第36話 「ボン・キュッ・ボン」

文字数 2,851文字

 ……俺は今、真夜中の森で凶暴なオーガの群れと戦っている。
 
 最初に襲って来たオーガを一発殴ってあっさり退けたところへ、すかさずひと回り大きな2匹目が咆哮して襲いかかって来た。

『水平蹴りぃ!』

 両手を振り挙げて掴もうと襲って来たオーガは……
 がら空きになった腹のど真ん中に俺の渾身の蹴りを受け、派手に吹っ飛んで行く。
 凄い音をたてて立ち木に激突し、倒れたオーガはぴくりとも動かない。
 どうやら……昇天、即座にお亡くなりになったようだ。

 大事な仲間をあっさり倒されたオーガ達は、怒りの感情に任せて次々と襲いかかって来る。
 しかし、『宇宙最強』と言い切れる天界拳の加護を受けた俺の敵ではない。

『踵落としぃ』
『掌底ぇ』
『上手投げぇ』
『首折りぃ』
『アッパーカットォ』

 俺が多彩な技を次々と繰り出す(たび)、オーガ達はどんどん倒れて行く。
 しかし、遭遇したオーガはまだまだ残っている。

『くうう! 面倒くせぇ!』

 俺は向かって来たオーガの両足首をむんずと掴み、ぶんぶん振り回しながら回転させて、なおも襲って来るオーガ達をなぎ倒す。

『くぉらあ!!! (ウルトラ)ジャイアントスイングだぁ!!!』

 ばったばったとなぎ倒され、血の海に沈んでいくオーガ達。

『はぁっはははは、舐めるなよぉ、糞オーガめぇ! 俺達は絶対に餌じゃね~ぜっ!』

 空手、相撲、ボクシング、そしてプロレス等々。
 ありとあらゆる世界の格闘技のミックス。
 これは、果たして拳法か?
 
 いや!
 神様が拳法と言えば、これは拳法。
 何でもありのご都合主義な拳法――それがこの異世界最強かつ無敵の天界拳なのだ。

 そして、正義は勝つ!
 とうとう最後のオーガも、俺の(ウルトラ)ジャイアントスイングの前に倒れたのである。

『ははははは! 何せ、この拳法の総帥は、天下無敵の創世神様だぁ、見たかぁっ! 思い知ったかぁっ!』

 クッカは「とろん」とした目をして、俺の晴れ姿を見詰め、うっとりしていた。

『凄いわ、凄いわっ、強いケン様、大好きぃ! 超強い貴方に惚れ直しちゃうっ』

 クッカに続き、妖馬ベイヤールは嬉しそうに(いなな)き、魔獣ケルベロスはうぉんと吠える。

『ぶひひひん!!!』
『ウオオオン! サスガ、ワガアルジダ! スバラシイ!!!』

 そして今迄の傲岸不遜な態度が嘘のように消えて、土下座しているのが妖精猫(ケット・シー)のジャンであった。

『ははあっ、ケン様! 今迄の生意気な態度、全て改めさせて頂きまぁす』

 勝ち誇る俺に、下々から賛辞の嵐が押し寄せたのだ。

『よっし! おまえらぁ、俺は強い! 俺は無敵なのだぁ! 分かったかぁ! 改めろよぉ、態度を! 今後は俺を(あるじ)としてしっかり称え、敬うんだぁ』

 俺が胸を張って「えっへん」と威張った瞬間……

 自宅で眠っている俺の耳へ、扉を叩く音が飛び込んで来る。

 どんどんどん!
 どんどんどん!

「朝よぉ、ケ~ン」

 ふぁ!?
 何か、遠くで音が聞こえる?
 微かに……俺の名を呼ぶ声も聞こえる気がする。
 
 若い女の声?
 だが眠い、目が開かない。

 ……何だ?
 じゃあさっきの俺を好きだと言ったクッカや、尊敬していた従士達は?
 ああ、儚い夢だったんだ。
 
 がっくり……
 いいや、もう少し寝よ……

 しかし、扉を叩く音は、どんどん激しさを増して来る。
 俺が起きないせいか、音にいらいらが乗り移っているような……気がする。

 どんどんどん!
 どんどんど~~ん!!!

 ばっきん!

 どたん!

「何だ? ……むにゃ……何か壊れたような、凄い音がした……ぞ」

 どん!

「わおっ!」

 思わず声が出た。
 ベッドで寝ている俺の上に、いきなり誰かが乗っかったのだ。

 え?
 くんくんくん。
 何かいい香りがする?

「おうい、ケ~ン。起きろ~朝だぞ~」

 あれ、誰だ?
 知らない声……じゃない。
 確か……紹介して貰った時に……

 俺は寝惚けながら、記憶を呼び覚まそうとした。

「おっさえこみ~」

 わああっ!
 女の子が、いきなり倒れ込んで来たっ!
 むにゅにゅって、何?
 このボリューム感!
 
 おお、すっげぇ、この子ったら、むちむちしているっ!
 そして!
 俺の胸へ押し付けられている、このドカンと突き出た、柔らかい突起は何じゃあ!?

「うふふふ、うりうりうり」

「あ、あふふふふ」

「うふふ、気持ち良いかい、うりうりうり」

「わふう気持ち良い……まだ俺は夢の中……ですかぁ?」

 と、その時。
 クッカの、悲鳴にも近い大声が響き渡ったのである。

『現実ですよ、ケン様っ!!!!!! 不潔っ』

「わわっ」

 俺は、慌てて飛び起きた。
 そして頬を思いっきり膨らませ、唇を尖らせる幻影のクッカが居て、その傍らに居たのは……

「うふふ、私はミシェル。宜しくね~」

 彼女は、ボヌール村の村民に俺が紹介された時、レベッカの次に話し掛けて来たボン・キュッ・ボンの金髪女子であった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ゆさゆさゆさ……

 俺の目は、ある一点に釘付けだ。
 視線の先は、ミシェルの巨大な胸である。
 もう眠気など、とっくに吹っ飛んでいて、どこにもない。

 今の俺の状況はというと……
 ミシェルに手を引かれて、どこかに連れて行かれる途中なのだ。

『う~っ、私だって実体化出来ればぁ、うりうりうりって出来るのにぃ! 実体化出来ればぁ! く、悔しいっ』

 無念そうに唸る、幻影のクッカ。
 顔をしかめながら、飛んで着いて来る。
 当然、クッカの視線の先もミシェルの揺れる胸だ。

 しかし、これからどうなるのだろう?
 ここは、聞いてみるしかない。

「ミシェル、これからどうするの?」

「うっふふふ、研修」

 研修?
 農業研修と戦闘兼狩り研修以外に、何があるのだろう?
 聞いてないぞ、俺。

「良いから来て! 旦那様」

 旦那様ぁ?
 俺が?
 何、それ?

「ちょっと、まずいよ」

「大丈夫! レベッカとリゼットに話はバッチリ通してあるから」

 レベッカとリゼットに、話はバッチリ通してある?
 と言う事は?

「あはは、私も貴方のお嫁さんになってあげるよ。嬉しいでしょ、この果報者ぉ」

 ばしっ!
 笑いながら、背中を思い切り叩くミシェル。

「あだだだだ」

「うふふ、早く行こう」

 ミシェルの力は、結構強いらしい。
 俺の家の扉が、無残に破壊されていた……
 彼女は何か、武術の心得があるのかもしれない。
 
 後でリゼットから、この俺が怒られる事は『確定』だろう。

 ミシェルはにっこり笑い、しっかり握った俺の手をぐいっと引っ張ったのである。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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