても、オーガの分厚い皮膚には犬の牙など全く効いていないらしい。
オーガが噛み付かれた腕をさも煩そうに振り払うと、ヴェガは呆気なくぽ~んと飛ばされた。
そして無残にも、木に叩きつけられて下に落ち、動かなくなってしまう。
「ヴェガ~!!! わあああああん!」
愛犬を倒された、レベッカの慟哭!
しかしオーガは牙をむき出し、再びレベッカを掴もうとしたのである。
させるかぁ~!!!
その時、また内なる声が響く。
格闘スキル発動!
俺の強化された身体に、いきなり未知の力が加わる。
溢れんばかりの力が、あっという間に全身へ、
「くああっ!!!」
俺は裂帛の気合を発し、思い切り飛んだのであった。