第76話 「いろいろな可能性」

文字数 2,625文字

 レベッカへは「何か悩みがあればすぐ俺に言え!」と両手を広げてやった。
 夫として、男として、何かあれば頼れ。
 遠慮なく俺の胸へ飛び込めと告げたのである。
  
 飛び上がって喜んだレベッカは、甘えまくり。
 超デレ状態となった。
 まあ彼女は、俺の前ではいつもそうではあるのだが……
 とにもかくにも、明るい狩人レベッカが『完全復活』して、俺は嬉しい。
 
 モチベーションが上がり、勢いがついた俺達は兎だけでなく、鹿もゲット!
 獲物もたっぷり獲れたので、レベッカは更に復活感が増したようだ。
 
 ところであの『事件』の際、俺が倒したオーガは葬送魔法で……塵にした。
 襲われたレベッカが、とても嫌がったからだ。
 葬送魔法は、誰もが忌み嫌う不死者(アンデッド)防止対策として有効だ。
 本当は……オーガの部位を俺の小遣い稼ぎ用にしたかったけど。
 
 実はエモシオンで自分の買い物が出来なかった不満から、俺の小遣い捻出作戦をあれこれ検討中。
 オーガクラスの魔物の部位は、結構な金になるらしいので。
 
 どうせ、治安を保つ為、奴らをたくさん討伐しているから一石二鳥だ。
 構想は、ほぼ完成しつつある。

 そんなこんなで、狩りが終わった。
 時刻は、もう夕方。
 夕日がさす中を俺は、レベッカと一緒に無事ボヌール村へ戻って来た。
 
 村の正門が見えて来て、レベッカが、思い出したように言う。

「ダーリン、獲物……まだ春だから少しはもつけど、早めに保存処理しないと」

「保存処理?」

「そう、保存処理」

 ここでいう保存処理は、取った獲物を猟師が腐らせないようにする事。
 とても大切なのは分かるけど、俺は方法を知らない。
 一体どうするのだろう?
 
「教えてくれない、それ」

 俺が聞くと、『復活レベッカ』は詳しく教えてくれる。

「うん、良いよ! 獲った獲物はね、夏とか気温が高い時期だと『足が早くなる』からあっという間に傷んじゃう。狩った時に応急の血抜きだけはしてあるけど、腐らせないように肉を処理しておくの」

「成る程」

「処理した肉はね、塩漬けか、燻製にするのよ。いわゆる保存食ね」

「……保存食は重宝するからなぁ」

「うん! 貴重だよ。でもさ、こんな事言っちゃ駄目なんだけど……私さ、狩るのは好きなのに、帰って来てからの獲物の保存処理って少し面倒臭いんだよね」

「あはは、分かるよ」

 肉の保存か……
 確かに、ちゃんと処理をしないとすぐ傷んでしまうらしい。
 何せ、この世界には魔法はあるけど、電気冷蔵庫など無いのだから。

 ん?
 冷蔵庫?
 だったら、良い方法がある。

 俺はパッと(ひらめ)いた。

「だったら、氷室でも造るか」

「氷室? 氷室って何?」

 どうやらレベッカは、氷室を知らないらしい。
 俺は、思わず尋ねてしまう。

「え? 氷室を知らないの」

「うん! 何か聞いた事があるような気はするけど、はっきりとは知らない」

「ええっと……氷室っていうのはね」

 俺はレベッカに『氷室』をざっくり説明する。
 念の為……
 氷室とは文字通り氷、または雪を貯蔵する部屋の事だ。
 貯蔵された氷や雪により、低温に保たれた室内には、主に食料品が保存される事が多い。
 前世の冷蔵庫にあたる。
 住んでいる場所の気候にもよるが、保冷用の氷をもたせる為に、おがくずをまぶすとか、いろいろ小技(こわざ)を使う必要がある。

 俺の話を聞き、どうやらレベッカは、氷室に興味を持ったようだ。
 
「へぇ! 良いね、それ。作れたら他にも役立ちそう」

「だろう? 帰ったら皆で相談しよう」

 俺とレベッカは、自宅へ帰らずに大空屋に行く。
 最近は、大空屋で嫁ズと一緒に夕飯を摂る事が多い。
 
 将来の共同生活に備えて少しずつ慣れて行こうという趣旨で、嫁ズの親からもOKを貰っている。

「旦那様、レベッカ、お帰りぃ!」
「お帰りなさい!」

 今日、店番をしていたのはミシェルとリゼット。
 リゼットもこの前の手伝い以来、大空屋の店番を仕事のローテに入れた。
 楽しそうにやっている。
 将来、ハーブを売る練習でもある。

「お疲れ様でした」

 農作業を終えて戻っていたクラリスも、一緒に店番。
 この子も、本当に良く働く。
 必殺の癒し笑顔で、出迎えてくれたのである。

 クッカが実際に食べられないのだけ残念だが、家族全員で摂る夕飯は楽しい。
 わいわいがやがや……今日あった事を報告し合う。

 レベッカは自ら、話す。
 トラウマがあった事。
 今日俺と狩りへ行って慰め、力付けて貰った事。
 そして立ち直れそうだと……

 復活したレベッカを、誰もが自分の事のように喜んでくれる。
 家族誰かの幸せは、皆の幸せ。
 俺の嫁ズは皆、本当に良い子ばかりだ。

 ――夕飯後

 お茶を飲みながら、『氷室』の話をした。
 レベッカは既に賛成していたが、予想通り全員が大の付く賛成であった。
 
 嫁ズからは、いろいろ使用方法の意見が出た。
 氷室は汎用性があるという意見が大半、レベッカの獲物を長期保存するだけではない。
 大空屋の倉庫にしたいというミシェルの希望も出た。
 仕入れた肉や野菜の『在庫』が長持ちするって。
 今よりも、扱える商品の幅がぐんと広がる可能性だってある。
 
 ちなみに、今は春真っ盛りで氷も雪も無い。
 だから俺の水属性魔法で、両方を人工的に作るつもりだ。

「じゃあ旦那様、おいおい氷室と外柵と一緒に少しずつ造ろうね」

 ミシェルの言う外柵というのは……
 正門の外にある。
 農地の傍にある簡易な防護柵である。
 
 数年前に起きた大規模な魔物の襲撃の際に徹底的に破壊されてしまったという。
 これが無いと村民が農作業をしている際に、いきなり襲われてしまう可能性があるから。
 
 持ち回りで修復してしるのだが、普段の農作業等が優先してまだ半分くらいしか直っていないようだ。
 
 俺も、いずれは作業に従事する事になる。

 さてさて! 
 時間は、まだ宵の口。
 嫁ズとは、まだ話していたいところではある。
 だが……
 今夜はクッカとのデートが控えている。
 
 名残惜しそうな嫁ズへ、俺は「おやすみ」を言い、自宅へと戻ったのであった。
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登場人物紹介

☆ケン・ユウキ(俺)※転生前
本作の主人公。22歳。
殺伐とした都会に疲れ、学校卒業後は、子供の頃に離れたきりの故郷へ帰ろうとしていた。

だが、突然謎の死を遂げ、導かれた不思議な空間で、管理神と名乗る正体不明の存在から、異世界への転生を打診される。

☆ケン・ユウキ(俺)※転生後

15歳の少年として転生したケン。

管理神から、転生後の選択肢を示されたが……

ベテラン美女神のサポートによる、エルフの魔法剣士や王都の勇者になる選択肢を断り、新人女神のクッカと共に、西洋風異世界の田舎村ボヌールへ行く事を選ぶ。

併せて、分不相応な『レベル99』とオールスキル(仮)の力が与えられたケンは、ふるさと勇者として生きて行く事を決意する。

☆クッカ

管理神から、サポート役として、転生したケンを担当する事を命じられたD級女神。

天界神様連合、後方支援課所属。たおやかな美少女。

ど新人ながら、多彩な魔法と的確なアドバイスでケンを助ける。

初対面のケンに対し、何故か、特別な好意を持つ。

本体が天界に存在する為、現世に居る時は幻影状態である。

☆リゼット

転生したケンが草原で、ゴブリンの大群から救った、15歳の健康系さわやか美少女。

ケンの新たな故郷となる、異世界ヴァレンタイン王国ボヌール村、村長ジョエルの娘。

身体を張って、守ってくれたケンに対し、ひとめ惚れしてしまう。

☆クラリス

リゼットの親友で、垂れ目が特徴。
大人しく優しい性格の、15歳の癒し系美少女。
子供の頃、両親を魔物に殺されたが、孤独に耐え、懸命に生きて来た。

☆レベッカ
ボヌール村門番ガストンの娘で、整った顔立ちをした、18歳のモデル風スレンダー美少女。
弓術に長けた、優秀な戦士で狩人。猟犬のトレーナーも兼ねている。
ツンデレ。面食いで、イケメン好き。ミシェルとは親友同士。

☆ミシェル
ボヌール村唯一の商店、万屋大空屋の店主イザベルの娘。
経済感覚に長けた、金髪碧眼の超グラマラス美少女で18歳。拳法の達人。
おおらかで明るい性格故、表には出さなかったが、父親を魔物の大群に殺された過去があり、生きる事に絶望していた。レベッカとは親友同士。

☆ステファニー

ボヌール村領主クロード・オベールのひとり娘。17歳。

オベール家の本拠地、エモシオンの町にあるオベール家城館に在住。

派手な容姿の美少女。わがままで高慢。

いつも従士の3人を引き連れ、エモシオンの町を闊歩している。

実母は既に故人。最近来たオベールの後妻と、母娘関係が上手く行っていない。


☆クーガー

この世界に突如降臨した女魔王。不思議な事にクッカそっくりの容姿をしている。

何故か、ケンに異常なほどの執着を持つ。

☆リリアン

夢魔。コケティッシュな美女。

魔王クーガー率いる魔王軍の幹部。

ある晩、突如ケンの前に現れ、クーガーがボヌール村を大軍で攻める事を告げる。

☆管理神

ケンの住む異世界を含め、いくつかの世界を管理する神。

口癖に独特な特徴がある。


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