第89話 「村長からの依頼①」
文字数 2,807文字
朝、いつものように俺を起こしに来たリゼットが、
「お父さんが怖い顔で呼んでいる」と言うのだ。
リゼットに抱きついて、いつもの甘い朝を過ごしていた俺だが、いっぺんに眠気が醒めた。
何だろう、急に呼ばれるなんて?
それも怖い顔?
ええっと……俺、何かやらかしたかなぁ。
何となく、胸に手を当てて記憶を
単に、言葉の比喩ではある。
だが、そのポーズをとって「よ~く考えてみろ」という有名な
しかも俺の経験では、その台詞が良い場面で言われていたためしがない。
何らかの理由で、相手を責めているっていうのが殆どだ。
リゼットは、俺が呼ばれた
俺が聞こうとしたら、先手を打たれた。
「旦那様、愚図愚図しているとお父さん怒るよ」
お父さんが、怒る?
やっぱり俺、何かやったのかな?
告白します。
昨日の朝、どさくさに紛れて……
リゼットの胸を、ほんのちょっとだけ触りました。
柔らかくて、すっごく気持ち良かったです。
最高でした。
それが、ばれたとか?
でもリゼットは恥ずかしがったが、結局は許してくれた。
あれは、無理矢理じゃない。
ふたりの合意だった筈。
15歳同士、愛のふれあいなんだ。
俺は一抹の不安を持ってリゼットの家、ブランシュ家へと向かったのである。
暫し歩いてブランシュ家に着くと、早速食堂に案内された。
このパターンは、リゼットを助けて初めてボヌール村へ来た時と一緒だ。
案内された食堂には、俺を呼んだリゼット父ジョエルさんだけでなく、リゼット母フロランスさんも鎮座して待っていた。
ふたりの表情は、硬い。
これは、只事ではないかも……
一体、何だろう?
俺の能力……ふたりから放出される波動を読めば、すぐに分かるがここはちゃんと話した方が良いだろう。
先に口を開いたのは、意外にも母フロランスさんの方である。
口調は、やはり硬い。
「良く来たわね、ケン」
機嫌の悪そうな妻に合わせるよう、ジョエルさんも淡々と言う。
「まあ座ってくれ、朝飯を一緒に食おう」
ああ、雰囲気が硬い!
そして、何だかピリッと来た。
どちらにしても、何か大事な話だというのが分かる。
リゼットが気を利かせて、さっと椅子を引いてくれた。
「さあ、座って! これから厳しいご沙汰がくだるわよ」と言うかのように。
もう……まな板の鯉だ。
俺は覚悟を決めて座った。
「失礼します」
「早速だが……」
俺が座ったと同時にジョエルさんが重々しい口調で話を切り出した。
おお、来た!
何だろう?
「お前は……リゼットと結婚するのだよな」
うわあ、やっぱ、それかっ!
娘のおっぱい触ったから「不埒な野郎! きっちり責任取って貰うぜ」って事ね。
でも、それだったら寧ろ大歓迎だ。
逆に「喜んで!」って居酒屋的答えで返してあげよう。
「はいっ! 結婚します、いや、大事な娘さんとぜひぜひ結婚させて下さい」
俺は、はっきりした返事をした。
すると、ジョエルさんは相好を崩して喜んだ。
とりあえずは、良かった!
「おお、期待通りの良い返事だ。結婚してずっと住んでくれるんだよな」
ずっと住む?
ああ、このボヌール村にか?
当然だ、俺はこの村が好きだから。
このクエスチョンも問題無し、答えは当然決まっている。
「は、はいっ」
「まあ、リゼットとの責任はきっちり取って貰う。この村には永住して貰わないと、な」
は!?
永住はともかく、リゼットとの責任って?
この村の法律で「16歳未満は結婚及び付帯行為をしてはならぬ!」というのがある。
俺は規則を守ってリゼットを始めとして村の女子達とは、いまだプラトニックな関係だ。
責任といわれるほど
だけど……
実は、俺……何とか星人。
なので、嫁何人かのおっぱいは、キスの延長でちょっとだけ、触ったけど……
あ?
そういえば、レベッカとはオーガとの戦いで前も後ろも洗いっこしたっけ?
でもあれは、ふたりだけの秘密の筈……
それに、健全なスキンシップだろ?
俺は必死に、自分の行為に対して言い訳してた。
もう、考え過ぎて……
あ~、頭がぐるぐるして来た~
でもやっぱ、誰とも一線は超えていないから。
嫁ズとは、まだまだプラトニック!
これで、はい、決まり!
やましい事はしていませ~ん。
責められたら、断固として抗議しよう。
渋面の俺の顔を見て、ジョエルさんは逆に訝しげだ。
俺って、認識が違うのだろうか?
「お前との事をリゼットが嬉しそうに言うのさ」
リゼットが嬉しそうに……言う?
俺が思わずリゼットを見ると、彼女恥ずかしがって真っ赤になって、遂には俯いてしまった。
ヤバイ!
おっぱいは出来心なんですって、謝っておくか?
愛娘の様子を見たジョエルさんがにやりと笑う。
「ケン、お前に優しくキスされたってな」
キキキ、キス!?
おっぱいじゃなくて?
キスで責任って!?
何なんだ!
驚く俺に対して、ジョエルさんは真面目な表情で言い放つ。
「まだ15歳のお前が、キスなんて大それた事をしたら責任を取って相手と結婚し、この村に永住する規則となっているのだ」
は、はい~!?
俺は「ぽかん」と口を開けて、呆然としてしまう。
真っ白な俺を見て、フロランスさんもにこにこしている。
何なんだ、この夫婦は……
というか、これからこの人達が俺の義両親……だよね?
暫し経って、漸く俺はジョエルさんに問い掛けた。
「そ、そんな規則あったんですか?」
「まぁ、村長の私がたった今決めた
「ほほほほほ」
「うふふ」
今?
今決めた?
「そりゃ無茶な」と言いかけた俺。
しかし!
ジョエルさん、フロランスさん、そしてリゼット。
3人が、有無を言わさないといった笑みを浮かべている。
独特の雰囲気を醸し出され、窮地に追い込まれた俺はもうOKの返事をするしかない。
「わ、分かりました。俺、永住します、ボヌール村に」
「おお、そうか! まあお前はリゼット以外の女の子達とも結婚するそうだから、もしノーと言ったら村民全員一致で容赦なく極刑になるところだったぞ。……危なかったな」
ジョエルさんは、また面白そうに笑った。
その笑みは、凄みのあるといって過言ではない、強烈なものであったのだ。