第98話 「貴族令嬢を救出せよ⑦」
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そして道すがら、ざっくりと説明してステファニーへ引き合わせたのである。
貴族のステファニーが、いきなり俺の嫁になるのを、他の嫁ズはどう思うのだろうか?
でもその心配は、杞憂に終わった。
俺が、レベッカ達を迎えに行っている間……
リゼットがレベッカ達の話や、村で生きて行く嫁の心得等を簡単に教授していたのである。
リゼットがステファニーを姉と呼んだ事で、ふたりはすぐに距離が縮まり、仲良くなっていた。
誰にでも可愛がられる妹キャラのリゼットと、貴族令嬢らしくない気さくなステファニー。
ふたりはまるで、以前から仲が良い、姉妹のようになったのである。
こうなると、話は早い。
今回のステファニーの『話』は、女性にとって理不尽極まりない話だ。
改めて聞いたレベッカ、ミシェル、クラリスもすっかり同情してしまった。
リゼットを皮切りに、馬鹿息子への非難が集中する。
「何度聞いても、許せないですね……その馬鹿息子」と、怒るリゼット。
「当然! ダーリンが許せば、私が射殺してやりたいっ!」と、真っ赤な顔で怒るレベッカ。
「旦那様、私、滅多に怒らないのですけど……久々に腹が立ちました。少し懲らしめて下さいますか?」と、大人しくも怒るクラリス。
そして最後に……
憤る嫁ズを諌めたのが、いつも冷静なミシェルである。
「まあまあ……相手は王都の貴族だから……常識知らずで非道なんだ。ところで旦那様、私からはふたつ。クッカ姉は知っていますよね、今回の事」
女神であり、家族の一員クッカに対しての細やかな気配り。
さすがは、ミシェル。
空中のクッカが、嬉しそうにVサインを出す。
「ああ、知ってる。と、いうか今回もサポートしてくれたよ」
「うふふ、了解です。それとジャンは必ず無事に連れ帰って下さい」
ステファニーの身代わりとなった、ジャンの事を心配するミシェルに、嫁ズ全員も頷いた。
よし!
ここは、安心させてやらねばなるまい。
「分かっているさ。作戦は、今の所ばっちりだし、何かあれば、ジャンからは念話ですぐ、連絡が入る事になっている」
「あ、あのクッカ姉って……」
ステファニーが、首を傾げて聞いて来た。
実際、クッカは空中に浮かんで俺達を見守ってくれてはいる。
だが、嫁ズには姿が見えない。
ただ、少し前にリゼットが西の森で会話したように、他の嫁ともこの家で話している。
なので、ステファニー以外には、その存在を認識されているのだ。
そんな事情を、俺が改めて説明してやった。
「め、女神様が!?」
驚くステファニーに、嫁ズのコメントも相次いだ。
「うん! でも凄く優しいの。私にハーブの事を色々と教えてくださったわ」と、リゼット。
「私達にもよ!」
「そうそう」
「凄く助かったのですよ」
レベッカ、ミシェル、クラリスが口を揃えて強調したので、ステファニーは目を輝かせた。
前にも言ったが、この世界の女性は、概して信心深いのである。
「私もぜひ話してみたい」
ワクワク感出しまくりでステファニーが身を乗り出すが、ミシェルがストップを掛けた。
「まあまあ、それはおいおいと! それよりもまず朝御飯食べようか、そしてステファニーは、旦那様の作戦通りに変身しなくちゃ!」
「はいっ!」
「じゃあ、旦那様」
リゼットが、俺に朝食開始の音頭を取るよう呼びかける。
「おっし! じゃあ皆で朝飯食べよう、頂きま~す」
「「「「「頂きま~す」」」」」
ステファニーを新たに嫁に加えた、俺の新しい生活が、今ここに始まったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
朝食後……
ステファニーは嫁達が見守る中、俺の魔法により、髪の毛と瞳の色を次々と変えて行く。
美しいプラチナブロンドの髪と碧眼を持つステファニーは妖精のような雰囲気を持っている。
だが、元々鼻筋が通って顔立ちが整った美少女だから、どのような髪と瞳の組み合わせでもバッチリ似合う。
髪の色は俺と同じ黒に始まり、
瞳の色は最も数の多いブラウンに始まり……
変身するステファニーへ、嫁達の歓声と溜息が交錯する。
派手で美しい色も凄く良かったが、今回変身する趣旨は目立たずに、ボヌール村で暮らして行く為だ。
……結局、髪は俺と同じ黒、瞳は茶にて決定した。
こうなると、顔立ちは同じでも印象が全く違ってしまい、誰もステファニーとは気付かない。
服をどうしようかという話になったが、ステファニーは背格好がクラリスに近かったのも、幸いした。
クラリスは、手先が器用な子だ。
裁縫が趣味であり、腕前はプロ級である。
聞くと、未使用の手作り服をいくつか持っていたので、取りに行ってくれた。
暫し経って、クラリスは戻って来た。
作った服を見ると、とても可愛い。
早速、ステファニーに着て貰った。
ああ、すっごく似合う。
こうして……
美しいが、ひとりの平凡な村娘が、誕生したのである。
クラリスが一緒に持って来た鏡で、自分の姿を見たステファニーはとても嬉しそうだ。
最後は、新しい名前を決めなくてはならない。
「ステファニー、お前の名前はどうしようか?」
「ええっと、ケン様……旦那様が好きな名前を付けてください」
「好きな名前!?」
「はいっ! 旦那様にお任せします」
「分かった、時間をくれないか。……ちょっと考えるよ」
恰好いいけどあまり仰々しい名前は駄目だし、軽すぎても難ありだし中々難しい。
子供の名前を考えるのって大変なんだろうなと、つい考えたりもした。
暫く考えて……決まった。
「ええと……ソフィって、名前はどうだろう?」
「ソフィ……とっても、良いかも!」
「そうか! じゃあ今日からお前はソフィだ」
「ようし、生まれ変わった私はソフィね。頑張るわ、宜しくね、旦那様」
ああ、髪と瞳の色が変わっても、可憐な笑顔は変わらない。
俺は、改めてステファニーに惚れ直したのであった。